Yahoo!ニュース

JRでもっとも厳しいのは「東日本」?……都市部がローカル線網を支え切れず 輸送密度と営業係数で見る

小林拓矢フリーライター
陸羽東線のキハ110形(写真:イメージマート)

 JR旅客各社(JR東海を除く)は近年、輸送密度2,000人/日未満の線区データを発表しているが、2021年度分のデータが先日ようやく出そろった。経営実績では「厳しい」と言われる社が実はそれほど深刻な線区は多くなく、経営が盤石そうな社に深刻な路線があるという意外な結果となっている。

 興味深い数字を見ながら、解説していこう。

「厳しい」はずのJR九州、深刻な路線は1つ

 JR九州は、コロナ禍で利用者が減少し、運行本数も減らしていると近年言われている。だが、致命的に利用者が少ない路線は実はないのだ。

 同社で輸送密度がもっとも低いのは豊肥本線の宮地~豊後竹田間で、輸送密度は129人/日。営業係数は619(※100円の運輸収入を得るのに要した営業費用を示す指標。JR九州のみデータから筆者計算。ほかは公表資料より)。この区間は大分県と熊本県の県境区間で、特急以外の利用が少ないと思われる。この輸送密度でも営業係数は深刻ではない。

 続いて低いのは筑肥線の唐津~伊万里間で、輸送密度は184人/日、営業係数は658。

 いっぽう、JR九州で営業損益がマイナス6億9,500万円ともっとも悪い日豊本線の佐伯~延岡間は、輸送密度は431人/日、営業係数は304となっている。

 よく問題になる指宿枕崎線の指宿~枕崎間は、営業損益マイナス4億9,400万円、輸送密度240人/日、営業係数1,864である。JR九州で営業係数が厳しいのはこの路線といえるものの、輸送密度は少ないながらも最下位ではない。

 営業係数は100を超えると赤字だが、1,864と極端に悪い指宿枕崎線の指宿~枕崎間でも、バスにするなら増便が必要だと考えられる区間である。高校生の通学需要などがあるのだ。また、輸送密度が100人/日に満たない区間もない。

 JR九州の場合、不動産業やホテル・飲食業などの副業が本業での赤字をカバーする構造になっており、コロナ禍前には鉄道事業収入は比較的高い水準で推移していた。厳しい路線はコロナ禍さえ収束すればある程度は守られる、という構造になっている。

暖地のメリットを活かしたJR四国

 JR四国は、営業係数が100以下の路線はなく、全路線が赤字となっている。その意味で、経営としては厳しい状況にある。輸送密度で目立つのが予土線の北宇和島~若井間で、195人/日、営業係数は1,761となっている。続いて輸送密度が低いのは予讃線の向井原~伊予大洲間の「海線」で、輸送密度274人/日、しかし営業係数は626である。逆に、営業係数で目立つのが牟岐線の阿南~阿波海岸間で、1,096となっているものの、輸送密度は370人/日である。

 JR四国の場合、万単位の利用者がいる区間でも赤字が目立っており、その分大きな損失を出しているということになる。本四備讃線や予讃線の高松~多度津間といった利用の多い線区の赤字額が目立っており、その影響が気になるところではある。

 本四連絡橋の更新料負担や、コロナ禍による利用者減の影響は大きい。しかし、暖地ゆえ営業費用は小さく、多少の値上げがある上でコロナ禍さえ落ち着けばなんとかなるのではないかという見通しも立てられる。

JR四国の収支と営業係数の図(JR四国プレスリリースより)
JR四国の収支と営業係数の図(JR四国プレスリリースより)

営業費用をどうするかが課題のJR北海道

 いっぽう、寒冷地にあるJR北海道。根室線の富良野~新得間(バス代行区間を除く)は輸送密度50人/日、管理費含めた営業係数は3,287。留萌線の留萌~深川間が輸送密度90人/日、管理費含めた営業係数2,183。留萌線は廃止の方向で話が進んでおり、留萌~石狩沼田間は2023年4月1日に廃止される。その他、輸送密度が3ケタの線区、営業係数が4ケタの線区は多い。

 札幌圏の赤字は減少したものの、北海道新幹線の赤字が拡大したという状況にある。

 JR北海道の場合、運行するのは閑散地が多く冬には雪も降るため、営業費用がかさむ。宗谷線の名寄~稚内間では30億1,800万円かかるなど、収入や利用者に比して支出の多い区間も存在する。しかし「安全」のためには支出を削るわけにはいかない。このあたりは難しいところがある。

閑散線区での低輸送密度が目立つJR西日本

 JR西日本を見てみると、輸送密度で目立つのは芸備線東条~備後落合間の13人/日で、営業係数はなんと23,687となっている。なお営業係数は2019年度から2021年度の3年間平均としている。同社では、コロナ禍が始まる前の2019年度に輸送密度2,000人/日未満だった路線のデータも公開しており、コロナ前から厳しい路線を分析対象にするのはフェアといえるだろう。

 続いて木次線出雲横田~備後落合間が輸送密度35人/日、営業係数は7,453である。大糸線南小谷~糸魚川間は55人/日、営業係数が4,295となっている。輸送密度2ケタの路線はまだ2路線あり、閑散線区でも利用者がいるJR九州やJR四国に比べて、利用者そのものがいない路線がある。営業係数が悪すぎる路線も。

 JR西日本の場合は、関西都市圏や山陽新幹線の利益で閑散線区の運営に資金を投ずるという構造になっていた。だがコロナ禍でそれが崩れ、中国山地エリアや山陰エリアなどでの大きな営業損益が目立つようになっている。大都市圏があるからこそ成り立っていた補完関係が維持できない状況になっている。

 その状況がもっとひどいことになっている社がある。

巨大都市・東京が支えきれなくなっているJR東日本の路線網

 JR東日本は、関東圏の通勤輸送と新幹線が経営の屋台骨となっており、それが東北などのローカル線を支える構造になっている。

 輸送密度で目立つのは、陸羽東線の鳴子温泉~最上間の44人/日、営業係数は20,031。久留里線久留里~上総亀山間は輸送密度55人/日、営業係数は19,110。山田線の上米内~宮古間は輸送密度55人/日、営業係数は5,877。花輪線の荒屋新町~鹿角花輪間は湯祖密度58人/日、営業係数は12,471。飯山線の戸狩野沢温泉~津南間は輸送密度63人/日、営業係数は14,839である。ほかにも、北上線のほっとゆだ~横手間、只見線の只見~小出間、磐越西線の野沢~津川間、津軽線の中小国~三厩間の輸送密度が2ケタである。

JR東日本の輸送密度(平均通過人員)の少ない路線(JR東日本プレスリリースより)
JR東日本の輸送密度(平均通過人員)の少ない路線(JR東日本プレスリリースより)

 JR東日本の場合は、路線の末端部で輸送密度が低いところは少なく、中間部で輸送密度が低いところが多いのが問題となっている。終点からの3駅間の指数が悪い久留里線のようなケースは少ないのだ。切るに切れない路線網を多く抱えていて、しかも災害時に不通になりやすい区間となっている。

 以前は、これらを関東圏の通勤輸送が支えていた。また、駅ナカ事業などが行われるのも鉄道を維持していくためである。

 またJR北海道ほどではないにせよ、東北地方や信越地方の路線は雪の影響を受けるところが多く、そのための費用もかかる。

 広大な路線網で厳しい状況となっているため、JR東日本はなりふり構わない合理化をしようとしている。

 暖地だからこそ経営状態がなんとかなっている社もあれば、巨大すぎてどこから不採算路線に手をつけていいかわからない社もある。とくにJR東日本は、鉄道業界での存在感や企業活動の華やかさに比して、実態は厳しい状況に陥っているのではないだろうか?

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事