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先月開業の西九州新幹線にはどんな「効果」があるのか 最大限に新幹線を活かすには?

小林拓矢フリーライター
西九州新幹線「かもめ」(JR九州プレスリリースより)

 完成前には、「博多とつながらない新幹線に意味はあるのか?」などと揶揄(やゆ)された西九州新幹線。しかし開業してみれば、多くの乗客が押し寄せ、利用者は在来線特急「かもめ」時代よりも上向いている状況にある。

 西九州新幹線の開業は、沿線地域の活性化や地方交通の充実化につながるのか?

博多~長崎間の速達化は?

 長崎県から佐賀県を結ぶ西九州新幹線が9月23日に開業したことで、博多~長崎間の所要時間は最速で1時間20分となり、これまでの最速列車での1時間50分より30分短縮された。在来線時代の「かもめ」には、車体を傾けることで高速でカーブを通過できる「振り子式」車両の885系と振り子式ではない787系が使用されており、787系の列車は所要時間がかかる傾向があった。

 長崎本線は当時の肥前山口(現在の江北)駅より長崎側はほとんどが単線であり、列車の行き違いも多く、博多~長崎間で2時間を切っていたのはダイヤに余裕のある時間帯のみだった。

 そんな状況で、西九州新幹線が武雄温泉(佐賀県)~長崎(長崎県)間で部分開業した。全線複線だから、行き違いなどは考えずダイヤがつくれる。本数も増やせる。

 新規路線の開業により、これまで長崎本線が単線であるがゆえの困難から解き放たれ、高速化がより可能なフル規格新幹線ということもあり、交通環境が抜本的な改善がなされることになった。

 それに合わせて、佐世保線の江北~武雄温泉間の一部、大町~高橋間の複線化も行われた。ここを複線化することで、特急「リレーかもめ」が走ることが可能になった。ほんとうは江北~武雄温泉の全区間が複線化するというのが望ましいものの、「リレーかもめ」の停車するホームは決まっており、そのホームで「かもめ」対面乗り換えとなるので1線しか使わず、問題になりにくいと考えられる。

沿線地域の振興は?

 西九州新幹線のルートは長崎本線とは違い、有明海沿いを走るのではなく、武雄温泉から新大村に出て、大村湾を横目に長崎へと向かう。

 新大村のある大村市は長崎県で4番目に人口の多い市である。大村線沿線は、長崎本線の江北~諫早間と比較すると普通列車の列車本数も多く、この新幹線開通で博多方面へのアクセスは大きく向上した。

 大村市は長崎市と佐世保市の中間にあり、これまでは博多へのアクセスに難があった。しかし、西九州新幹線ができたことで(武雄温泉での乗り換えこそあるものの)ダイレクトに博多にアクセスできるようになった。これにより、大村地域の経済的なポテンシャルが開花する可能性がある。

 武雄温泉の隣駅である嬉野温泉にも期待が高まる。嬉野温泉は、温泉地として知られていながら、これまでバスによるアクセスが中心であり、交通の便は決していいとはいえなかった。しかし、西九州新幹線で嬉野温泉へのアクセスは向上し、博多からも長崎からも行きやすくなった。とくに長崎からのアクセスは格段に良くなった。大村湾エリアや、嬉野温泉エリアといった沿線の地域振興にも資することとなり、部分的な開業でも十分に役立つこととなった。

嬉野温泉駅(JR九州プレスリリースより)
嬉野温泉駅(JR九州プレスリリースより)

西九州新幹線と組み合わせた観光需要の創出

 西九州新幹線の開業は、西九州新幹線に乗ろうとする人を呼び込む。鉄道に乗ることそのものを目的とする人たちがいるのだ。

 そうしたニーズを汲み取った観光特急を、JR九州は運行開始した。「ふたつ星4047」である。午前中の便は武雄温泉発、江北経由で長崎本線を有明海沿いに進み、長崎に到着。在来線特急「かもめ」では停車しなかった肥前浜、多良、小長井にも停まり、ホームに立って海の見える風光明媚な景色などを味わうことも可能だ。

 午後の便は長崎発。大村湾を眺めるルートで、諫早を出ると新大村や千綿(ちわた)、ハウステンボス、有田に停車し、武雄温泉へ。大村線の一部区間では徐行し、千綿のレトロ駅舎も楽しめる。

 車内サービスも充実している。予約が必要なお弁当や洋菓子だけではなく、予約なしで味わえる嬉野茶やスイーツ、お酒などもある。

「ふたつ星4047」のどちらかの便と、西九州新幹線を組み合わせることで、佐賀・長崎エリアの鉄道の旅を満喫することができそうだ。

「ふたつ星4047」と西九州新幹線(JR九州プレスリリースより)
「ふたつ星4047」と西九州新幹線(JR九州プレスリリースより)

ローカル輸送の充実を

 西九州新幹線は、これまでの長崎本線とは異なるルートに開業したため、人の移動も変わった。

 たとえば長崎本線時代の特急「かもめ」は、肥前鹿島~諫早間に停車駅はなく、普通列車も少なかった。9月23日のダイヤ改正でも、この区間の普通列車の本数は大きく変わっていない。

 快速列車を含む普通列車は、むしろ大村線のほうが充実しているとさえいえる。佐世保市と諫早市を結ぶこの路線は、多くの列車が運行している。新幹線との連携で利用者も増えるだろう。

 いっぽうで、人口が少ない地域とはいえども、これまで普通列車の少なかった長崎本線肥前鹿島~諫早間の充実も地域活性化のために必要である。単線区間で特急街道であるがゆえに、普通列車を多く設定できなかったのなら、そこを改善してもいいのではないか。電車から気動車に置き換え、コスト削減をするだけではなく、これまで不可能だった閑散区間の乗車促進にも力を入れてほしい。

 フル規格かスーパー特急か、フリーゲージトレインを入れるかなどさまざまな議論のあった西九州新幹線。武雄温泉から新鳥栖までの整備方式はまだ決まっていない。しかしフル規格で新幹線が部分開業したからにはまずは最大限に活かし、地域の公共交通をより充実させることに期待したい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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