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ローカル鉄道、どう廃線を回避する? 鉄道を軸とする「地域活性化」戦略こそが必要だ

小林拓矢フリーライター
JR西日本のローカル線で活躍しているキハ120形(写真:イメージマート)

 鉄道事業者が、輸送密度の数字を出して「地域との話し合いが必要」と述べ、廃線の可能性を主張することがある。とくにコロナ禍が深刻化してから、過疎地の路線を支えていた都市部の輸送実績や、鉄道事業者の「副業」の業績も悪化していったため、このままでは維持できないという問題意識が高まり、ローカル鉄道の今後をどうすべきなのかという議論が巻き起こっていった。

 その中で、国土交通省では「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」を2月14日に立ち上げた。

 なぜ、この検討会は立ち上がったのだろうか?

ローカル鉄道に対する危機感

 ローカル鉄道は、沿線人口の減少や少子化に加え、マイカーへの移行などにより利用者が大幅に減少し、鉄道事業者の規模にかかわらず危機的な状況にある。コロナ禍の中で外出自粛などがあり、生活スタイルも変わってきた。

 鉄道事業者も、利用促進策を講じるほか、減便や減車などのコスト削減策を実施してきた。しかしその動きが、沿線自治体や利用者から見ると、利便性や持続性で心配や懸念を抱かせるようになっている。

人口の少ない地域を走る鉄道
人口の少ない地域を走る鉄道写真:イメージマート

 ローカル鉄道は長年にわたり地域の基幹的・広域的公共交通の役割を担っており、二次交通など地域の公共交通のありかたを左右する。

 しかし、鉄道事業者だけがローカル鉄道のあり方を考えればいい時代ではない。国鉄時代末期の特定地方交通線の廃止のときのように、まず中央が基準を決めて、それを全国にあてはめるというわけにはいかない。現在は、全国各地の沿線自治体がローカル鉄道のあり方を「自分ごと」としてとらえ、鉄道事業者と協力して利用促進を図り、上下分離などで経営リスクを分担して利便性や持続性の向上に努めるようになっている。また、利用者の視点から積極的に鉄道からLRT・BRT・バスなどに転換するケースが増えている。

 この検討会では、ローカル鉄道を鉄道事業者まかせにせず、人口減少社会の中で鉄道事業者と地域が危機意識を共有、相互に協力しながら利便性・持続性の高い地域モビリティを再構築するかを議論した。そして国は、どのような政策を取るべきかも考えている。

 この検討会は7月25日までの5回にわたって行われ、この日に提言が出ることになった。

 提言書の中で、どうローカル鉄道が再生されたかについて、事例が紹介されている。この提言書は興味深いので紹介したい。「縦割りの打破」がキーワードとなる。

「縦割りの打破」で鉄道事業は再構築される

 世の中の組織というのは、おおよそ「縦割り」である。しかしその「縦割り」を打破し、地域の実情に合致させ、持続可能な体制をつくりあげた鉄道は、なんとかやっていけるのである。

 たとえば第三セクター化だ。地方自治体が経営に直接関与する第三セクター事業者になることで、地域との連携が大幅に改善し、利便性や持続可能性が向上する。たとえばあいの風とやま鉄道は、増便やダイヤ設定、駅の新設などで利用者が増加した。

 上下分離で鉄道事業者は運行だけに特化するという考えかたもできる。この方式を利用することにより、鉄道事業者は施設や車両を貸借対照表から切り離すことができ、減価償却費や固定資産税の負担がなくなる。地方自治体の判断で施設や車両の使用料が減免されれば収支面の改善にもなる。京都丹後鉄道のように新規参入が生まれたり、施設などの保有主体が地方自治体の福井鉄道のように都市政策やまちづくり・観光政策との連携も可能になったりする。この上下分離の導入により、事業運営の改善インセンティブが働くようになる。

新しい取り組みを続ける京都丹後鉄道
新しい取り組みを続ける京都丹後鉄道写真:イメージマート

 車両の購入支援はJR北海道で行われ、駅施設の他施設との合築も各地で行われている。これらは鉄道事業者への負担減につながる。

 交通システムそのものにメスを入れるケースもある。JR四国の牟岐線の一部区間では、並行する徳島バスと運賃や乗車券を共通化、利便性を向上させている。JR西日本の富山港線のように、LRT化し本数増で利用者増となった例もある。BRT化・バス化で柔軟な路線を設けられる例も。BRTは根拠となる事業法が分かれているという課題がありその解決も必要だ。

富山港線から転換した富山ライトレール。現在は富山地方鉄道に。
富山港線から転換した富山ライトレール。現在は富山地方鉄道に。写真:イメージマート

 鉄道事業再構築の実例は多くある。

 では、この検討会ではどんな提言が出たのか? そしてその提言に対してどう取り組んでいくべきなのか?

地域の発展に貢献する公共交通への変化を

 成功例の中には、沿線自治体が積極的に関与したことで、改善へとつながったケースも多い。提言書でも、次のように書かれている。

 危機的な状況にあるローカル鉄道では、単なる現状維持ではなく、真に地域の発展に貢献し、利用者から感謝され、利用してもらえる、人口減少時代にふさわしい、コンパクトでしなやかな地域公共交通に再構築していくことが必要であるとする。その際には国や地方自治体、鉄道事業者の協力が不可欠である。

 大事なのは沿線自治体である。現在の鉄道が、地域住民の通学・通勤・通院などの日常生活や観光をはじめとする交流人口の拡大における役割を考え、地域公共交通活性化再生法に基づく枠組みを通じて、ローカル鉄道のあり方の見直しに積極的に取り組むべきだとする。とくに都道府県の役割は大きいとする。

 鈴木直道北海道知事は聞いているのかと言いたくなる内容である。中国地方で廃線が取りざたされている路線も多くあるので、これらの県の保守系知事(中国地方は自民党がとくに強い)にも考えてほしいテーマである。また、優等列車や貨物列車が市町村や都道府県の圏域を越えて走行している線区や、災害時や有事に貨物列車が走行する蓋然性が高い線区などには国が積極的・主体的に関与することが期待されている意見も多い。長期にわたって地方を衰退させてきた政治の責任も問われているのだ。いっぽうで鉄道事業者の情報公開も必要としている。

 どうすべきかの協議会を設けるのは、都道府県が中心となるのが望ましいとする。JR各社では輸送密度2,000人を下回ると利便性と持続可能性の高い鉄道サービスを保つのが困難になるという考えを示す。ここが協議会の立ち上げの目安となると検討会では考えている。

 さらに特定線区再構築協議会(仮称)を設置すべきなのは、利用者が著しく減少し、利便性や持続可能性が損なわれ、対策が必要な路線である。たとえば、特定時間への利用が殺到しないで平常時の輸送密度が1,000人を切っている線区や、複数の自治体や生活圏にまたがり広域的な調整が必要な路線だと認められるところである。

 JR北海道やJR西日本、JR九州の多くの路線はこの分類に入っている。

 その路線でどんな交通システムが有効かを検討することが必要だ。

 いまだ廃止になっていない多くの路線は、国鉄時代にネットワーク上の観点から残った路線であり、営業係数の数字が大きくなっている路線も多い。

 しかし鉄道を存続させるには、地域戦略と利用者の視点に立った鉄道の活用と競争力の回復が求められる。バスなどでは鉄道以上の利便性向上が必要だ。特定線区再構築協議会ではさまざまな実証事業を行い、対策を立てなければならない。

 バス転換で定時性・速達性の低下や道路交通への悪影響があり、まちづくりや観光戦略上鉄道が不可欠な要素となっている場合は、地域戦略を立て、その中で鉄道を活かす。

 ただそれでも、鉄道を残せないところはどうしても出てくる。そこはバス転換しかない。

 支えられる鉄道は支える、支えられないところは支えない、しかし国や都道府県の積極的な関与が必要で、地域戦略の中に鉄道を位置づけるというのが、提言書の趣旨である。

 いままで国政も地方政治も、地方の鉄道をどうするかということについては冷淡だった。そもそも衰退の中で、地方をどうしていくかという戦略を立てることすら難しかった。どこか鉄道事業者まかせのところもあった。

 その状況を変えるきっかけとなるのが、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言書であり、政府や都道府県は公共交通をどうするかを早急に政治的な論点にしていくべきである。そのためには、セクションごとの「縦割り」の発想をなくして地域のことを総合的に考えることが必要だ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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