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東京メトロが無料Wi-Fi終了、東武も廃止 その理由と背景は? でも新幹線にはある

小林拓矢フリーライター
新型の車両ではWi-Fiなども充実させようとしていたのだが……(写真:イメージマート)

 この記事をいま東京メトロの車内でお読みの方は、なにか気づいているのではないだろうか。これまでは東京メトロの列車の中で無料Wi-Fiが使用できていたのだが、7月1日から使用できなくなったのだ。それゆえ、スマートフォンにはWi-Fiの表示ではなく、「4G」「LTE」「5G」といった表示が出てくるようになっている。

東京メトロ、6月30日で無料Wi-Fi終了

 東京メトロでは、6月30日をもって、訪日外国人向け無料Wi-Fi「Metro_Free_Wi-Fi」の鉄道車内での提供を終了した。あわせて、NTTドコモの無料Wi-Fiサービス「d Wi-Fi」も、サービス提供が終了となった。なお、駅構内での同様のサービスは今後も続けていくという。

 いっぽう、ワイヤ・アンド・ワイヤレスが提供している、訪日外国人向けWi-Fiサービス「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」や、有料Wi-Fiサービス「Wi2 300」は、引き続き使用できる。

 無料の、NTTドコモ系のWi-Fiサービスが終了していくのに対し、有料の、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(au系)のWi-Fiサービスが残っているという状況になっている。

 鉄道内でも提供されている、NTTドコモの「d Wi-Fi」は、実際に使用している立場からすると、移動しながらでの使用はよく切れ、接続しにくいことも多い。接続しても、回線が重いこともある。とくに列車内での使用に関しては。

 そのため、個人的には存在は意識しているものの、あまり期待できるサービスではないと思っている。もちろん、カフェなどでは使用することはあるものの、短時間の滞在であるため強く意識することはない。

 そんな状況で、Wi-Fiとして十分な役割を果たせたのかということも考えられる。接続しにくい、接続したとしても多くの人が利用しているWi-Fi、さらにセキュリティの面から気になることがあるというサービスは、はたして無料で維持できたのだろうかということがいえる。

 終了の理由として、Wi-Fiサービス提供事業者との契約満了というのがある。

列車内でのWi-Fi使用はどれだけあったのか?
列車内でのWi-Fi使用はどれだけあったのか?写真:イメージマート

 また東武鉄道でも、無料Wi-Fiの終了が報じられている。「乗りものニュース」の記事(「なぜ? 鉄道やバスの車内Wi-Fiが相次ぎ終了 外国人が来なくなったから?」)によると、スカイツリーラインの東武50000型や東上線の50070型でWi-Fiサービスが終了するという。理由は費用面の問題だという。

東京圏通勤電車のWi-Fi提供状況

 では東京圏の通勤電車での無料Wi-Fi提供状況はどうなっているのかを見ていこう。JR東日本では、山手線をはじめ多くの通勤電車で備えられていない。京急・相鉄・東急・小田急はなし、京王は5000系のみ、西武は40000系のみ、東武は50090型と70090型・60000系、京成はなしとなっている。ここで「なし」としているところでも、有料のWi-Fiサービスならば備えられているケースはある。

 無料Wi-Fiが提供されているのは、有料特急列車やライナー列車の車両が中心で、また駅構内でも提供されている。つまり、通勤電車の中では、もともとはWi-Fiが提供されていないケースが多かったのだ。

駅構内ではWi-Fiが使用できる
駅構内ではWi-Fiが使用できる写真:イメージマート

 そもそも、通勤電車に無料Wi-Fiは必要なのだろうか。

 まず、高速通信回線の普及が進んでいる状況がある。4GまたはLTE回線はほぼすべての場所にいきわたり、5G回線の普及も進みつつある。多くのスマートフォン利用者は、高速回線を使い放題の契約で使用している。その中にはテザリングも含まれるケースがある。

 無料のWi-Fiや、有料のWi-Fiサービスよりも、こうした高速通信回線のほうが使い勝手がいいことになる。セキュリティ面も問題はない。

 Wi-Fiの整備が進められていたころは、まだ3G回線の利用も多い時代だった。その中で高速化や安さが求められて、訪日外国人がどんどん押し寄せ、その中で「おもてなし」の一環として無料Wi-Fi整備が重視されていた。

 ところが状況は変わった。ローミングサービスも外国人向けSIMカードもあり、さらにコロナ禍でそもそも外国人が来なくなってしまった。

 いっぽう、通勤電車はそもそも長時間ゆったりと座ってパソコンを開けるような状況にはない。Wi-Fiを使うにしても、せいぜいスマートフォンだ。

 通勤電車内のWi-Fiはそもそも使い勝手が悪く、利用する人も短時間である。さらにスマートフォンの通信速度も速くなっていく。そんな中で、一部の車両にあった無料Wi-Fiは消えることになった。通勤電車でWi-Fiが消えるのは、状況としてしょうがないところはあるといえる。東京2020大会に向けて電車内Wi-Fiなども整備していたが、その大会も1年延期ののち開催され、終了してしまった。

 では、無料Wi-Fiサービスはどんなところで生きるのか?

新幹線や有料特急でこそ無料Wi-Fiは真価を発揮する

 無料Wi-Fiが真価を発揮するのは、長時間座ってパソコンを開いていられる列車である。すなわち新幹線や有料特急である。通勤型電車を使用したライナー列車用の車両も同様だ。こちらでは、無料のWi-Fiとそれに合わせたビジネス向けサービスが強化されている。

 2020年7月に運行が開始された東海道・山陽新幹線N700Sでは、無料Wi-Fiも完備されており、全座席にコンセントが備えられている。

 そのN700Sを中心として、昨年夏に「S Work」車両というのが整備された。「のぞみ」7号車をビジネスパーソン向けの車両とし、N700Sでは東海道・山陽新幹線に備えられているWi-Fiの2倍の通信容量が確保でき、接続時間制限もない。セキュリティ面にも配慮しているという。

 東北・北海道・上越・北陸新幹線も負けてはいない。8号車をやはりビジネスパーソン向け車両に整備している。

 在来線特急でも、最近の車両ではWi-Fiが使用できるものが多い。

 これらの車両では、座席でパソコンを広げる余裕がある。ふつうの通勤電車とは違うのだ。

 スマートフォンならば電話回線があるが、パソコンだとふつうは電話回線がない。それゆえに、無料Wi-Fiサービスが必要になってくる。

 スマートフォンの通信速度が向上し、またセキュリティ面も重視されるようになったため、もともと少なかった通勤電車の無料Wi-Fiは減ってしまった。いっぽう、新幹線や有料特急では、長時間座って乗車する人が多いため、Wi-Fiサービスを向上させている。ただ、駅構内のWi-Fiサービスは存在し続けている。

 鉄道会社の事情だけではなく、パソコンやスマートフォンをめぐる通信環境の変化でも、鉄道のサービスに変化をもたらすと言えそうだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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