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広島で「PASPY」終了 ユニバーサルな交通系ICカードサービスはどうするべきか?

小林拓矢フリーライター
広島県の公共交通では路面電車が大きな役割をはたしている(写真:イメージマート)

 広島県を中心に路面電車やバスなどの公共交通で利用されている交通系ICカード、PASPYが2025年ころに終了することが先日明らかになった。それを受けて路面電車などを運行する広島電鉄は、スマートフォンに表示させたQRコードや、新たな交通系ICカードを認証媒体とする新乗車券システムの開発に着手したと発表した。PASPYは2008年1月にサービスが開始され、これまで長い間使用されてきたが、機器の老朽化により更新に多額の設備投資が必要となり、システムの維持が困難になっていることから、サービスを終了するという。

 広島県内ではPASPYだけでなくJRのICOCAも導入されており、JR西日本のICOCA(やその他のSuicaなどの交通系ICカード)では広島電鉄などに乗ることができるものの、逆はできないという関係にある。

 独自の交通系ICシステムでは、維持費用が多くかかり、そのことが各公共交通事業者に大きな負担としてのしかかっていた。金銭的負担だけではなく、システム維持のための人手や、開発のための作業など、手間も必要であった。

 今回のPASPY終了により、アストラムラインを運行する広島高速交通は新システムに参加せず、JR西日本のICOCAのシステムを導入することにした。認証スピードの面でQRコードでは遅く、改札口の混雑を考えると断念したということである。

 いっぽう、『中国新聞』の報道(2022年3月5日朝刊)によると、QRコードと並行してICOCAなどを使えるようにした場合、開発費用はさらに膨らむという見通しを示している事業者もあるという。

 これまでのPASPYシステムでは、広島県への来訪者が一般的な交通系ICカードを使えていた。それがどうなるかはわからないという。

独自の交通系ICカードシステムは維持できるか?

 鉄道やバスの交通系ICカードシステムでは、SuicaやPASMO、ICOCAなどの主要なシステム以外にも、広島のPASPY、札幌のSAPICAなど、地域独自の交通系ICシステムが存在する。ある程度の規模の都市圏公共交通事業者によく見られる。

 地域の実情に合った交通系ICカードのサービスを提供するという考えがある一方、大きな鉄道会社のサービスを使用するための料金を支払いたくないという理由もある。

 だが、自前のサービスは当然ながら手間がかかる。独自の交通系ICカードを維持するための費用などが運用面の足かせとなり、それが象徴的に表れたのがPASPYの事例だった。

鉄道でのQRコードキャッシュレス決済の現状

 一時期、QRコード決済はキャッシュレス決済の目玉として多くの人に支持されたが、交通系ICカードに比べて決済の処理速度は遅かった。

 沖縄県の沖縄都市モノレールでは、きっぷのQRコードを読み取らせる改札機を導入しているものの、実用段階に至っているのはこのくらいである。いっぽう、沖縄都市モノレールでは定期券はOKICAという交通系ICカードであり、Suicaなども利用できる。

 JR東日本では、都心部の一部の駅にQRコード読み取り部を備えた改札機を実験として導入したものの、その実験を受けてどうサービスを提供するかはまだ決まっていない。

 一部の鉄道事業者では、クレジットカードのタッチ決済を導入しているものの、交通系ICカードに比べても時間がかかり、都市部への導入はまだ実験段階である。南海電気鉄道がこの実験に力を入れている。

 現状では、交通系ICカードがもっとも確実に、すばやく決済できるものとなっている。

地方での交通系ICカードの新たな動き

 JR東日本では、「地域連携ICカード」というシステムを地方のバス会社などに提供している。カード自体に地域の公共交通のICカードの機能と、Suicaの機能の両方を備え、システム投資や運用の負担軽減をめざしている。

 交通系ICカードは、地方独自でやるには設備投資が必要であり、かといって独自規格でSuicaなどの使用もできないとなると、他地域の人にとっては不便なものとなる。

 そういった状況を、「地域連携ICカード」は解決するものとなっている。

 ただし、このシステムはJR東日本のエリア内事業者が利用することが多い。

地方に「独自規格」は必要なのか?

 交通系ICカードのシステムは、ある程度の規模がないと事業者側としてもメリットがなく、地元の人しか利用できないとなるとそれもまた不便である。広島県のPASPYの場合は、広島電鉄が広島市内の公共交通の多くを担い、それに合わせて広島県内の各事業者がついていったという事情がある。

 だが、地域内の交通事業者の規模が小規模な場合は、独自路線も取りにくい。北海道の函館市電の場合は、九州の西日本鉄道などが使用しているmimocaを導入した実績もある。

 多くの人が利用する公共交通の場合、全国的に使用可能なプラットフォームに基づいた交通系ICカードのほうが、利便性が高いことは確かである。とくに、設備投資の負担が大きい状況がある限り、独自交通系ICカードは重荷になる。

 広島の場合には、あらたにQRコード決済を導入する。QRコードを読み取ったらサーバーにアクセスし、そこで処理するというシステムとなるのだろうが、QRコードシステムとICカードシステムのダブルでの運用は二度手間になる。

 この場合、サーバーで処理することは必要としても、キーとなるものは交通系ICカードにまとめたほうがいい。こういったシステムは現在、JR東日本で開発している。

 PASPYの後継システムは、何らかの形で他社のシステムに乗っかったほうがいいのではないか。その際にJR東日本の「地域連携ICカード」のシステムは参考になる。

 今後の交通系ICカードは、各事業者共通のシステムを作りあげていく必要がある。その際の負担は、かからないような形で。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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