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JR東・只見線も上下分離方式を採用 苦境のローカル線は生き残れるのか?

小林拓矢フリーライター
只見線をかつて走行していたキハ40。冬の雪景色の美しい路線である。(写真:peisama/イメージマート)

 地域に鉄道は維持したい。しかし、既存の鉄道会社では採算が合わない。運賃収入だけでは厳しく、線路や車両の維持管理にお金がかかる――そういった場合、これまで選ばれてきたのは、第三セクター化だった。

 第三セクター化により、人件費など各種コストを下げ、運賃を上げるケースが多い。

 国鉄末期からJR初期にかけて多くの地方路線が第三セクター化されただけではなく、整備新幹線が開通したために並行在来線を第三セクター化したこともあった。

 しかしその場合、人員の育成を自社で行わなければならず、給料もJR時代より低くなり、いっぽうで運賃なども上昇する。第三セクターはどこも経営状態がいいとはいえない。

 そうした中で、第三セクターの中にも廃線になるところが現れてきた。

 最近では、並行在来線の第三セクター化を除き、JR路線を第三セクター化するところは少ない。

続く線路消滅、その対応のために

 2018年3月末にはJR西日本の三江線が営業を終了した。2020年4月17日をもってJR北海道札沼線の北海道医療大学~新十津川間の運行が行われなくなった。また、災害の被害を受けて運休、そのまま廃止になる路線は相次ぐ。

 経営の厳しい路線は、国鉄末期~JR初期なら第三セクター化という選択肢もあったものの、いまではそういった選択肢を取るということは珍しい。東日本大震災での、山田線から三陸鉄道への移管くらいではないか。

 JR東日本只見線は、2011年7月の新潟・福島豪雨にて只見川にかかる橋りょうが流出、そのほかにも多くの被害があった。その結果、只見~会津川口間で長く運休となる。2016年には福島県と沿線の市町が施設と土地を保有し、JR東日本が運行する「上下分離方式」を採用すると只見線復興推進会議検討会が決定した。2017年6月にはJR東日本と福島県が「上下分離方式」を導入して鉄道で復旧することで合意し、2022年度の上半期に工事完了、2022年中の運転再開をめざして復旧工事が行われている。

 その関係で、2021年6月30日付でJR東日本から只見~会津川口間における現行の第一種鉄道事業の廃止の届出と第二種鉄道事業(運行)の許可申請がされ、福島県からは第三種鉄道事業(鉄道施設の保有)の許可申請が行われ、11月30日付で許可された。

只見線の復旧区間(国土交通省プレスリリースより)
只見線の復旧区間(国土交通省プレスリリースより)

 この区間は、人口が少なく利用者も少ない状況で、バス転換もありうる場所だった。福島県の包括外部監査でも只見線の存続はお金がかかるとしていた。

 しかし、鉄道で残すことになった。地域振興の観点や、豪雪地帯であるがゆえのことである。そのために福島県は只見~会津川口間の鉄道施設と土地を保有し、JR東日本に貸し付けて同社は運行と車両の保有・維持管理を行い、減免措置ありで使用料を支払うことにする。

鉄道があるからこそ人が来てくれる

 只見線の存廃をめぐる論議の中で、バス転換しコスト削減、そのぶんをほかに利用したほうが地域振興になるのでは、という議論もあった。しかし、廃線後のバス転換路線はどこも厳しく、バス転換当初よりも本数が減っている箇所もあれば、バス路線がなくなってしまったところもある。

 只見線は、確かに過疎地の路線かもしれないが、渓谷美・紅葉、そして雪景色と、美しい風景があるため、わざわざ乗りに来る人も多い路線であった。その上、沿線の国道は県境付近で冬季通行止めになるほどの状況で、唯一の交通機関となる可能性すらある。費用対効果で片づけられる路線ではないのだ。

渓谷と雪景色は只見線の魅力の一つである
渓谷と雪景色は只見線の魅力の一つである写真:peisama/イメージマート

 新潟県の小出から、福島県の会津若松へと一本で結ばれるということを重視し、ここは鉄道での復旧と決まった。JR東日本の意向というよりもむしろ、福島県の意向のほうが大きい。鉄道がもしなくなるようなことがあれば、その地域には人が来なくなり、地元からも人がさらに流出する。人口減少を食い止めたい、多くの人に来てほしいという考えが、只見線を鉄路で残すということへとつながった。

 そのための鍵となるのが、「上下分離方式」である。この「上下分離方式」は、ほかでも導入されている。

「上下分離方式」で生き残る鉄道

 たとえば鳥取県の若桜鉄道は、地元の若桜町や八頭町が鉄道施設を保有、両者が第三種鉄道事業者となって運営されている。「上下分離方式」で、若桜鉄道が第二種鉄道事業者だ。赤字補填基金が枯渇し、その状況下でいかに鉄道を維持するかを模索した結果だ。その後八頭町が車両と燃料代も負担することになる。

 若桜鉄道はこの間、2014年に社長を公募し、鉄道マーケティングの専門家である山田和昭氏を社長にする。山田氏の実績として2015年4月に蒸気機関車を試験走行させ、沿線で写真を撮影する人を対象に有料撮影会や弁当の販売などを行うという社会実験を行った。

 現在山田氏は、近江鉄道で構造改革推進部部長となっており、どう存続させるか、どう乗客に来てもらうかという仕事をしている。その近江鉄道も、2024年度から「上下分離方式」へと移行する。

近江鉄道は現在、西武グループの一員である
近江鉄道は現在、西武グループの一員である写真:KUZUHA/イメージマート

 実務にあたる組織に大きな影響を与えることなく、鉄道そのものを維持させる方法として、「上下分離方式」は可能性の大きいものと考える。

 経営の厳しいJR北海道の多くの路線や、その他採算が合わないけれども残す必要がある鉄道では、この方式を積極的に導入する必要がある。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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