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新幹線「グランクラス」飲食サービスの度重なる中止 今後も継続は可能なのか?

小林拓矢フリーライター
鉄道博物館で展示されている「グランクラス」のモックアップ(筆者撮影)

 グリーン車よりも、もっと上質なサービスを。新幹線のファーストクラスを。2011年に登場した東北新幹線「グランクラス」サービスは、ゆったりとした室内だけではなく、長距離の列車では軽食や飲料を無料としてサービスするといったものが特徴だった。短距離の列車では座席のみ提供となったものの、飲食をともなうサービスは好評となり、北陸新幹線でも採用された。

 この「グランクラス」のサービスは、新型コロナウイルスの感染拡大によって危機にさらされている。飲食をともなうサービスを提供する列車は、「グランクラス」の使用を取りやめにし、乗客を入れないようにしている。

「グランクラス」のアテンダントが新型コロナに感染したため、7月16日から「当面の間」営業をとりやめた。すでに7月12日には東京都で4回目の「緊急事態宣言」が出され、8月2日には埼玉県などでも「緊急事態宣言」が適用されている。

「当面の間」ということだが、「緊急事態宣言」が続き、新型コロナウイルスの感染拡大がおさまらない中で、飲食サービスの再開ははたして可能なのか、という問題も発生してくる。

 現に「グランクラス」の飲食サービスは、新型コロナウイルスの感染拡大が1年半にもなる中で、何度も中止になってきた。

繰り返される「グランクラス」の飲食サービス中止

「グランクラス」は長距離の列車では専任のアテンダントがおり、軽食とアルコールも含めたフリードリンクのサービスがある。高額ではあるものの、人気となっている。ところが、コロナ禍でこうしたサービスの継続は難しくなってしまった。

 東北・北海道新幹線はいったん7月1日に営業再開、北陸新幹線では12日に再開したものの、16日に営業中止となった。7月から軽食の新メニューが登場し、多くの人に利用してもらえることを期待していた直後だった。

 7月12日からの「緊急事態宣言」は東京都だけになったものの、8月2日に拡大、ならびに「まん延防止等重点措置」が北海道や石川県にも広まり、はたして再開は可能なのかという状況になってきた。当初では東京都だけ、8月22日までだった「緊急事態宣言」も、31日までと延長となる。そんな中で新型コロナウイルスの感染者は全国で1万人を突破するようになっている。

「グランクラス」は、何度も飲食サービスを中止している。まず2020年4月9日からは、飲食をともなうサービスを提供する列車の指定席発売を中止している。同年6月19日に東北・北海道新幹線でのサービスを再開、同7月1日には北陸新幹線でのサービスを再開した。

 その後、GoToキャンペーンなどで利用者は増えたものの、そのキャンペーンも新型コロナウイルス感染拡大により中止、2021年1月8日には東京都などに「緊急事態宣言」が出された。この状況を受けて、1月16日から「グランクラス」の飲食サービスを中止した。3月26日にようやく再開されるも、4月29日からは再度中止、7月まで再開されることはなかった。

 そしてアテンダントの新型コロナウイルス感染にともない、再度中止。新型コロナウイルスの感染、とくに変異株の感染はおさまる気配がない。

 こういったサービスは、はたして継続可能なのか?

 もうひとつ、JR東日本では継続的に飲食サービスを提供している列車がある。「サフィール踊り子」だ。

「サフィール踊り子」カフェテリアも休止と再開を繰り返す

 2020年3月のダイヤ改正で伊豆方面への新しい観光特急として登場した「サフィール踊り子」。全席グリーン車というデラックスな編成と、軽食を提供するカフェテリアがあるというのが注目されていた。

カフェテリアが注目された「サフィール踊り子」
カフェテリアが注目された「サフィール踊り子」写真:KUZUHA/イメージマート

 この列車も新型コロナウイルスに翻弄された。2020年4月9日からカフェテリアは休業、7月1日に再開、2021年1月16日から休止、3月26日に再開、4月29日から休止。そして7月1日に再開した。

 この列車のセールスポイントは、列車内にカフェテリアがあるということだ。そのサービスにより、伊豆へのよりよい旅行を味わってもらおうとして設定された列車だ。新型コロナウイルスにより、出かけることも難しい状態になり、ここまで何度もサービス休止と再開を繰り返すと、まず期待されなくなる。

列車内飲食サービスは今後も可能なのか?

 まず現状として、車内販売がある列車は一部のみになってしまった。その列車も、休止と再開を繰り返している。今後もどうなるかわからない。車内販売では酒類の提供を行わなくなった。JR東日本の車内販売ではコーヒーも扱うのをやめた。

 すでに多くの人は、列車乗車前に食事を済ますか、あるいは飲料や弁当などを買って乗るようになっている。「グランクラス」のようなサービスは、わざわざ飲食をたのしむために利用する人も多い。そのサービスがなくなって乗れないとなると、存在する価値はない。

 再開している状況でも、コロナ禍の中ではなかなか満員にならない。満員になったらそれはそれで危険だ。その状況の中で飲食サービスを提供することの問題点もある。

 ここ数年、車内販売のサービスがどんどん減っていった。JR九州やJR北海道では特急列車の車内販売を終了、小田急ロマンスカーも人気だった車内販売をやめた。JR東日本では車内販売を行う列車を減らした。

 JR東海の東海道新幹線でも、車内販売員が新型コロナウイルスに感染するという事態があった。

 そんな中で「グランクラス」は、狭い車両であり、アテンダントもいるということで、飲食サービスは難しいという状況になっている。「サフィール踊り子」のカフェテリアも、何度も休止と再開を繰り返している。営利事業としては厳しい。

 長期的には、「グランクラス」の飲食サービスはなくなるのではないか。利用者が減り、そもそも利用できない状況になると、乗客から期待されなくなる。この状況で休業中のアテンダントにはある程度の補償はあると考えられるが、「グランクラス」は採算の合わない事業になっているのではないか。少なくとも、アテンダントの新規採用を行える状態にはないだろう。

 しかし、サービスができないからといって空の車両を走らせるというのも難しい。せめて座席のみ提供の料金(そのぶん安い)で「グランクラス」を利用できるようにしては、と思うものの、一時的な措置として休止しているため、難しいのだろう。「サフィール踊り子」のカフェテリア車両は、休止したまま連結していた。

 ふだんであれば多くの人々に期待される(なかなか乗れないけれども)サービスが、コロナ禍で難しくなってしまった。コロナ禍が終わるまでどれくらいかかるかわからず、その際にもとの体制に万全の状況で戻せるかは、わからない。今後の状況によっては、サービスそのものも変わる可能性がありうるのだ。

※記事執筆後、JR東日本から8月6日にグランクラスの飲食サービスを再開することが発表された。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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