Yahoo!ニュース

メトロ17000系デビュー、近鉄特急12200系引退 なぜ出会いや別れは突然に?

小林拓矢フリーライター
21日にデビューした東京メトロ17000系(東京メトロプレスリリースより)

 新型車両のデビュー、というのは本来は華々しいものであった。現地では式典が行われ、どこからともなく鉄道ファンがやってきて、新型車両に乗りデビューを祝う。列車の廃止や車両の引退も同様だ。報道機関を集めたセレモニーが開かれ、カメラを抱えたファンも大勢集い、「ありがとう」「さようなら」の声が多く聞かれる。

 ところが、コロナ禍でそういった光景はなくなってしまった。

メトロ17000系のデビューはひっそりと

 今月21日、東京メトロ有楽町線・副都心線の新型車両・17000系がデビューした。このデビューは、当日になって発表され、式典らしいものもなく一部のメディアが取材に来ていた程度だった。

『鉄道チャンネル』の記事「東京メトロ「17000系」デビュー! 有楽町線・副都心線の新型は「日本の鉄道の技術の粋をしっかり集めて作った車両」」によると、21日の運用は7時21分発の和光市行きのみであり、『マイナビニュース』の記事「東京メトロ新型車両17000系、有楽町線新木場発和光市行でデビュー」によると、十数人程度の乗客だったという。

 写真などを見る限り、記念の看板やテープカットなどはない。大手町駅務管区長が発車の合図をしただけである。

 式典などが行われなかった理由として、当日の混乱を避けるというものがあると考えられる。現在は「緊急事態宣言」が出されている状況下であり、多くの人が集まるのを避けるということが必要だ。また、当日朝にプレスリリースを出したのも同様の理由だろう。そしてデビューしたのは、日曜の朝の列車だった。こんな時間帯に誰も気づかない、というのが東京メトロの意図としてあったと考えられる。当日の運行も、和光市行きの片道だけという徹底ぶりであり、混乱を避けようとしているのがよくわかる。

 東京メトロは、ファンにやさしい会社だった。各種イベントなども充実している。さよなら運転なども行っていた。

 2018年に千代田線の6000系が引退したときにファンが殺到し大混乱になったことがきっかけに、2020年2月末に日比谷線03系が引退する際には、とくにイベントなどを行わないようになった。すでにそのころには、新型コロナウイルスの感染拡大が広まりつつあった。

 そういった状況もふまえて、東京メトロ17000系のデビューはひっそりとしたものになった。

近鉄12200系、いつの間にか引退へ

 車内でのサービス設備の充実が高く評価されていた近鉄の12200系「新スナックカー」が、いつの間にか引退していたということを知った。全国紙では『読売新聞』が取り上げており、最終運用は今月12日だったという。

 この3月の改正までのどこかで引退、という話はあった。混乱を避けるためにセレモニーも行わず、最終運行の日も発表しないというのは知っていた。それでも、鉄道ファンは駅に押し寄せ、どこで最終運行が行われるかわからない中で近鉄特急にカメラを向けていた。

 12200系は、「ビスタカー」といった2階建て特急ほど親しまれていたのではないにせよ、スタンダードな近鉄特急として汎用性が高く、多くの近鉄路線で運用されていた。名阪特急の「ひのとり」や伊勢・志摩方面の「しまかぜ」のように路線限定の運用ではなく、近年の車両だと22600系のような使われ方をしていた。停車駅の多い名阪乙特急や運行距離の短い列車に使用されていた。

 しかしコロナ禍での緊急事態宣言や、多くの鉄道ファンが押し寄せ混乱することを背景に、ひっそりと引退した。

 鉄道車両の出会いと別れは、突然に行われるようになった。

コロナ禍での鉄道車両のデビューと引退の困難は?

 まずコロナ禍で、人を多く集めるような状況を作り出してはならない、ということが課題になっていた。昨年、東海道新幹線の700系がさよなら運転を行おうとし、臨時「のぞみ」を3月8日に運転させようとしたものの、感染拡大を防ぐために運転を中止、各種イベントも中止となった。2月内の運行をもって最終運行となってしまった。この発表は3月2日に行われた。

 そもそも近年、鉄道で大きな動きがあるときは人が集まるのが常である。筆者は2017年3月4日のJR西日本可部線可部~安芸亀山間の開業や、2019年3月16日のJR西日本おおさか東線放出~新大阪間の開業を取材したことがあり、その際に鉄道に多くの人が押し寄せたことを実際に見ている。

 鉄道イベントの取材に行くと、取材陣の後ろに多くの地域住民や鉄道ファンがやってくることが多く、鉄道人気のすごさに驚くことがしょっちゅうである。

 多くの人々の鉄道への情熱が持続する中、デビューや引退などが注目される状況が続いている。

 しかし現実は「緊急事態宣言」が出ており、混乱が起こることは避けたい。

 そういう理由で、寂しいながらもデビューや引退はひっそりと、ということになる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事