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北陸新幹線金沢~敦賀の開業延期へ 新線工事・計画は、なぜ遅れるのか?

小林拓矢フリーライター
この車両が敦賀に来るまで、あとどれだけの時間がかかるのか?(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 2023年春に開業を予定していた北陸新幹線金沢~敦賀間の延伸開業は、遅れる見込みとなった。赤羽一嘉・国土交通大臣は、10日の記者会見で、工期や工事費などで厳しい状況にあると話した。

 自民党の細田博之・与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームの座長は、9日に情勢の厳しさを地元の知事に伝えた。その後、石川県の谷本正憲知事と福井県の杉本達治知事は予定通り2023年春に開業するように政府や与党に要請する方針を示した。

 なぜ、北陸新幹線の敦賀延伸は遅れることになったのか?

そもそももっと遅く開業する予定だった

 2012年に着工した北陸新幹線の金沢~敦賀間は、本来は2023年度ではなかった。2025年度に開業する予定だった。新幹線の開業による経済効果を高めるため、沿線自治体の働きかけで開業を早めたという経緯がある。

 そのために工事費用などを増額し、より早く工事を行えるようにした。

 しかし、入札は不調が続き、工事の業者がなかなか決まらなかった。

 ここにきて加賀トンネルで地盤にひび割れを起こし、工期が逼迫している。トンネルを使用できるようにするためには、1本12mのボルトを1,400本打たなくてはならず、そのための工事に時間がかかる。

 もちろん地元は反発している。2023年春に向け沿線では駅の周辺設備や、商業施設の準備などを進めており、自治体だけではなく観光事業者からも早期の開業を求める声がある。

 新幹線の恩恵は早くほしい。けれど、そもそも無理に工事を早期化させただけではなく、工事中に不具合が見つかり、そのために工事費用などが増大している。

 一方、並行在来線を経営する第三セクター事業者は動き出しており、将来のためにすでに人材を採用し始めている。

 希望的・楽観的観測で行った工期の短縮が、実際には地域にさまざまな混乱をもたらしている。新幹線の開通は効果が大きく、それゆえに地元経済に大きな影響を与えることが確かであるものの、工事を始めてから工期を短縮するというのは、工事の現実を考えると正しい判断ではなかった。

 土木関連は人手不足が常態化しており、それが入札の不調などの背景にある。経済的側面を過大に期待しすぎたゆえのことである。

 いくら経済の論理が早期の開業を求めても、実際の工事がうまくいかないと、どうにもならないのである。机上の空論は現実には勝てないのだ。

リニア中央新幹線工事は静岡以外でも遅れが

 リニア中央新幹線は、一般には静岡工区での大井川の水資源をめぐる静岡県知事とJR東海との対立で遅れているとされている。確かに、両者の対立は根深い。しかし、大雨などで工事現場に近づく道路さえ寸断されたという状況がある中で、ふつうに工事が進んでいたとしてもその対応で遅れていたとは考えられる。工事をしている段階でもし水資源に影響が出始めたら、そこでの対応で遅れていただろう。

 地下の水資源というのはトンネルを掘ってみないとわからないところもあり、万全の対策が取れるかどうか地元と合意がない状態では、いたずらにいじるわけにもいかない。JR東海が万全の対策を取れるにしても、説明責任は必要であり、地域にしっかりと説明できないと禍根を残すことが予測される。

 国家プロジェクトで、2027年開業という目標を立てているため急いでいるとしても、工事をしっかりとできないことには安全性を保てない。JR東海の土木担当者も、しっかりとした工事をやりたいだろう。変に周りの状況に翻弄されていい加減な、あるいは無理な工事をやりたいとは到底思えない。会社内の力学はいろいろとあるとは思えるものの、現場を大切にしてほしい。

 雑誌『世界』(岩波書店)2020年12月号で、リニア中央新幹線の工事が全体的に遅れていることを指摘した記事が掲載されていた。3年遅れ、4年遅れが予想される未着工の工事や、地下水による水没などが各地で起こっていると指摘している。

 静岡工区以外でも遅れている箇所がある状況では、完成までにかなり時間がかかることが予想される。都市部では大深度地下を利用し、山間部では長いトンネルを掘る以上、土木面での難しさは想定できていた。

 リニア中央新幹線の工事の遅れは、政治的対立もさることながら、未着工の工事などが多くあることも原因となっている。突貫工事で遅れを回復させようとしても、人手不足に阻まれる。日本全体の未来を考える上ではリニア中央新幹線は必要であるものの、かなりの年月で遅れることが予想される。

そのほかにもどうなるかわからない新線計画

 九州新幹線長崎ルートは、佐賀県内の新鳥栖~武雄温泉間の費用負担をめぐり、県と国で対立している。この対立が解決しない限り、福岡県と長崎県を新幹線で結ぶことはできない。しかも、武雄温泉~長崎間は先に開業する。

 たしかに、佐賀県は福岡県に近すぎ、九州新幹線のメリットはない。高速バスや特急も頻発しており、すでに利便性は確保されている。

 そうなると長崎県との利害が対立する。また、国の方針との対立も出てくる。このあたりが政治的に解決しない限り、着工への見通しは立たない。

 都市鉄道では、JR東日本の羽田空港アクセス線がどうなるのか気がかりだ。現在、環境アセスメントの手続きを行っている。2029年開業を予定しているものの、コロナ禍で航空利用者が減り、この状況が続けば必要性があるのかどうか疑わしくなっている。採算は取れるのか心配だ。地下区間が工事も難しいと考えられる。

 多くの人、とくに地域の人が新しい路線がほしいと思っていても、政治的理由や財政的理由、工事の難しさなどで遅れてきた路線は多くある。整備新幹線は、本来ならばとっくに全線開業しているはずのものだった。しかし、さまざまな困難が新線には待ち構えている。

 着工までに時間がかかり、場合によっては疑問が起こる計画もある。着工してからも困難な状況が起こる。それで新線は遅れるのだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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