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終電繰り上げ、編成短縮、サービス削減……「縮小」の先にある鉄道の未来は?

小林拓矢フリーライター
帰宅時のラッシュ時間は以前よりも早まった(写真:アフロ)

 終電が、繰り上がる。そんな発表がJR東日本・JR西日本で行われた。JR西日本は具体的な列車についてその内容を示し、新大阪着最終「のぞみ」との接続についても公表した。

 背景には、保守作業の時間確保や、作業員の人手不足があるという。かし、コロナ禍以降、深夜時間帯の利用が大幅に減っており、その時間帯に列車を走らせる意味も薄くなっている。

 全体的に乗客減の傾向は変わらず、今後ももとにもどることはないという判断だ。

 では、関西圏の終電縮小について見てみよう。

メンテナンス部門の働き方改善、だけ?

 JR西日本は、メンテナンス作業従事者の労働条件を改善するため、近畿エリアで深夜帯のダイヤ見直しを、来春のダイヤ改正時に行うという。12線区で行い、48本の列車を削減するという。

 たとえば、大阪発高槻行の普通列車は、これまで0時31分が最終だったものが、0時10分になるという。新快速の最終0時25分発京都行は、0時に繰り上がる。三ノ宮方面は、0時28分発の西明石行が、0時04分発に。新快速は0時25分発西明石行が、0時00分発になる。およそ20分から30分の繰り上げとなる。

 新大阪23時45分着「のぞみ」の最終列車からの乗り継ぎ範囲も狭くなり、関西圏在住者は少し早い新幹線での帰宅を迫られる。このようにサービス自体は悪くなるため、「縮小」と言えるだろう。

 もちろん、JR西日本が述べる理由はあるものの、コロナ禍以前の「働き方改革」などから世の中全体が変わってしまい、遅くまで仕事をしたり、お酒を飲んだりするということが少なくなっている状況があった。そもそもそれが、夜間帯の鉄道利用減少につながっているという考え方もできるだろう。

 かつては、飲み会でも二次会などが当たり前で、終電近くまで飲むことが当然だった。いまでは、一次会で終わる。仕事についても、ふつうの感覚をもった会社なら、深夜までの残業を非効率だと考えるようになり、長時間労働を削減しようとしている。

 そういった世の中の流れが、深夜帯の鉄道利用を減少させた、と見ることもできる。

 かつてなら、メンテナンス作業従事者を多く雇い、人海戦術で一気に作業を行うということも可能だった。それだけの利益を、鉄道会社があげていた。しかしいまではそれはできなくなった。

 JR東日本の終電繰り上げにも、同じ背景が見える。実際に、メンテナンス作業の時間増と深夜帯の利用者減を同社は示しており、無理して深夜に動かさなくても、という考え方がよく見える。

背景には民営化後最大の赤字が

 こういった状況は、もとにもどることがないとJR西日本やJR東日本は見ている。そこで終電を繰り上げるという判断に踏み切った。

 鉄道事業者にとって、終電時間帯はダイヤの「聖域」である。他線との接続を考慮して、なかなか変えようとはしない。筆者が大学生だったときの中央・総武緩行線の三鷹行終電の新宿発時刻が、ほとんど変わっていないくらいだ。

 終電の時間を動かすと、各事業者の駅の表示なども変化させなければならなくなり、その手間を惜しむということもある。最近では、終電の接続の案内をしない、と示す事業者も増えてきた。

 しかしその終電にメスを入れる。背景には、コロナ禍で大きく進んだ鉄道事業の縮小がある。2021年3月期のJR東日本とJR西日本の連結最終損益は赤字になることが予想されており、JR東は4,180億円の赤字、JR西は2,400億円の赤字となる。そんな中で、事業自体を見直さなくてはならないのだ。乗客はもうもとにもどることはないという考えをJR東日本は持っている。

 その大きな赤字が、遠い将来には利用者を大きく減少させるという予想を鉄道事業者にさせた、ということである。

 こういった事業縮小への動きは、ほかにも多くある。

特急列車などの縮小の理由は

 JR東海は、名古屋から紀勢本線方面に向かう特急「ワイドビュー南紀」の編成両数を11月1日から削減する、と発表した。現在、4両編成から6両編成となっているこの列車を、2両や3両の編成で走らせるという。その際、半室グリーン車の中間車両を、使用しないことにする。理由は、利用状況を踏まえてというものである。

 南紀観光などの需要があってグリーン車が設定されているものの、そのグリーン車の利用自体がない、ということだ。もともと本数の少ない列車ゆえにダイヤを削減するわけにはいかないものの、気動車特急の編成の自由度を活かし、車両を削減した。

 一方で、電車特急ゆえに編成削減できず、本数を減らしているのがJR九州だ。11月1日からは、博多~大分間の「ソニック」など、本数の多い列車を利用者が少ない時間帯は削減する。また、一部の「にちりん」は大分~延岡間をこの日より運休する。これも、利用状況が背景にある。

 私鉄でも、鳴り物入りで開始されたサービスが、一部中止になる。

 京阪電気鉄道では、特急に連結されている「プレミアムカー」サービスを10月1日から中止する。出町柳発淀屋橋行の平日2本・土休日2本の列車だ。京都から大阪へ向かう列車ということで、深夜帯では利用者が少ないのだろう。また、早朝・深夜の「プレミアムカー」にアテンダントが乗務しないということにもなった。

 利用者が少なくなったからサービスを縮小させる、という動きは、鉄道事業の中ではこれまで何度も行われていた。ローカル線などでその先にあったのは、「廃線」や「第三セクター化」だった。しかしコロナ禍のこの状況において、それなりの規模の鉄道においてさえ「縮小」が行われる。

 これまで都市鉄道や特急列車では、「拡大」を中心とした運営が行われていた。それが「縮小」に転ずるということは、今後の鉄道事業の厳しさをも感じさせられる。やっかいなことは、これが社会構造に起因するものであり、鉄道事業者だけでどうにかできるというものでもない、というものである。この国が「縮小」し、鉄道も「縮小」するのだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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