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新幹線の英語アナウンスが論争に 進む鉄道員の英語対応

小林拓矢フリーライター
外国人観光客が多く利用する富士急行の駅員は英語力が高い(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 東海道新幹線で行われる「英語の生声アナウンス」が話題になっている。「あのアナウンスは下手だ、恥ずかしい」という声もあれば、「たとえ日本人英語でも、多くの外国人旅行者に対応するためには必要だ」という声もある。筆者は、これについて「マイナビニュース」で触れた。「東海道新幹線、英語の車内アナウンスが気になる - 無料Wi-Fiも体験」。

 実際に東海道新幹線に乗ってみると、英語でアナウンスを行うだけではなく、車掌が外国人の乗客とのやりとりに流暢な英語で対応しており、JR東海内での社内教育もしっかりしていると感じる。

東海道新幹線だけではない

 英語の対応が上手なのは、東海道新幹線だけではない。地方私鉄でも、押し寄せる外国人観光客に対応すべく力を入れているところがある。富士急行だ。中央本線の大月駅で富士急行線に乗り換えるときには、富士急行の窓口の駅員が上手に英語で対応し、特急車内でも生声の英語アナウンスがある。河口湖駅で改札を通ろうとすると、新人らしき人が英語で応対している。思わず筆者も英語でお礼を述べてしまった。

 富士急行では、外国人観光客向けに英語での案内がさまざまなところで掲げられており、英語以外の案内もある。駅係員は十分に接客できるだけの英語力を有し、膨大な外国人観光客をさばいているという状況だ。

券売機も多言語化

 画面の大きな券売機が東京メトロや都営地下鉄にあるのを見たことはないだろうか。一般の券売機でも、日本語のほかに英・韓・中などに対応しているものの、この券売機ではそれ以上のアジアの言語を中心に対応している。

 従来の券売機では画面が小さく、多言語対応も困難だったものの、この券売機では画面の広さを生かして、わかりにくい東京の地下鉄網を地図で図示し、しかも多言語表示が可能だ。

多言語対応の券売機(筆者撮影)
多言語対応の券売機(筆者撮影)

 また駅によっては、大画面での外国人向け行先検索機も備えられており、これでどのルートで行けば目的地にたどり着けるか、わかりやすく示されている。

 こういったシステムも、訪日外国人の利便性向上に役立っている。

通訳機の使用

 そうはいっても英語などの外国語が一朝一夕に身につくものではない。従業員にTOEICの取得などを行わせている鉄道会社もあるものの、英語力が身につくにはそれなりの時間がかかる。

 最近、鉄道会社が使用しているのが、通訳機だ。「ポケトーク」「イージートーク」などの通訳機(翻訳機)が、多くの鉄道会社で導入されるようになっている。最近では島原鉄道が「イージートーク」を導入することになった。

 つくばエクスプレスや相模鉄道、小田急電鉄、JR東海などは「ポケトーク」を導入し、外国人対応のために利用している。

 この通訳機は、日本語で話したい内容を吹き込むと、機械が英語で話してくれる。英語で吹き込むと、日本語に翻訳してくれる。英語以外の外国語にも対応している。

 先日、相模鉄道で外国人の駅員対応ツアーがあり、そのようすを筆者は「マイナビニュース」に書いた。「相鉄「インバウンドツアー」米国の学生が参加、駅係員の仕事に挑戦」。

 若い駅員は生声で英語を話すことができたものの、年長の人にとってはなかなか難しく、生の英語で話をするのは難しかった。

 そこで役立ったのが「ポケトーク」である。通訳機があることは知っていたものの、ここまで実用のレベルに達していたとは思いもよらなかった。

 鉄道会社で働く人の場合、若い人は大学を卒業しているケースが多く、学校では会話重視の教育を受けているものの、年長の人の場合は高卒で入社したケースも多く、学校で受けた教育も訳読中心の教育だった。どちらの教育方法がいいかはさておき、それぞれの置かれた状況の差が、通訳機を必要とするかどうかの境目になるということがいえるだろう。

 現実に日本に世界から人が押し寄せている現状を考えると、生声での英語アナウンスが恥ずかしいかどうかを言っている状況ではなく、むしろ外国語での対応ができるようにし、場合によっては技術の力も借りるということが必要だ。

 世界からやってくる人たちを大切にすることが、世界における日本のポジションを維持するには必要であり、そのためには外国語での接遇というのも、求められている。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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