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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」底知れぬ盛り上がりと近年のアニメ映画ブームを支えるポテンシャル

小新井涼アニメウォッチャー
(提供:イメージマート)

先月11月17日に公開された映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」。

冬休みシーズンに向け話題作が続々と公開される中、公開1ヶ月を過ぎた本作が、落ち着くどころか未だ勢いを増す驚異の盛り上がりをみせているのをご存知でしょうか。

本作の盛り上がりは一体どこが異例で、その要因とは何なのでしょうか。

■驚異の盛り上がり

通常、映画興行では初週に最も勢いがあり、2週3週と徐々に盛り上がりが落ち着いていく中で上映館や上映回数も縮小していくことがほとんどです。

これを踏まえると、本作の盛り上がりが如何に異例であるのかがよく分かります。

初週からの週末動員数はなんと3週連続で前週比を上回り、公開から1ヶ月をすぎた今も、興行は縮小していくどころかこれから新たに上映が始まる劇場が控えているほど。

また、先週23日土曜日の座席の埋まり具合を都内の本作上映中の全劇場で調べてみたところ、金曜23時時点で60を超す上映回の中でまだチケットが購入できる上映回は10にも満たない数となっていました。つまり前日の時点で既に80%以上の上映回で座席が完売していたのです。

確かにその日から新たな来場者特典が配布されるというタイミングではありましたが、公開から1ヶ月が過ぎているとは思えないこの勢いからは、本作を劇場で鑑賞することへの渇望が未だ全く収束していないことが窺えます。

冬休みシーズンに向けた数々の話題作がひしめく中でも、これほどの熱量と共に上映が続いている作品というのも他になかなか見受けられません。

■盛り上がりの要因たち

それだけ観客の心を掴んでいる作品そのものの魅力は大前提として、本作がこれほどの盛り上がりをみせている要因には、他にどんなものがあるのでしょうか。

まずひとつ大きいものとしては、この盛り上がりを受けての作品側の反応があげられると思います。

パンフレットの受注販売や応援上映の開催など、ヒットを受けた素早い興行展開はもちろん、特に制作陣によるSNSの投稿や舞台挨拶等で語られる新たな情報など、作品への思い入れや盛り上がるファンへのサービス精神を強く感じるそうした作品側からの供給も、ブームの大きな後押しになっていることは間違いないでしょう。

もうひとつの要因は、いわずもがなそのファンの熱量です。

特に連日SNSを賑わせる考察や関連シリーズについての情報共有、自身も“ファン”となった漫画家等のプロまでもが加わったファンアートの投稿は、劇場の外でも本作の魅力を広げ続けています。

そうして連日タイムラインに現れる話題に触れることで、元々のファンはより深く、作品の存在を知らなかった人達は新たに本作に誘われ、公開後1ヶ月を過ぎた今もなお劇場鑑賞の勢いが止まらずにいるのでしょう。

本作のような盛り上がりを“口コミでの大ヒット”と称されるとどこか味気なく思えてしまいますが、実際その内部では、こうしたファンによる積極的な発信をはじめ、新たな観客を誘い自身も繰り返し劇場に足を運ぶといった想像以上にアクティブなことが行われているのです。

■近年のアニメ映画の盛り上がりの土壌

興行規模こそ作品毎に異なりますが、近年次々と興収100億突破作品が登場し、アニメ映画が邦画史上類をみないほどの勢いをみせていることにも、実は本作のような盛り上がりをみせる作品の存在が大いに関係しているように思います。

好きな作品と出会った時に、何度も劇場に足を運び、作品に関する発信や普及をせずにはいられないファンの熱量と、それに応える作品/興行側の熱意―そうしたポテンシャルが土壌としてあるからこそ、興行規模によっては興収100億を突破するほどの盛り上がりを生む作品達も続々と登場してきているのでしょう。

近年の”アニメ映画ブーム”ともいえる勢いを支える、重要なポテンシャルも垣間見える本作の盛り上がり。

冬休み突入後の年末年始にかけてもますます目が離せそうにありません。

※2023年12月25月15:31誤字修正

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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