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オタク用語辞典「大限界」発売の激震、生まれた当事者達からの大きな賛否

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:アフロ)

昨日、辞書や教科書出版でお馴染みの三省堂より、“オタク用語”とされる言葉を集めたオタク用語辞典「大限界」の発売が発表されました。

推し活などの言葉達までが広く一般的にも使われるようになった現在、それでもまだ知らない人にとっては謎も多い用語が語釈や用例と共に掲載されるということで、発表と同時に早速大きな注目を集めています。

その中にはもちろん、そうした用語を日常的に使っている人々、いわゆるオタクとされる当事者からの反響も多く含まれていますが、そこには激しい賛否の声が入り混じっているようです。

■オタク用語辞典「大限界」とは

来月発売予定のオタク用語辞典「大限界」は、大学生の執筆陣が自身の周りで使われているいわゆる“オタク用語”を約1,600項目集めたという辞典です。

各章では「オタク共通用語」をはじめ、「K-POP界隈用語」や「ポケモン界隈用語」、「2.5次元界隈用語」といった様々なジャンルの用語が14章に渡り紹介される内容となっています。

収録項目の例をみるだけでも、「アクスタ」や「推し」といった日常的にも目にする機会がありそうな言葉から、その界隈に身を置いていないとなかなか知る機会のない単語までが勢揃い。

使っている人々の中にも“正解”は無く、時代やジャンルによっても意味の変わる流動的なファンの用語を改めて成文化するという点でも、とても意欲的かつ挑戦的な辞典となっています。

■当事者達からの大きな賛否の声

興味を惹かれる題材だけあり、発売の発表と同時に広く関心を集めた当辞典ですが、特にその反響が大きかったのは、やはりそこに収録されている用語に親しむ様々な界隈の当事者達からの声です。

特に自身の好きな作品やジャンルが取り扱われている人々の間では、まだ発売発表の段階にもかかわらず、気になる、面白そうといった反響も多くあがっていました。

しかしその一方で、先行して発表された収録内容のいくつかの項目については、辞典を冠する正式な出版物の表記として適切なのか、という疑問の声も少なからず生まれています。

特にその声が大きくなっているのが特定の用語に対する用例の部分。ただでさえセンシティブで当事者同士でさえ用いる際に気を付ける用語の用例として、実在作品のキャラクターに由来する具体的な表記が使われており、それがファンの間で問題視されているのです。

これだけだと遠まわしすぎるので一般的なものでたとえるとすれば、【降格】という言葉の用例として『残念ながら今年(実在するスポーツチーム名)は2部リーグに降格した』という文章を記載しているようなもの、ともいえるでしょう。

確かに用法も誤りではなく、実際にも使われてもいる“生きた言葉”ではあるかもしれませんが、一般的にも『そこに具体的なチーム名を使う必要はあったのか』と、なんらかの思想や意図を感じてしまいますし、そのチームのファンにとっては『なんでそこに自分の応援するチームが使われなければいけないのか』と、怒りの声も生まれかねません。

実際にはその具体的な表記が一般流通する辞典に掲載してほしくないと思われる類のものでもあるため問題はより複雑な様相を呈するのですが、たとえるならばこうした事態が、公開された辞典の内容と、用語に親しい界隈の当事者との間で生じており、大きな反響の一方で、少なくない否定的な声も生じる結果となったのです。

こうした出版物が生まれるとき、自らもそれらの用語に慣れ親しむ当事者達が気にすることには、どんな用語がどう紹介されるのかはもちろん、自分達の好きなことやものが、せめてそれらを全く知らない人にも誤解なく伝わるものであってほしいという点も大いに含まれていると思います。

そこにおいて当辞典は、上記の表記にストップがかからなかった監修体制含め、むしろ知らない人に新たな誤解を生みかねないものではないかと、一部の当事者達から強い警戒心を抱かれてしまったのでしょう。

とはいえ紹介されている用語の中には、界隈の当事者も楽しみにしたくなるような内容のものももちろんありますし、時代と共に消えてしまうかもしれない用語を文字にして残すという辞典の取り組みそのものを全否定してしまうのも極論すぎます。

前述した通り、使っている人達の中にも“正解”はない流動的なファンの用語ですので、今回あがった声もすくい上げて随時修正・アップデートされていくくらいの柔軟性を持つ、読む人にも後世にも誤解が残らないような辞典となっていくことをただ祈るばかりです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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