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日テレ「葬送のフリーレン」特番放送決定、民放キー局 深夜アニメ注力の動きとその背景

小新井涼アニメウォッチャー
AnimeJapan 2023内展示(筆者撮影)

今月末から日本テレビ系にて放送を開始するテレビアニメ「葬送のフリーレン」。

テレビシリーズの第1話を「金曜ロードショー」枠にて2時間拡大放送するという前代未聞の取り組みも注目を集める本作が、この週末、日テレ系朝の情報番組「ZIP!」とコラボした特番を放送することを発表し、改めて話題となっています。

実は本作をはじめ、こうしたいわゆる深夜アニメにおける民放キー局の新たな動きが目立ち始めている昨今。それぞれの放送局ではどんな取り組みが行われ、その背景にはアニメ放送を取り巻くどのような状況が関係しているのでしょうか。

■民放キー局の新たな動き

「金曜ロードショー」枠としては史上初のテレビシリーズ第1話の放送、それに続く朝の情報番組とコラボした特別番組の制作。これだけでも深夜アニメとしてはなかなか異例の展開ですが、ここ数年、民放テレビ各局の間では、他にも同様にこれまでになかった深夜アニメに関する動きがみられます。

たとえば同じ日テレの「金曜ロードショー」枠では、2021年、他局で放送されていたテレビシリーズ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を、特別編集版にて放送するという珍しい取り組みも、当時大いに話題となりました。

劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公開前に、テレビシリーズを地上波全国ネットで初放送したフジテレビでは、「めざましテレビ」の“めざましじゃんけん”とのコラボや「遊郭編」最終回での32分CM無し放送等も度々話題に。

現在第2期が放送中の「呪術廻戦」でも、MBS・TBS系全国ネットで「劇場版 呪術廻戦 0」の地上波テレビ初放送がゴールデンタイムに行われた他、劇場版の公開第2期放送に合わせた特番も全国ネットで頻繁に放送されています。

とはいえ、それ以前も民放キー局では、フジテレビの“ノイタミナ”をはじめ、各局で様々な深夜アニメ枠が積極的に設けられてきたように、深夜アニメに全く注力してこなかった訳でもありません。

しかしそれらはあくまで、深夜時間帯に作品を視聴する層を中心としたハイターゲットな展開でもありました。

ところが上記をみて分かる通り、昨今の民放キー局での動きでは、そうしたコアなファンや大人達だけでなく、深夜アニメ…どころか普段アニメをみない層にまで届く番組や時間帯での取り組みを積極的に展開するようになってきているのです。

■新たな動きの背景

こうした動きの背景には、特に2019年の「鬼滅の刃」ブーム以降、度重なる国民的なヒット作品の登場により、日本国内でアニメの社会的位置づけが大きく変わってきたことがあると考えられます。

深夜アニメの認知度や求心力が、アニメファン以外にまで広がることで、これまで言い方は悪いですが「アニメを取り上げたところで知っている人は少ないのでは」と一概に思われていた番組や時間帯でも、大きな反響が期待できるようになってきたのです。

実際にこの2、3年ほどで、作品を特集するワイドショーやバラエティ番組でも、深夜アニメが“未知の存在”ではなく、出演者の方々の中にまで作品ファンがいることも珍しくないほど、広く浸透してきているのを感じます。

加えてもうひとつ大きいのが、コロナ禍でのVODの普及と定着を経て、人々のアニメの視聴習慣が変化したことです。

このことは、これまで作品ファン以外の偶発的な視聴が難しかった深夜アニメが誰にでも簡単に届くようになっただけでなく、インターネットの台頭によりテレビ離れが叫ばれて久しい中で、“放送ならではの強み”が再発見されたことにも繋がっていると思います。

先に上げた「金曜ロードショー」を筆頭に、VODでいつでもどこでもみたい作品が視聴できるようになった一方で、テレビ放送ならではの、同じ作品を全国で一斉に視聴する体験がイベント化し、SNSのトレンドを賑わせるようになってきたことがまさにそれです。

こうしたアニメを取り巻く社会の変化やアニメが生み出す盛り上がりを受け、民放キー局も上記のような、これまでにない深夜アニメへの更なる注力を、積極的に行うようになってきているのでしょう。

こうした中で行われる今回の「葬送のフリーレン」の取り組みですが、前述の作品達が社会的なヒット後にスペシャル放送や特番が行われてきたのと違い、今回がアニメ初放送の作品であるという点には更に注目です。

放送前は全くノーマークであった作品が爆発的な人気を生むこともあれば、膨大な作品数の中で、なかなか思うように人々に届かないことも少なくない、まさにどんな作品も盛り上がるかは蓋を開けてみないと分からない現在。本作の取り組みが一体どのような反響を生んでいくのか、実際の放送後の人々の反応を含め、益々注目が集まります。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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