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話題の「君たちはどう生きるか」北米上映に向けて現地配給会社も異例のマーケティングを開始

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:ロイター/アフロ)

今月14日、ついに公開された宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」。

あらすじもキャストも予告映像も一切公開されない前代未聞の状態で公開を迎えながらも、封切から4日で興収は21億円以上を達成し、早速リピーターも続出するほどの盛りあがりをみせています。

そんな本作ですが、世界的にも注目を集める監督の最新作ということで、早くも北米での配給についても情報が発表されました。

しかも日本での異例の宣伝方針に倣い、“現時点では”英題を除く詳細やマーケティング素材の公開は行わないということも発表され、注目を集めています。

日本国内では既に成功といっても過言ではない効果を生んだこの異例の宣伝方法ですが、果たして日本国外ではどのような効果が期待できるのでしょうか。

■北米での配給情報

本作の北米上映の情報が公開されたのは、日本での封切が行われてすぐ。

発表によると、北米での公開は今年後半を予定しており、英題は「君たちはどう生きるか」の英訳“How Do You Live”ではなく、公式国際タイトルである“THE BOY AND THE HERON(少年とサギ)”となることがアナウンスされています。

北米での配給権を獲得したのはGKIDS。

日本国内ではあまり聞き馴染みが無いかもしれませんが、これまでにも長年ジブリ映画をはじめ、今敏監督や細田守監督作品、「プロメア」や「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」、最近では「THE FIRST SLAM DUNK」といった世界的にも注目を集める作品達の北米での配給等に携わってきた会社です。

GKIDSの発表によると、スタジオジブリによる日本国内での異例の宣伝方法に触れた上で、「この方針に沿って、現段階ではGKIDSはこれ以上のより詳細なマーケティング素材のリリースはしない(原文:In keeping with this policy, GKIDS will not release any further details or marketing materials at this time.)」ことが発表されています。

日本国内でも未だ予告映像がないからにしろ、映像やあらすじといった情報だけでなく、日本語版キャストや主題歌といった既に日本国内では報道されている情報に関してもGKIDS側からは未だ発信されていません。

上記の通り現時点では、北米での公開に向けても、これまた異例といえる日本同様の情報制限をしたマーケティングが行われているのです。

  • GKIDSは2017年からジブリ作品を800館以上の劇場で上映するジブリフェスも行っている

■同じ効果は期待できるのか

しかし、いくら日本と同じ宣伝方法をとったからといって、北米でも全く同じ効果が狙えるかというと、それは難しいと思います。

ある地域での解禁と同時に、SNS等を通してその情報が国境を越えてあらゆる地域に拡散される現在、既に鑑賞済みの人が大勢存在する中では、今年後半の北米公開まで日本国内の観客が体験していたのと同様の完全な情報制限を行うことは難しいからです。

現に、日本での公開を機に、英語のニュースメディアでも既に主題歌情報やキャスト情報は報道され、知ろうと思えばあらすじ込みの英語のレビューも複数確認できます。

さらに、今後もし日本国内でトレーラーなどが解禁されるとしたら、その映像はもはや北米のみならず、SNSを通じて世界中に広がることを止めることはできないでしょう。

現在多くの作品が日本とほぼ同時期にリリースされているテレビアニメと違い、未だその多くが数ヶ月から半年以上公開までに時間がかかってしまう劇場版作品においては、なかなか同じ条件下での情報制限は難しそうです。

とはいえ、同じ宣伝方法による同様の効果が得られないからといって、本作が北米では盛り上がらないのかというと、それも違います。

こと北米において、アカデミー賞受賞経験のある宮崎駿監督の知名度や注目度は、2021年にオープンしたアカデミー映画博物館で特別展示が行われたことや、劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編が日本国内歴代興行収入記録を塗り替えた時に英語圏では“あの宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」を超えた”ということが更なるインパクトを生み出していたことなどからも分かる通り、やはり未だ別格のようです。

実際に、今回鈴木敏夫氏が宣伝を行わないと発表した際も、日本国内で話題になるより先に、早い段階からそのことを頻繁に取り上げていたのも英語圏でのメディアであったと記憶しています。

もはや誰もが普通にアニメをみる日本ともまた状況が違う北米において、アニメファン以外からも多く注目される宮崎駿監督最新作は、国内興行とはまた違った盛り上がりをみせることも予想されるのです。

上記GKIDSの宣伝が“現時点では”とある通り、今後の日本での情報やマーケティング素材の解禁に伴って、北米をはじめ日本国外でのプロモーションがどう展開されていくのか…。それらも含め、早くも本作の世界展開からも目が離せそうにありません。

※2023年7月24日 15:28 漢字表記等修正

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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