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改めて振り返る劇場版「名探偵コナン」興収100億までの軌跡、どこが異例なのか

小新井涼アニメウォッチャー
劇場内展示(筆者撮影)

現在公開中の劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影」が、シリーズ初の興行収入100億円を達成し、改めて注目を集めています。

2020年公開の劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編以降、特にここ3年ほどはアニメ映画の興収100億円突破作品がかつてないほど登場してきていますが、そんな中でも今回の100億達成は少し特別なものといえそうです。

本シリーズのこれまでの軌跡を振り返りつつ、今回の大台突破のどこが異例なのかをみてみましょう。

■興収100億円達成までの軌跡

今回の大台突破に至るまでのシリーズ歴代興行成績は下記の通り。

本シリーズの興収がこれほどまでに注目されるようになったのはここ10年足らずの話ではありますが、こうしてみるとそれ以前から、興収10億円がヒットの基準とされる邦画界において、既に毎年これだけの成績を収めていたことが改めて窺えます。

劇場版「名探偵コナン」歴代興行収入推移

そんな本シリーズにおける、興行収入面での大きなターニングポイントとされているのが、2016年公開の「純黒の悪夢」と2018年公開の「ゼロの執行人」です。

「純黒」では、劇中での赤井と安室の活躍をきっかけとした新たなファン層が生まれ、「ゼロ執」では、物語のキーパーソンである安室透を“100億の男に”という盛り上がりの下、それぞれ初の興収50億円、90億円突破を達成してきました。

しかしここでさらに注目して欲しいのは、両作の翌年に公開された作品達。

2017年公開の「から紅の恋歌」も、2019年公開の「紺青の拳」も、シリーズ歴代記録を大きく塗り替えた前作を超えるヒットを生み、興収記録をさらに塗り替えているのです。

本シリーズが昨今更なる盛り上がりをみせている要因として、そのきっかけを生んだ赤井や安室の人気に注目が集まりがちではありますが、「から紅」や「紺青」は、西の高校生探偵・服部平次や、怪盗キッド、京極真達がキーパーソンに据えられた作品達となっています。

新たなファン層を生んだ人気キャラによる爆発的な後押しがあったことはもちろん、そのキャラがメインの作品だけではなく、従来の人気キャラが活躍するシリーズも変わらず支持されしっかり興収記録を伸ばし続ける…。

こうした、そもそもの「名探偵コナン」という作品が持つ魅力と人気がブレずにしっかりと根本にあるからこそ、以下で紹介するような異例の大台突破にも繋がったのだと思います。

■どこが異例なのか

別記事でも触れましたが、本作の興収100億達成は、今年も「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」等、毎年話題作とスクリーン数を確保し合うことになるGWに向けた公開タイミングであることや、興行が落ち着いたころに新規やリピーターが再び足を運ぶ“きっかけ”にもなる入場特典無しの中で達成された時点で、既に他になかなか類をみない偉業です。

加えて今回一番異例なのは、そうした興収100億規模のヒットを毎年恒例のアニメ映画シリーズが達成したことでしょう。

前述の通り無限列車編以降、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」や「劇場版 呪術廻戦 0」、「ONE PIECE FILM RED」や「すずめの戸締まり」、「THE FIRST SLAM DUNK」と、これまでの邦画史においても類をみないほど興収100億円の大台突破作品が、近年相次いで誕生しています。

今回そこに「黒鉄の魚影」が新たに加わった訳ですが、上記作品達と違い、本シリーズは来年にも、同規模のヒットが期待できる新作が既に控えているタイトルなのです。

気が早い話に聞こえるかもしれませんが、本作でも劇場版「名探偵コナン」シリーズ恒例の次回作予告にて”楽しみにせざるをえない!”来年の劇場版作品の公開決定が発表され、早くも期待値は上がっています。

そもそも毎年恒例のアニメ映画は他にも多数ある中で、唯一上記大台突破作品達と同じくらいの盛り上がりを毎年のようにみせていただけでも異例であった本シリーズ。

遂に今回初の興収100億円を突破した訳ですが、昨今アニメ映画の勢いが益々増している中で来年以降の盛り上がりまで期待できることを考えると、今回の出来事もひとつのターニングポイントに、今後も新たな記録を作り続けていくのかもしれません。

※2023年5月15日21:08 誤字修正

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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