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秋アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!(ぼざろ)」未だ冷めやらぬ盛り上がりのメカニズム

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:イメージマート)

「SPY×FAMILY」や「チェンソーマン」、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」等、他に類をみないほど話題作が目白押しとなった2022年秋アニメ。

その中で、放送開始と同時にじわじわと話題を呼び、放送が終わり既に次クールも中盤に差し掛かった今に至るまで、新たな視聴者を呼び込み続けている作品があるのをご存知でしょうか。

秋アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」です。

略して「ぼざろ」とも呼ばれるこの作品、最近になってちらほらと話題にしている人をみかけたという方もいるかと思います。

本作は一体どのような作品で、何故放送が終わった次クールになっても、更に視聴層を広げ、盛り上がり続けているのでしょうか。

■「ぼざろ」とは

アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」は、「まんがタイムきららMAX」で連載中の漫画を原作とした作品です。

主人公は極度の人見知りで陰キャな女の子。そんな主人公が『バンドは陰キャでも輝ける』という言葉をきっかけにギターを始め、友達がいない分日々の時間を練習に注ぎ込んだ結果高いギタースキルを身につけるもネット以外で披露できずにいたところ、ひょんなことからガールズバンドのヘルプに誘われ、そこから転がるように日常が変わっていく様子を描いた青春バンドストーリーです。

陰キャの自覚が少しでもあるなら思わず共感したりダメージを受けてしまうネガティブさやコンプレックスを丁寧にコミカルに描写しながらも、そんな主人公がバンドで陰キャのままでもいぶし銀のように輝く姿には強いカタルシスも感じられる本作。

きらら系のガールズバンドアニメといえば、「けいおん!」という長年の金字塔がありますが、そことはまた別のベクトル・アプローチから、新たなるきらら系ガールズバンドアニメの金字塔を打ち立てたといえる話題作となっています。

■未だ冷めやらぬ盛り上がりのメカニズム:1クール後の広がり

上記のロックなストーリーを、有名作品を数多く手掛けるClover Worksさんがとても繊細に、時にCGや実写まで用いて1秒も飽きさせない演出で描き出す魅力的な映像。

ASIAN KUNG-FU GENERATION世代をはじめ、学生時代にバンド関連の思い出がある人から現役学生にまで刺さる劇中バンドの楽曲やライブ映像。

みればその人気に納得できるような魅力はたくさんありますが、放送が終わった今もなお、新たな視聴者が増え続けている背景には、本作を取り巻く作品外部にも、その要因・メカニズムがあるように思います。

そのひとつが、近年様々なアニメで少しずつ見受けられるようになってきた、1クール後での広がりです。

元来、作品の盛り上がりの“伸びしろ”が一番大きくなるのは放送中、放送終了後は2期以降が確定していたとて、0ではないにしろ”放送中と同等かそれ以上”に盛り上がりが広がることはまずありません。

しかし近年になって、本作をはじめ、放送が終わった後にも放送中と同等かそれ以上に、新たに作品をみ始める人が増え続け、1クール後にまで放送中のような盛り上がりが続く作品がちらほら出始めてきたのです。(下記イメージ図参照)

イメージ図(筆者作成)
イメージ図(筆者作成)
  • ※「鬼滅の刃」の第1クール放送時も同様の盛り上がりがみられましたが、当該作品のブームは別の外的要因も多く関わっていることが窺えるので今回は例外とさせていただきます

本作以外ですと、2021年に放送された「オッドタクシー」でも同様の広がりがみられたのですが、こうした盛り上がりがみられるようになったのは一体何故なのでしょうか。

ひとつ、放送終了後も全話視聴することができる環境があることはまず大きいと思います。

本作も今月21日に全話一挙放送が予定されていますが、そうした機会をはじめ、リアルタイムでは独占配信だったのが、1クール遅れて他の動画サイトで配信が解禁されたりと、近年のアニメは放送終了後も各動画サイトで全話視聴できる作品がほとんどです。

特に上記で挙げた「オッドタクシー」に関しては、毎週考察を重ねて次回を楽しみにするのもよいのですが、最終話まで一気に駆け抜けてガツンと深くハマる楽しみ方もできるので、リアルタイムの放送で最終回をみて、その後周りに薦める人の評判を聞き、次のクールに視聴をし始めるという人が多くみられました。

もうひとつの理由として考えられるのは、リアルタイムではとうてい追い切れないほど、アニメの作品本数が多くなってきていることです。

特に本作に関しては(もちろんリアルタイムで放送を追っていた人も沢山いますが)冒頭で触れた通り話題作激戦区であった秋アニメ放送だったこともあり、リアルタイムでは別の作品を追っていた人達が、今クールになって視聴し始めているのをちらほらみかけます。

日本では全話一気に視聴ができる、動画配信サイトオリジナルアニメの一挙配信スタイルでは盛り上がりが生まれにくいとされていますが、放送が終わった作品を一気に視聴することについては例外です。

むしろリアルタイムで視聴していた人の“お墨付き”がある分、情報のない作品よりは安心して優先的に視聴しようと思えたり、感想を語り合うにも、周りにはオススメの補足情報や考察、ファンワークを持って構えている作品ロスのリアルタイム完走者がいるので、やはり放送中と同等、もしくはそれ以上の盛り上がりを生むこともできるのでしょう。

もちろんこれも、次々と新しい視聴層を夢中にさせる作品の魅力ありきのお話ですが、配信がより気軽になった環境、アニメ人気が高まり話題作が続々生まれる中で、リアルタイムでは全てを追い切れない人も多い現状なども反映されて生まれた、昨今ならではの新しい盛り上がり方なのかもしれません。

今後はリアルタイムで放送されている作品は勿論、放送終了後に大きな広がりをみせている1クール前の作品にも、要注目となってきそうです。

※2月17日14:54チャプタータイトル修正、大変失礼いたしました

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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