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「すずめの戸締まり」関連地訪問時のお願いから窺える“聖地巡礼”の昨今

小新井涼アニメウォッチャー
本作映画パンフレット、及び入場者プレゼント表紙(筆者撮影)

  • ※映画本編に関する核心的なネタバレはありませんが、少しでも気にされる方はご注意ください

新海誠監督による注目の最新作「すずめの戸締まり」が、先週末ついに公開となりました。

公開前から、冒頭映像の公開や様々なタイアップで度々注目を集めていた本作ですが、そうした話題のひとつに、“作品関連地を訪問する際のお願い”があります。

本作「すずめの戸締まり」は、【日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる”扉”を閉めていく少女・すずめの解放と成長を描く現代の冒険物語(公式サイトINTRODUCTIONより引用)】。

このあらすじの通り、日本各地の様々な景色が、お馴染みの美しい背景描写によって解像度高く描かれるとあって、確かに今回も関連地を訪れる人が続出することは容易に窺えますので、それを見越しての公開前アナウンスでもあったのでしょう。

加えてその背景には、“聖地巡礼”という呼称ですっかり浸透した、作品関連地を訪問する行為を巡る、昨今の流れがあることも窺えます。

■関連地訪問への注意喚起

実は近年、こうして作品公式側から関連地訪問時のお願いがアナウンスされる例は少なくありません。

関連地への訪問者増加に伴い、作品公式から改めての呼びかけがなされた「ウマ娘」をはじめ、実は当時今回ほど話題にはされませんでしたが新海監督の前作「天気の子」でも、関連場所訪問時のお願いがアナウンスされていました。

そこには前述の通り“聖地巡礼”という言葉が大衆化するにつれ、作品や関連地域が話題になるだけでなく、トラブルが生じる場面が目立ち始めていることも背景にありそうです。

実際に、私有地への無断侵入や、作中登場の建物と外観が似ている施設への訪問や問い合わせが多数生じていることが作品公式側の耳に入り、お詫びやお願いがアナウンスされた「ゆるキャン△」や「ラブライブ!スーパースター!!」のような事例もありました。

そしてなにより、2016年を機に“聖地巡礼”を大衆化させる大きなきっかけにもなった新海監督の作品「君の名は。」でも、当時関連地近隣からの苦情が多数寄せられたことで、関連場所訪問についてのお願いが発信されています。

“聖地巡礼”という呼称の由来通り、作品ファンにとっては“聖なる地”である関連地に迷惑をかけたりトラブルを起こしたりすることは、本来であれば決してあってはならないことです。

しかし、その言葉が一般化し、制御不能なほど訪問者の母数が大きくなるにつれ、どうしても迷惑な訪問やトラブルも生じてしまい、作品側からの再三のアナウンスや注意喚起が必要となってきてしまってもいるのでしょう。

■ポジティブな盛り上がりにも

しかし、そうしたネガティブな面ばかりではなく、“聖地巡礼”という言葉が大衆化され、関連地訪問が定着/盛り上がることで生じるポジティブな事例も、もちろんそれ以上に増えてきています。

敢えて堂々とアニメで地域のPRを描き、新たな形の関連地訪問の可能性を切り開いた「邪神ちゃんドロップキックX」のような作品が生まれたり、昨年公開された映画「竜とそばかすの姫」では、関連地となった高知県越知町側が訪問者に向けて案内やアピールを積極的に行う場面も見受けられました。

作中で描かれたフィクションのお祭りが、現実の関連地で“地元のお祭り”として定着した「花咲くいろは」や、未だ地元で有志による活動の続く「輪廻のラグランジェ」など、一過性のブームも多い中で10年以上関連地訪問の火が灯され続けている場所もあります。

新しい作品が生まれるにつれ増え続けている関連地や、すっかり一般化したその場所への訪問は、作品や地域の新たな盛り上がりを生む一方で、残念ながら作品側が看過できないトラブルも、より目立たせるようになってきました。

こうした近年の傾向に加えて、本作に関しては、その大きな影響力や上記あらすじの通り廃墟等も多数登場することもあって、事故やトラブルを避けるべく、より事前からのアナウンスを要したのではないでしょうか。

今回の本作公式による関連地訪問時のお願いは、そうして良い意味でも悪い意味でも、アニメが描く世界が現実世界に与える影響が、昨今益々大きくなってきていることが、改めて窺えるものでもあったと思います。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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