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少女漫画原作のアニメは減っているのか?近年の需要と供給の興味深い傾向

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:アフロ)

近年、漫画原作を持つアニメが盛り上がる機会が増えています。

2019年放送の「鬼滅の刃」にはじまり、「呪術廻戦」や「東京リベンジャーズ(東京卍リベンジャーズ)」、「SPY×FAMILY」や「ONE PIECE」など、テレビアニメの放送や劇場版の公開を機により認知度が高まり、盛り上がりの相乗効果でコミックスの累計発行部数も増え、それがまた話題になるなど、昨今の社会的なアニメブームを牽引する存在と言っても過言ではありません。

しかしその一方で、ジャンル別にみてみると、いわゆる少女漫画※に分類される原作を持つ作品は、一時期に比べてここ数年はアニメ化の機会そのものが減ってきているようにも感じます。

実際のところ、少女漫画原作のアニメは減っているのでしょうか。ここ数年での少女漫画原作アニメに関する需要と供給の傾向と共に概観してみます。

  • ※ここでは暫定的に各出版社で少女・女性(漫画)誌に区分される雑誌に掲載される作品を指すものとする

■供給の傾向:やや落ち着き気味?

試しにここ10年程の作品を概観してみたところ、各年によってバラつきはあるものの、少女漫画原作のアニメが全く放送されなかった年はないようでした。

特に2018年あたりまでは、「夏目友人帳」や「ちはやふる」といった3期以上シリーズが続いている作品だけでなく、「好きっていいなよ。」や「アオハライド」、「俺物語!!」といった実写化も話題になった作品から、「それでも世界は美しい」や「赤髪の白雪姫」、「クジラの子らは砂上に歌う」や「BANANA FISH」など、ファンタジーやSF、サスペンスといった要素を持つ作品まで、幅広くアニメ化されています。

また、「美少女戦士セーラームーンCrystal」を筆頭に、「カードキャプターさくら クリアカード編」といった懐かしの作品のリブートや新シリーズも放送されてきました。

ただその一方で、その2018年あたりを最後に、少女漫画原作のアニメ化はやや落ち着き気味にあるようでもあります。

2019年こそ「ちはやふる3」や「3D彼女 リアルガール」の第2シーズン、「7SEEDS」の配信、そして「フルーツバスケット」リブートシリーズの放送開始などがありました。

しかしそれ以降は「フルーツバスケット」と「7SEEDS」シリーズの他、新作は「かげきしょうじょ!!」(2021年)や「薔薇王の葬列」(2022年)、「東京ミュウミュウ にゅ~」(2022年)等の放送があったものの、それまで多い年には5本以上放送されていた時期と比較すると、決して0ではないし減少とまではいかないまでも、全体からみた作品ジャンルの存在感はやはりやや落ち着き気味であるように思います。

こうした傾向の理由は多々あると思いますが、特に現代を舞台にした恋愛模様に重点を置く少女漫画作品に関しては、他のジャンルと比較してグッズ化やライブ/イベント、コラボといった作品外での展開がやや難しかったり、一時期から著名なキャスト陣による実写化の方に力が入れられたりと、アニメ化以外の展開が増えてきたことも背景にあるのかもしれません。

■需要の傾向:予想外の需要

ところが、やや落ち着き気味にある供給の一方で、少女漫画原作のアニメへの需要も落ち着いてきているのかというと、そちらはむしろその逆であるように思います。

たとえば、今年のAnime Japanでのビジネスセミナーでは、米・クランチロールのチーフカスタマーオフィサーが、欧米で少女・女性、いくつかのBLタイトルが予想以上のパフォーマンスを見せていることに言及※していました。

  • 出典元原文:"In the west, where female anime fans were underserved with relevant content historically, shojo, josei, and even some BL titles are showing stronger performances than expected,"

従来と比べて欧米の視聴者の好みが多様化していることにも起因するとは考えられるものの、「フルーツバスケット」を例に挙げ、供給の少なさから需要が満たされずオーバーパフォーマンスになる傾向にあるという指摘※からは、当該ジャンルへの海外での確かな需要の高まりが窺えます。

  • 出典元原文: He stated that these titles tend to over-perform due to unmet demand from low supply, citing Fruits Basket as an example.

また、対象が“平成少女マンガ”に絞られた調査ではありますが、先月末に公開された、総合電子書籍ストア・ブックライブによる「平成少女マンガに関する意識調査」からも、興味深い傾向が見受けられました。

調査によると、今年に入って”平成少女マンガ”を読んだ回答者は対象2,858名のうち半数以上、さらに興味深いことに、年代別にみると、53.1%と一番割合が多かったのは15歳~25歳のいわゆるZ世代だったそうです。

加えて、同世代が読んだ作品ランキングの内容も、1位「桜蘭高校ホスト部」、2位「ちはやふる」、3位「夏目友人帳」、4位「花より男子」、5位「カードキャプターさくら」と、既にアニメ化されており、かつ現在もアニメシリーズが続いているタイトル含め全てがまだアニメでは完結まで描かれていない作品となっていました。

前述の「フルーツバスケット」をはじめ、昨今増えている懐かしの作品のリブートや新作アニメなどは、どちらかというと“当時作品をみていた層”をメインターゲットとしている印象がありますが、こうした結果をみると、実はこれらのタイトルを今改めてアニメ化することには、明らかにリアルタイム世代じゃない若い層にも需要があり、予想以上に幅広い年代層に刺さる可能性があるのかもしれません。

近年供給はやや落ち着き気味にあった一方で、若い世代や海外からの予想外の需要も窺える少女漫画原作のアニメ。

こうした傾向を受けて、この需要と供給のバランスが国内外でどう変化していくのか、今後の動きに注目です。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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