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タイムスリップにラップバトル『テニスは!?』と話題の新作映画「テニスの王子様」その実態は…

小新井涼アニメウォッチャー
映画館掲載キービジュアル(筆者撮影)

ご存知、週刊少年ジャンプ発の人気漫画・テニプリこと「テニスの王子様」。

先週9月3日より、完全新作劇場版アニメの「リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様 」が公開され、早くも話題騒然となっています。

話題となっている理由のひとつには、下記で紹介されているような、本作の”気になるストーリー”がありそうです。

これまでも、予想を超えた演出や超個性的なキャラクター、驚きの展開が度々話題となり、『これってテニス漫画じゃないの!?』とツッコミが入ることも多かった本作。

今回も、”テニスギャング”、”時空の歪み”、”タイムスリップ”、”ラップバトル”という強烈なワードの数々が、『ちゃんとテニスはするのか?!』と、公開前から人々をざわつかせていたようです。

果たしてその実態は、どうなっているのでしょうか。

※以下、核心的なネタバレはありませんが物語の内容に触れています

■リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様

本作は「テニスの王子様」の主人公・越前リョーマが、最強を誇ったテニスプレイヤーである父の、現役引退の謎に迫る物語。

その過程で、随所にミュージカルを挟みつつ、街の不良にラップバトルを挑まれたり、父の現役時代にタイムスリップしてしまったり、その先で誘拐事件に巻き込まれたり、足に括りつけたラケットで戦うマフィアと試合をしたり…といった内容になっています。

これだけ聞くと、やっぱり『ちゃんとテニスはするのか?』と思ってしまうかもしれません。

しかし本作鑑賞後、そうした不安は恐らく覆されると思います。

■目茶苦茶なようで軸はブレない「テニプリ」の強さ

確かにはじめは、突飛な演出や思いがけない展開の数々に、驚き戸惑うこともあるかもしれません。

しかし本作には、観ているうちに段々と、テニスに関係ないどころかむしろそうした演出や展開さえ、全てが「テニプリ」の描く”強さを追い続けるテニスプレイヤー達の熱き物語”にちゃんと集約されるように思えてきて、最終的には、違和感も疑問も無くなるという、不思議な説得力があるのです。

例えば、親父にテニスで一度も勝てたことのない主人公のリョーマが、父の強さの由来を知るべく現役時代の彼と対峙する。そんな更なる高みを目指すテニスプレイヤーとしての成長や向上心を考えれば、そのためにタイムスリップをすることは確かに必然…と思えてきてしまいますし、その道中で起きる誘拐事件の解決策も、現役時代の父親の境遇を思うと、テニスプレイヤーとしてリョーマにそれ以外の方法はなかったのかもと納得してしまいます。

また実際に鑑賞すると、ラップやミュージカルも、ただ意味もなく入れられているのではなく、それらがあることで登場人物達の活躍がより映える、あくまで”テニスプレイヤー達の姿を最も魅力的にみせるための最適解”であるように感じられるものとなっているのです。

話だけ聞くとあまりピンと来ないかもしれませんが、結論として本作は『ちゃんとテニスはするのか?!』どころか、変わった演出や不思議な展開すらも全てテニスをする登場人物達のためのもので、観終わる頃には、徹頭徹尾“テニスをするキャラクター達が最高に格好よく描かれた物語”だったと思える作品になっています。

こうした、一見目茶苦茶なようでいてしっかり芯の通っている感じは、どれだけテニスとかけ離れたエンタメに振り切っても、その根源的な魅力、試合の熱さやキャラクター達の格好良さがブレることはない、「テニプリ」が持つ作品としての強さなのかもしれません。

■幅広い人々が楽しめる「テニプリ」の真骨頂

とはいえ本作は、20年以上続く人気シリーズの最新作ということで、『しばらくみてないな』『あまりよく知らない』という人には少しハードルが高く感じてしまうかもしれません。

しかし実際は、主人公リョーマの活躍を中心とした約2時間完結の物語として、あまり「テニプリ」に触れたことがない人でも楽しめますし、『これぞテニプリ!』という真骨頂を初めて体験するにはぴったりな、エンタメ性に溢れた間口の広い作品となっているので安心です。

それでもやっぱり初見時には驚き戸惑うシーンも沢山あるかもしれませんが、開始数分で始まる最初のミュージカルシーンで『こういう作品ですよ』と示されますので、それが“合う”人ならば、問題なく楽しめると思います。

一見ネタにも取られがちな驚きの演出の向こうに、本作が長年愛され続ける作品としての強さの真髄も感じることができる本作。

個人的には今年一番元気が出るアニメ映画でもあると思うので、この機会にぜひ劇場で味わってみてください。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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