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鬼滅・エヴァ・ガンダム…話題作の中、謎の"ざわめき"を広める傑作映画「スタァライト」とは?

小新井涼アニメウォッチャー
(筆者撮影)

大好評の劇場版「鬼滅の刃」無限列車編や「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」、「機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ」など、話題作が続々と登場し、劇場公開のアニメがかなりの盛り上がりをみせています。

そんな中、これらの作品とは少し異なるベクトルで、現在SNSを中心に謎の“ざわめき”を生んでいる作品があるのをご存知でしょうか。

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」。

初めて聞いた人もいるかもしれませんが、中には周りの人が既に続々と“スタァライト”され始めたという方もいるかと思います。

本作は一体どんな作品で、現在どのような盛り上がりを見せているのでしょうか。

■「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」とは

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は、舞台やアニメ、アプリゲームなどで展開されるメディアミックス作品です。

アニメはこれまでにテレビシリーズと、その総集編にあたる劇場作品が発表され、本作はそれらに続く新作劇場版にあたります。

内容は、とある演劇学校に通う舞台少女達が、それぞれトップスタァの座をかけたオーディションに挑み、ぶつかりあう物語。

魅力的な楽曲や派手な舞台アクション、学生生活のワンシーンと共に、友でありライバルでもある少女達の関係性が描かれていきます。

……と、ここまで聞くと、流行りのアイドル物や、少女達が夢に向かって切磋琢磨する爽やかな青春物語を思い浮かべる方も多いかもしれません。

しかし本作鑑賞後、恐らくその第一印象は完全に塗り替えられることになると思います。

■分からないけど理解させられる映像の圧

実は本作で描かれるオーディションは、上記文字通りの“ぶつかりあい”。

そこで繰り広げられるのは、単なる歌やお芝居の勝負ではなく、それぞれが武器を手にトップスタァの座をかけて挑む、レヴューと書いて決闘と読むような熱い戦いです。

ここで既に『思っていたのと違う』と衝撃を受けるかもしれませんが、本作が本当に凄まじいのは、そうした想像の範疇を超える世界観が、圧倒的な映像表現でもってみる人に叩きつけられるところ。

目の前で繰り広げられるのはそんな突飛な、夢か幻をみているかのような展開にも関わらず、圧倒的すぎる映像に屈服させられるがまま、何をみせられているのか分からないけとどにかくすごいと理解させられてしまうのです。

■ざわめきの正体:言葉にできないもどかしさ

本作が、他の話題作達と違い、ストレートな賞賛の前に戸惑いを含んだ“ざわめき”を生んでいる理由もそこにあると思います。

劇場で体験した本作の衝撃は言葉で伝えることがあまりにも難しく、かといってただみたままの事実を伝えても、みていない人には『何を言っているのか分からない』感想となってしまうからです。

それは例えば、突飛ですが”UFOを目撃した衝撃を誰かに伝えたい”場面を想像してみると近いかもしれません。

どんな言葉を使ってもその時の衝撃をみていない人に伝えることは難しく、かといってみたままを伝えても益々相手を混乱させてしまうだけで、だけどその衝撃は一人で抱えているには重すぎて誰かに伝えずにはいられない…。

本作の感想やそれを受けた周りの人によるざわめきは、そんなみた人にしか伝わらない衝撃を言葉に出来ないもどかしさや興奮、戸惑いによって生まれているのだと思います。

実際に、本日公式からもハッシュタグ#劇場版スタァライトネタバレと共にネタバレが解禁されましたが、恐らく本作に触れたことが無い人がみても何を言っているか分からなかったり、中には『全然関係ない画像じゃん』と思ってしまう投稿の方が多いことでしょう。しかしそれはUFOを目撃してしまった人達からしたらまごうことなき事実であり、ネタバレ以外の何ものでもないのです。

■ざわめきの拡大:盛り上がり方の特徴

これだけ聞くと、知らない人にはどこか近づきがたい、ハードルの高い作品のようにも思えてしまうかもしれません。

ところが実際は、それによって観客層が狭められるどころか、本作は公開3週間目に入る今となっても、新たに鑑賞し出す人が続出し、その盛り上がりが徐々に広がってきています。

それは恐らく、鑑賞した人の内容は想像できないけど異様な熱量のこもった感想をみた人が、敬遠するではなくただごとではないと興味を持って鑑賞し、その人たちがまた同じような感想を投稿し出すことで、人々の“ざわめき”が拡大し続けているからでしょう。

それに加えて、現在公開3週目に入り、上映回数が徐々に減ってきていることも関係しているかと思います。

「鬼滅」や「エヴァ」、「ガンダム」といった同じ劇場公開作品が連日話題になる中、『ここにもすごい作品があるから見逃さないで!』という焦燥感もあって、オススメする声も日々大きくなっているようです。

本来は初週が勝負であるはずの映画が、こうして口コミにより後から右肩上がりに盛り上がっていく現象は、「KING OF PRISM」シリーズや「プロメア」などで見受けられたものとも似ています。

テレビシリーズ・総集編の続編であることや、あまりに前衛的な世界観から初見の人にはハードルが高そうにも思われていた本作ですが、そうした口コミでのざわめきの広がりもあり、現在は初見の方も次々と劇場に足を運んでいます。

もちろん、事前にテレビシリーズ(せめて7話まで)や総集編を視聴しておけばより深く堪能することもできますが、初見で何が起きたか分からないまま家に帰り、そこで作品を深掘りすることで、鑑賞後に改めて、楽曲の良さや登場人物達の激重感情、劇場版で使われていたセリフの由来を知り、更なる深い沼へと足を踏み入れるのもいいかもしれません。

数々の話題作と共に、今映画館での鑑賞を逃してしまうにはあまりにも惜しすぎるこの作品。

感染症対策を十分に行ったうえで、ぜひこの土日以降、劇場に足を運んで体感してみてください。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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