話題の新作映画「映画大好きポンポさん」で描かれる、ものづくり系作品の新境地
先週末6月4日、新作劇場版アニメ「映画大好きポンポさん」が公開されました。
可愛らしい絵柄に惹きこまれるような瑞々しい映像、その印象的なトレーラーを劇場やSNSでみかけて気になっている方も多いのではないでしょうか。
本作はいわゆる“映画づくり”を描いた作品。
それも、数ある“ものづくり系”の作品において、あまりスポットが当たってこなかったある作業が印象的に描かれた、稀有で新鮮な作品でもあります。
※以下、重要なネタバレはありませんが、作品の内容や作中の描写に触れています。
■「映画大好きポンポさん」とは
本作は、ハリウッドを彷彿させる架空の都市・ニャリウッドを舞台に、敏腕映画プロデューサー・ポンポさんに大抜擢されたアシスタントの青年が、仲間と共に、初監督作品となる実写映画づくりに挑む物語です。
映画づくりのお話ということで、制作の裏側を覗くワクワクや、作品が出来上がっていく過程をドキドキしながら見守る、ものづくり系作品ならではの魅力も満載。
また、可愛く個性的なキャラクター達がひとつの作品づくりに向けて奮闘する姿が、確かな映像美と共に、適度な奇跡やファンタジーも織り交ぜつつ描かれるヒューマンドラマの側面も、みる人の心を熱くさせてくれます。
■作品づくりの“取捨選択”を魅せる新境地
そうした普遍的な面白さはもちろん、本作が何よりも斬新なのは、こうしたものづくり系の作品では珍しい編集作業にもスポットが当てられている点だと思います。
本作で描かれる編集作業、つまり実写映画の編集作業は、撮影した膨大な映像素材から、必要な部分を選び、不要な部分を削って、1本の作品に繋げていく“取捨選択”の作業です。
アイディアが生まれたり何かが作り上げられていく、物語的にもワクワクするような過程が“足し算”だとしたら、編集作業ははみ出すものをそぎ落としてひたすら形を整えていく“引き算”の過程。
画的にも、広大なロケーションの中大勢で行う撮影と比べると、編集ルームに監督が一人引きこもってひたすらパソコンと向き合うという地味な作業…。
それが本作では、監督の葛藤や興奮、時間と予算に追われる緊張感などを、心情を表す映像表現や静かに激しいモノローグ、制作している劇中劇の映画の物語とシンクロさせることで、とても魅力的かつ印象的に描かれているのです。
引き算や地味な作業とは言いましたが、この編集における取捨選択の過程は、映像だけでなく、漫画や文章など、あらゆる作品制作において欠かせない、いい作品が出来るか出来ないかを左右すると言ってもいい重要な作業でもあります。
それにもかかわらず、映像や物語として魅せることが難しいため、こうしたものづくり系作品においてはあまりフィーチャーされてきませんでした。
そんな複雑な過程にもスポットを当て、かつ飽きさせることなく魅力的に描ききった本作は、数あるものづくり系作品の中でも、作品づくりの本質へと更に一歩踏み込んだ、新境地をみせてくれる作品でもあると思います。
■だれもが編集者である今の時代だからこそ
かといって本作は、そうしたものづくりのディープな側面ばかりを描いた、映像監督や漫画家、作家など、何かを作ったことがある人しか共感できなさそうな、間口の狭い作品という訳でもありません。
むしろ、TwitterやInstagram、YouTubeやTikTokなど、SNSや各種プラットフォームを通じて、誰もがユーザーであると同時に編集者でもある現在、本作で描かれる取捨選択の苦しみや葛藤に共感できる人はかなり多いのではないかと思います。
何十パターンも取ったベストショットから、SNSに載せる数枚だけを選び出さなきゃいけない。
何度も撮ったビデオから何分以内の1本の動画を作り出さなければいけない。
その過程で、『こっちもいいんだけどなあ』、『このシーンも残したいけど時間に収まらないから』と、断腸の思いで候補を削っていったにもかかわらず、実際には必要なうちの半分も削れていなかった…。という経験がある人は、作中で監督がひたすら映像素材を取捨選択していったにもかかわらず、実際は何十時間削らなければいけないうちのたった2、3分しか削れていなかった時の絶望や焦燥に、不思議な既視感や共感を覚えるはずです。
クリエイトに焦点を合わせると、何かを生み出す足し算にばかり目が行きがちですが、本作はそこから選んで捨てるという引き算があることで、いかに作品が精錬されるのかにも目を向けさせてくれます。
そんな、ものづくり系という大手ジャンルの作品にあってとても新鮮な体験ができる「映画大好きポンポさん」。
気になっていた方はぜひ一度、劇場で体感してみるのはいかがでしょうか。