Yahoo!ニュース

空前の『スパイダーマン』最新作からグッチ家の家庭内殺人まで。年末年始映画からお薦め作品を厳選!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』

今年のクリスマスからお正月は感染対策をしっかり取って好みの映画を観に出かけたい。そんな映画ファンのために、すでに公開中の話題作と来月前半に公開される注目作の中から、オススメの数本をピックアップしてみた。コロナ禍の暗雲を振り払う空前のヒット作から、人気シリーズの続編、話題のドキュメンタリー、賞レースを賑わせている秀作と、振れ幅が大きいのが今年の特徴だ。

『マトリックス』は過去のトリロジーをしっかり踏襲

大ヒットした『マトリックス』シリーズの18年ぶりの続編『マトリックス レザレクションズ』が先週、日本で最速公開され、興収第1位を記録している。過去のトリロジーをしっかり踏襲し、その上でキアヌ・リーヴス演じる主人公、ネオとキャリー=アン・モス扮するトリニティのラブロマンスの要素を強く盛り込んだ物語は、『なぜ今更?』というファンの不安を一蹴。できれば過去3作を軽く復習してから観ると、無理なく没入できるはずだ。一方、同じく人気シリーズの第3作『キングスマン : ファースト・エージェント』は完全なリブート版。第一次大戦を背景にレイフ・ファインズ演じる英国貴族、オックスフォード公がなぜ『キングスマン』を立ち上げたか?その理由が泣かせる。話題のスーツ類は時代背景からしてやや地味だが、それでも、組織の本部となるロンドンの高級紳士服街、サヴィル・ロウのウィンドウ・ディスプレーは昔も今も変わらぬ粋な設えで、まさにこれがシリーズの原点、そして人気の源だと実感させる。おしゃれ好きは変わらず必見だ。

『キングスマン : ファースト・エージェント』
『キングスマン : ファースト・エージェント』

2本の人物ドキュメンタリーが痛烈で味わい深い

暮れにドキュメンタリー映画はいかがだろう?このけっこうマニアックなハードルを、以下に紹介する2作品はクリアしていると思う。どちらも、かつて高い知名度があった人物のバイオグラフィだからだ。一つは『世界で一番美しい少年』。タイトル通り、巨匠ルキノ・ヴィスコンティによって発見され、傑作『ベニスに死す』(‘71年)で年老いた主人公を魅了する謎めいた美少年、タジオ役に抜擢されたビョルン・アンドレセンの光と影が、50年の歳月を経て明らかにされる。15歳でタジオ役のオーディションに臨んだ時の映像には、役と同じく無垢な少年の姿が映っていて、その後、彼を巻き込むことになる狂騒を思うと、思わず胸が痛くなる。時が経過し、一昨年『ミッドサマー』(‘19年)でロングヘアの老人を演じたのが、タジオだと知らされて驚愕した人も、”世界で一番美しい”というキャッチに興味を持った人は勿論、この美しくも痛々しいドキュメンタリーは味わい深いはずだ。

『BELUSHI ベルーシ』
『BELUSHI ベルーシ』

もう1本は一転、ハリウッド・コメディ隆盛期を駆け抜け、33歳の若さで急逝した天才コメディアン、ジョン・ベルーシの実像に迫る『BELUSHI ベルーシ』だ。アルバニア系移民の家に生まれ、シカゴの即興コメディ劇団を皮切りに、人気TVショー”サタデーナイト・ライブ”から映画界に躍り出て、学園コメディ『アニマル・ハウス』(‘79年)と『ブルース・ブラザース』(‘81年)でブレイクスルーしたベルーシ。無国籍言語を話すサムライ・パフォーマンス、『ブルース~』で炸裂させたミュージシャンとしての才能は計り知れず、もし、薬物の過剰摂取で命を奪われなければ、盟友のダン・アイクロイドが用意していた『ゴーストバスターズ』(‘84年)に出演していたはずのベルーシ。奇しくも来年2月にはシリーズの続編『ゴーストバスターズ アフターライフ』(‘21年)が公開される。そう考えると、本ドキュメンタリーもタイムリーだ。

上映終了館が多い『ドライブ・マイ・カー』へ急げ

『ドライブ・マイ・カー』
『ドライブ・マイ・カー』

今、世界の映画界は濱口竜介に注目している。なぜなら、感情を排除したような台詞の応酬劇から、コミュニケーションが持つ意味と、そもそも、俳優の演技力が担う役目そのものを問い直すその作風が、世界中を見渡して”濱口オリジナル”だから。その勢いからして、すでに公開中の2作品を暮れの必見作に入れることに抵抗はなかった。まず、『ドライブ・マイ・カー』。妻を亡くした喪失感すら表に出すこともできず、地方公演で広島を訪れた俳優で演出家の主人公、家福と、心の中に空虚さを隠している運転手、みさきのドライブが、徐々に物語の核心に向けてハンドルを切っていく。その語り口、やがて訪れる怒涛のクライマックスは、世界中の批評家たちを魅了し、すでに世界の映画賞を23個受賞し、36個のノミネートを勝ち取っている。先頃発表された第94回アカデミー国際長編映画賞候補作、ショートリストの15作品の中に残っていて、作品賞の候補入りも期待される。3時間という上映時間はそれだけ聞くと辛そうだが、劇中での不自然なやり取りは、なぜだか癖になる魅力に溢れていて時間が経つのを忘れさせる。多くの劇場では上映を終了しているが、これは例外。一部の劇場では続映中なのでこの機会に是非。

同じ濱口作品でも、面白さではさらに上を行くのが『偶然と想像』だ。友達が元彼と交際していることが分かって心がざわつくモデルの女性、セフレに唆されて大学教授を誘惑し、予想外の展開になる女子大生、街角での偶然の再会を喜び合ったものの、相手は全くの別人だと気づく元女子高生たち。彼らが偶然をきっかけに想像力をめぐらし、やがて、自分自身の本質と向かい合うことになる展開は、どれもトリッキーで惹きつけられる。今年のベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いたオムニバスには、さらに4話用意されているという。濱口作品の魅力は見終わった後、友人や恋人と簡単に語り合えない不思議さに満ちている点。そういう映画もたまにはいい。

今年のNetflixも賞に値する力作がいっぱいだ

『The Hand of God』
『The Hand of God』

ここからは劇場での上映を終え、Netflixで配信中の話題作を。まず、『The Hand of God』は『グレート・ビューティー 追憶のローマ』(‘14年)や『グランドフィナーレ』(‘16年)で知られるイタリアの巨匠、パオロ・ソレンティーノが、初めて自らの少年時代に思いを馳せつつ作った自伝映画。観光地ナポリのよく見る風景でなく、ソレンティーノの故郷への思いが詰まった誰も知らないナポリと周辺のカンパニア州の情景が、ユニークなショットと繊細なサウンドエフェクトによって画面に再現される。家族と一緒にマラドーナのプレーに興奮した夏の日の昼下がり、向かいにあるカプリ島に向けて漕ぎ出たボートとすれ違う、高速ボートの船底が海面をかする”シュッシュッ”という音etc。それらはいわゆる自伝映画の感傷的なムードと監督のクリエイティビティがいい塩梅で拮抗した名場面で、配信で見るのはいかにも惜しい。『The Hand of God』はイタリア映画代表としてアカデミー国際長編映画賞の15候補に残り、恐らく、『ドライブ・マイ・カー』と共に最終の5作品に選ばれることは間違いなさそうだ。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

今年もNetflix作品は賞レースを熱くさせている。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は『ドライブ・マイ・カー』と作品賞を競い合い、ジェーン・カンピオンは濱口竜介と監督賞を競い合う位置にある。なんて素敵なアワードシーズンだろう!?母国のニュージーランドの開拓時代のモンタナを再現し、かつて西部劇が自信満々で描いてきた男らしさのまやかしを、主人公のフィルに投影させることで今の空気感を観客に提示する。原作を脚色し、そのメッセージをより明確にした脚本家としてのカンピオンも、同じく濱口竜介のライバルだ。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は現時点で実に77個の映画賞に輝き、137個のノミネーションを獲得している賞レースのフロントランナーだが、中でも、フィルを演じるベネディクト・カンバーバッチのアカデミー主演男優賞は作品、監督賞と同等に有力だ。原作に描かれている人物像の詳細を削ぎ落とした脚本から行間を読み取り、自分の中にある男らしさの定義に縛られ、破綻していくフィルの、まるで何かに魅入られたような演技は、カンバーバッチの創造力の賜物。近年、次々とハリウッド大作デビューを飾ったイギリス人俳優たちの中で、彼には未曾有の才能があることがはっきり分かった今年。カンバーバッチ・ファンはさらに裾野を広げそうだ。

『ドント・ルック・アップ』
『ドント・ルック・アップ』

ドント・ルック・アップ』は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(‘16年)や『バイス』(’19)で賞レースを席巻してきたアダム・マッケイの最新作。しかし、今回はテーマがいつもより直球で、巨大彗星が地球に接近していることを何とかして広く告知したい天文学者とその教え子が、全然相手にしてくれないアメリカ政府やメディアに取り込まれていく様子を描いている。つまり、地球破壊を環境問題やパンデミックに置き換えて、いかに今の政治が有事に弱いかを訴えているのだ。しかも、ブラックなユーモアを介している分、観る側のショックは計り知れないという。本作には、環境保護をライフワークにしているレオナルド・ディカプリオをはじめ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット等、オスカー受賞者が挙って出演。つくづくNetflixの吸引力を痛感する。作品自体も7個の映画賞と30個のノミネーションを獲得している。

年明けはスパイダーマンと巨匠による2本が元気をくれる

『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』
『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』

年明けに公開される話題作にも強烈な目玉がある。まずは、『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に属する『スパイダーマン』シリーズの第3作は、全世界での累計興収が歴代第3位の669億円に到達。オープニングの興収はソニー・ピクチャーズの歴代第1位、全スパイダーマン映画でも歴代第1位という驚異的なヒットとなった。その波が年明け早々日本にも襲いかかる。自分がスパイダーマンであることがバレてしまったピーター・パーカーが、ドクター・ストレンジに頼んで世界を変えることで危機を乗り切ろうとする。そう聞いただけでマーベルファンでなくても心が躍る物語だ。世界が変わる、時空が一つになることで何が起きるかが最大の見どころ。また、全3作を総括するような本作は、数あるスーパーヒーローの中でも一際ナイーブで、少年のハートを持った主人公と共に歩んできた世代の涙腺を刺激することは確かだ。

さらに、新年第2週には巨匠の2作品が登場する。『クライ・マッチョ』は今年91歳になるクリント・イーストウッドが、親の愛に恵まれない少年に寄り添いつつ、凶暴な組織の追跡を交わしながらメキシコ国境を越える元ロデオ・カウボーイを演じる。彼は頑固で口も汚いが、少年には真っ当に接し、年相応の着地点には収まらない。老いても元気とは言うなかれ。老いて一層軽妙でハートウォーミングな人物像はイーストウッドならでは。主人公に迫る世代は来たる未来に明るさを見出せるかもしれない、新年向きの1作だ。

年明けを飾る華麗なるソープオペラ『ハウス・オブ・グッチ』

『ハウス・オブ・グッチ』
『ハウス・オブ・グッチ』

同じ週にはいよいよ『ハウス・オブ・グッチ』が登場する。イーストウッドより少し若い今年84歳のリドリー・スコットが、イタリアン・モードの名門、グッチで起きた家族内殺人事件の顛末を濃厚になぞる華麗にしてコミカルな実録ドラマだ。父親が経営する運送会社で経理を担当していたパトリツィア・レッジャーニが、生来の上昇志向を元手に、創業者の孫で弁護士を目指していたマウリツィオ・グッチに熱烈接近、そして、結婚。ファミリービジネスに興味がなかったマウリツィオを説得して家業を継がせるパトリツィアは、社長夫人としてのリッチで優雅な日々を夢見たものの、やり過ぎたことで夫の愛を失う。やがて、それが代行殺人に発展するまでの経緯が、背景となる’80年代ファッションとサウンドと共に描かれる本作。物語が服と音楽によって推進力を増し、さらに、パトリツィア役のレディ・ガガやマウリツィオ役のアダム・ドライバー、それに、グッチ一族をノリノリで演じるアル・パチーノやジャレッド・レト等による熱演が、観客をソープオペラ的世界へと誘う。まさに2022年は『ハウス・オブ・グッチ』と共に狂乱の幕開けだ。賞レースでは、レディ・ガガが現地時間1月9日に発表される第79回ゴールデングローブ賞のドラマ部門の主演女優賞の候補に挙がっていて、業界紙”Variety”が日々更新しているオスカーレースの主演女優賞部門で、『Spencer』のクリステン・スチュワートに次ぐ2位につけている。つまり、レディ・ガガは本命の1人なのだ。

レディ・ガガ@『ハウス・オブ・グッチ』
レディ・ガガ@『ハウス・オブ・グッチ』

以上が、今年の冬休みに観て損はない劇場と配信の必見作。映画の楽しみを再確認するために、日本映画の受賞がかなり濃厚な賞レースの行方を占うために、是非この機会にトライしてみて欲しい。

『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』

2022年1月7日(金) 全国の映画館にて公開

(C) 2021 CTMG. (C) & TM 2021 MARVEL.All Rights Reserved.

『キングスマン : ファースト・エージェント』

12月24日(金)公開

(C) 2021 20th Century Studios.All Rights Reserved.

『BELUSHI ベルーシ』

公開中

Belushi (C) Passion Pictures (Films) Limited 2020. All Rights Reserved

『ドライブ・マイ・カー』公開中

(C) 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

Netflix映画『The Hand of God』独占配信中

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中

Netflix映画『ドント・ルック・アップ』12月24日(金)より独占配信開始

『ハウス・オブ・グッチ』

2022年1月14日(金)より全国公開

(C) 2021 METRO-GOLDWIN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

清藤秀人の最近の記事