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クリストファー・ノーランの次回作をはじめオスカー受賞者たちのこれからをチェック

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
ノーランの次回作として噂される『プリズナーNo.6』(写真:Shutterstock/アフロ)

今年も色々あったオスカーナイトもすでに過去のものになりつつある今、気になるのは受賞者たちの今後の動向だ。そこで、現時点で決定、または噂されている彼らの次回作について取りまとめてみた。

クリストファー・ノーランの次回作はTVシリーズのリメイク?

すでに気持ちは次に向かっているはず
すでに気持ちは次に向かっているはず写真:REX/アフロ

まずは、『オッペンハイマー』の日本公開が3月29日に迫るクリストファー・ノーラン監督だ。先週あたりから映画情報サイトが伝えているのが、1960年代に世界的な人気を博したTVシリーズ『プリズナーNo.6』の映画化だ。実は、ノーランは2009年に同作の映画化に着手したものの、AMCが一足早くオリジナルのTVシリーズを基にジム・カヴィーゼル主演で6話完結のミニシリーズを制作し、放映したために断念している。この企画が今、話題になっている理由は幾つかある。まず、設定。辞職を決意した主人公の諜報部員が、ある日突然、何者かによって催眠ガスによって眠らされ、目覚めた先の”村(the village)”と呼ばれる謎のコミュニティに拉致され、”プリズナーNo.6”と名付けられる。当然、彼は”村”からの脱出を試みるのだが、いつも不思議な白い球体”ローヴァー”が現れて行く手を阻まれてしまう。TVシリーズでこの白い風船がゆるゆるとジャンプしながらどこからともなく現れる時の恐怖は半端なかった。そんな脱出しようとしても元に戻されてしまう時間、または設定のループがいかにもノーラン的だし、『007』シリーズの監督も依然噂されるノーランにとって、『プリズナーNo.6』はスパイものの要素が濃厚なことからも、次回作として浮上した理由は分かる気がする。ノーランには他にも、マーティン・スコセッシ監督の『アビエイター』(2004年)によって断念したハワード・ヒューズの伝記映画が復活する可能性も噂されるが、『オッペンハイマー』に続いて同じジャンルに挑戦する可能性は現状、低そうだ。もちろん、全く別のジャンルでオスカー超えを狙うことも考えられる。いずれにせよ、映画界のキングとなったノーランの動向からは目が離せない。

キリアン・マーフィーはハイブランドの顔に

オスカーナイトからヴェルサーチだったキリアン・マーフィー
オスカーナイトからヴェルサーチだったキリアン・マーフィー写真:ロイター/アフロ

キリアン・マーフィーの次回作も気になるところだ。アイルランドの人気小説を基に、地元の教会の暗部に切り込んでいく父親の格闘を描いた『Small Thing Like These』(IMDbで7.3評価)は、すでに今年2月のベルリン国際映画祭でオープニングを飾っている。また、最新情報として、マーフィーが主演したNetflixのドラマ・シリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』(2022年)の映画版にマーフィーが再び主演することが判明。物語は19世紀のバーミンガムに実在したギャンググループが成り上がっていく過程を描いた犯罪ドラマで、今年9月にクランクインする予定だ。マーフィーにとってそれよりもホットなニュースは、ハイブランド、ヴェルサーチのメンズ部門のキャンペーンに起用されたことだ。同ブランドの専任デザイナー、ドナテラ・ヴェルサーチは公式に『キリアンがヴェルサーチ・ファミリーの一員となることに私はとても興奮している』とコメント。去るオスカーナイトでもマーフィーはヴェルサーチのカマーバンド付きタキシードを着て登場していて、すでにその時から両者の蜜月は始まっていたわけだ。今後、有名ファッション誌の広告にヴェルサーチを纏ったマーフィーの写真が躍ることになる。

『哀れなるものたち』コンビの次回作は6.21に公開

最強コンビの快進撃は続く
最強コンビの快進撃は続く写真:ロイター/アフロ

『哀れなるものたち』のコンビはどうだろう?エマ・ストーンは現在、ヒット映画の続編『クルエラ2』を撮影中で、今年の6月21日にはヨルゴス・ランティモスとの最新コラボ作品『Kinds of Kindness』が全米で公開される。ストーリーはベールに包まれているが、アンソロジー映画とだけ知らされていて、共演は『哀れなるものたち』のウィレム・デフォーとマーガレット・クアリー、『女王陛下のお気に入り』(2018年)のジョー・アルウィンという常連組に加えて、『ザ・ホエール』(2022年)のホン・チャウ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンス等、近年オスカー候補に名を連ねた話題の顔ぶれが脇を固めている。もしかして、ヨルゴス&エマの最強コンビはこれで来年のオスカーを狙うことになるのだろうか?

ロバート・ダウニーJrの次回作はファン待望のアレ?

オスカー受賞で今後のキャリアに影響はあるのか?
オスカー受賞で今後のキャリアに影響はあるのか?写真:ロイター/アフロ

去るオスカーシーズンを通して主役として脚光を浴びたロバート・ダウニー・Jr.だが、人気シリーズの第3弾『シャーロック・ホームズ3』の製作状況は微妙だ。プロットは明かされていないが、TVシリーズ『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』(2022年)で監督として評価された俳優でもあるデクスター・フレッチャー指揮の下、ワトソン役のジュード・ロウの他に、エディ・マーセン、ジャレッド・ハリス等、イギリスの名優が脇を固めて撮影がスタートしたものの、その後、ダウニー・Jr.とロウのスケジュール調整やパンデミックによる製作中断、前2作を監督したガイ・リッチーの降板、等々、数々の困難に見舞われた。IMDbでは依然プリプロダクション(撮影中)の表記にはなっているものの、未だ公開時期は明記されていないのが気になる。オスカーを手にしたことで演技派俳優として改めて認知された彼が、今後、どんな作品を選択するのか?映画ファンとしては楽しみ過ぎる。

名脇役が本領を発揮するのはこれからか

レッドカーペットではディーバだった
レッドカーペットではディーバだった写真:ロイター/アフロ

6月21日の日本公開に向けて、副題も『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』に決まった映画で、置いてけぼりの1人を好演してアカデミー賞以下、実に計67個の映画賞を独占したダバイン・ジョイ・ランドルフ。彼女もすでに2本の新作を撮り終えていてどちらも現在編集段階にある。1本はマーク・ストロング、オマール・シー共演のアクション・ドラマ『Shadow Force』。元コマンド隊員だった男女が恋に落ちてルールを破ってしまい、仲間と共に雇い主が送り込んでくる刺客と戦うというアクション映画だ。そして、もう1本はアクション・コメディの『Bride Hard』。傭兵軍団が結婚式を人質に取ったものの、花嫁の介添人が敏腕諜報部員だったために結婚式場は地獄と化す、という話。しかし、どちらもランドルフがオスカー俳優としてブレイクする前に完成させていた作品で、彼女が今あるステイタスを武器に本領を発揮するのはこれからだ。

ノーランから山崎貴監督に託されたミッション

山崎貴監督とクリストファー・ノーラン夫妻
山崎貴監督とクリストファー・ノーラン夫妻写真:ロイター/アフロ

『ゴジラ−1.0』(2023年)でアジア初のアカデミー視覚効果賞を受賞した山崎貴監督がVFXを手掛けた味の素の新CMが、今月14日より同社の特設サイトで公開されている。そこでは、巨大怪獣”フードロスラ”が街や人々に襲いかかる姿がリアルなVFXにより表現されている。”フードロスラ”は廃棄食品が生み出した悲しみの象徴だ。そして、山崎監督はアカデミー賞でクリストファー・ローランと面談した後で、『オッペンハイマー』に対するアンサー映画を作るのが、日本の映画人としてのミッションだと語っていた。それを請け負うのが誰なのかは分からない。だが、ここに挙げたオスカー受賞者の中で、次回作に最も大きな期待がかかるのは山崎貴監督であることは間違いない。

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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