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今年のオスカーナイトはそれ自体が"映画"になる!?プロデューサーの意図を読み解く

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
昨年の演技賞ウィナーたち(写真:ロイター/アフロ)

 あと約40日後に迫ってきた第93回アカデミー賞授賞式。パンデミック下で行われるオスカーナイトはいったいどんな感じになるのか?すでに今年は司会者を置かないこと、感染対策をしっかり行なった上で、リモートではなく、ロサンゼルスのドルビーシアターとユニオン・ステーションにメイン会場を置き、ロンドンとパリにもサテライトを設けることが発表されている。でも、依然として中身が見えないのだ。そこで、半信半疑の映画ファンのために、セレモニーでプロデューサーを務めるジェシー・コリンズ(グラミー賞やソウル・トレイン・アワードを担当)、ステイシー・シャー(『エリン・ブロコビッチ』や『コンテイジョン』を担当)、『オーシャンズ』シリーズ(01~)等で知られるスティーヴン・ソダーバーグが、セレモニーの構想を発表した。

 まずはプレゼンターだ。長年の決まりにより、前年の演技賞受賞者4人が全員出揃い、今年の受賞者にオスカーを渡す。つまり、去年『ジョーカー』(19)で主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックスが、『マ・レイニーのブラックボトム』のヴィオラ・デイヴィスに、『ジュディ 虹の彼方に』(19)で主演女優賞を受賞したレネ・ゼルウィガーが、惜しくも故人となったチャドウィック・ボーズマンの遺族に、『マリッジ・ストーリー』(19)で助演女優賞に輝いたローラ・ダーンが、『Judas and the Black Messiah』のダニエル・カルーヤに、そして、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)で助演男優賞を受賞したブラッド・ピットが、『ミナリ』のユン・ヨジョンに、もしかしてオスカー像を手渡すシーンが見られるかもしれない。前年の受賞者に代わって何の脈略もない俳優が代役を務める無理くりな事態は、少なくとも今年はなさそうだ。

去年のNYファッションウィークに登場した時のゼンデイア
去年のNYファッションウィークに登場した時のゼンデイア写真:REX/アフロ

 さらに、部門は不明だがけっこう派手な面々がプレゼンターとして登場する。ハル・ベリー、アンジェラ・バセット、ドン・チードル、レジーナ・キング、ゼンデイア、リース・ウィザースプーン、ブライアン・クランストン、ハリソン・フォード、マーリー・マトリン、リタ・モレノ、そして、恐らく監督賞のプレゼンターを務めるであろうポン・ジュノ、以上、国籍やルーツが多彩な映画人たちが、セレモニーを盛り上げる役目を負う。仕切るソダーバーグは『オージャンズ』シリーズを例に挙げるまでもなく、”メガ・アンサンブル”をコントロールするのが得意な人だから、ただ顔ぶれの派手さに依存した演出は回避するのではないだろうか。

 注目すべきは、3人のプロデューサーたちのコメントだ。曰く、『例えば授賞式が単なるTV用のセレモニーではなく、それ自体が映画だったらどうでしょう?まして、今年のオスカーナイトには”マーベル・シネマティック・ユニバース”にも勝る豪華なメンツが出揃うんですよ!』オスカーナイトが映画になる?もしも、このオスカーナイト=ライブ映画というコンセプトが実現したら、こんなに楽しい授賞式はないと思う。なぜなら、アカデミー賞はすでに出来上がった映画の祭典であり、グラミー賞やトニー賞のようなショーアップに不可欠な要素、つまり、ライブパフォーマンスとは宿命的に無縁だったからだ。3人はさらに、今年のオスカーナイトを”Stories Matter(物語性重視)”と表現し、俳優たちにインタビューへの対応と、そこで各々のストーリーを包み隠さず語って欲しいとも要望している。彼らが目指しているのは、1人1人のストーリーを繋げて、大きな物語を完成させることだという。ポイントは、授賞式会場となるユニオン・ステーションには、コンコースの他に、待合室、レストラン、バー、カフェ、そして、美しい中庭があること。そして、ドルビーシアターは歌曲賞を始めとするライブ会場にのみ使われること。ロンドンとパリに設けられるサテライトが、候補者たちの単なる待機場所としては使われないだろうということ。

ユニオン・ステーションの構内
ユニオン・ステーションの構内写真:ロイター/アフロ

 また、プロデューサーたちはレッドカーペットでのドレスコードについて、スエットは許可しないことも明言している。これによって、ゴールデングローブ賞の時のジョディ・フォスターのようなおしゃれ柄のパジャマは許されなくなった。最近、あらゆるアワードセレモニーやイベントでベストドレッサーを総なめにしているゼンデイアをオスカーにぶっ込んできたのは、ドレスコードのアップが目的なのかもしれない。因みに、ブラッド・ピットは最近コラボレーションが発表されたイタリア紳士服のハイブランド、ブリオーニのイブニングウェアで登場する可能性が高い。ブリオーニのイブニングウェアは、昨年、ピットがアカデミー助演男優賞を受賞した際に着用していたスーツがモデルで、同社の各アイテムにはピット自身がデザインしたサイン入りのラベルがあしらわれているという。

去年、ガバナーズ・ボールでのブラッド・ピット
去年、ガバナーズ・ボールでのブラッド・ピット写真:ロイター/アフロ

 セレモニーの形式が徐々に明らかになり、それに付随する形でレッドカーペット・ファッションも気になり始めた今年のオスカーナイト。制約がきつい分、無駄が排除され、作り手のクリエイティビティが存分に発揮されれば、例年になく新鮮で面白いイベントになる可能性はあると思う。乞う、ご期待である!

★第93回アカデミー賞授賞式 

4月26日(月) 午前8時30分~ 午後9時~ WOWOWにて独占中継

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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