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次のボンドは誰か!?最新作の公開再延期が発表された今、オッズの一番人気はこの人

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
トム・ハーディ(写真:Shutterstock/アフロ)

 今年最大のイベントムービーになるはずだった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開日が、再度延期されて当初の予定から1年後の2021年4月になった。映画ファンはダニエル・クレイグ最後の勇姿を確かめるまで、後まだ半年待たなくてはならない。同時に、彼らは「近日公開」という触れ込みに対してかつてないほど懐疑的になっている。そんなある種渇いたムードが漂う中、コアなボンド・ウォッチャーはすでに次期ボンドの人選に新たな楽しみを見出しているようだ。

次期ボンド選びがいつもほど時間的に余裕がない理由

 配給元のMGMとユニバーサル、そして、2人のプロデューサーが最新作の公開延期を正式に発表したのは去る10月2日。直後から、多くのメディアが次期ボンドに関しての報道をヒートアップさせている。実はこれには理由がある。仮に(絶対であることを望むが)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が来年4月に公開されるとして、続くシリーズ第26作は遅くとも2023年から24 年にリリースされる可能性が高い。なぜなら、クレイグ主演のシリーズは平均で2.8年毎に公開されて来たからだ。そうなると、これまでのように製作側がボンド選びにたっぷり時間を費やす余裕はなくなる。だから、次期ボンド選びはすぐにでも始めるべきだというのがメディア側のロジックだ。もちろん、彼らの予想が必ず的中するとは限らないのだが、とりあえず、現段階で誰が次のボンドに相応しいと思われているのか、について解説してみたい。

 ここで指針になるのはお馴染みのオッズ、つまり確率を示す数字だ。老舗のブックメーカー、CORALが10月4日時点で発表したオッズに従い候補者を列記してみよう。

オッズの一番人気はシリーズに革命を起こしそうなトム・ハーディ

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開再延期が発表される前から、先走った一部メディア(信憑性があるという意見もある)が「次期ボンドに決定!」と銘打ち、他メディアがそれに追随する形でポスト・ボンドの最右翼に挙げているのがトム・ハーディ(47歳)。CORALのオッズも1/2でトップだ。かつて、5代目ボンドを演じたピアース・ブロスナンが斬新なボンド像をハーディに期待していると明言したり、本人がそれに対してコメントを拒否したことが逆にメディアと一般ファンの興味を煽ったりと、常に話題を提供して来たボンドレースの主役である。ハーディは初代のショーン・コネリーや6代目のダニエル・クレイグと同じくイギリス人だから、イアン・フレミングが原作に書き記したボンド像を、少なくとも国籍ではクリアしている。一方で、出演当時は無名だった2代目のジョージ・レーゼンビー、まだスターの地位を確立していなかったコネリー、クレイグ、ティモシー・ダルトン、そして、TVで人気者だったブロスナン等と異なり、ハーディはすでに映画界で高い知名度を手にしている。これは、彼にとってもシリーズにとってもメリットである反面、ファンにとってはボンドアクターが役と共に成長していく過程を見る楽しみに欠けるデメリットもある。

 とは言え、『インセプション』(10)の夢に進入する口達者な偽造師、『ウォーリアー』(11)の悲痛な運命を辿る総合格闘家、『オン・ザ・ハイウェイその夜、86分』(13)のハイウェイを一人疾走する孤高のドライバー、『レヴェナント: 蘇えりし者』(15)の姑息な裏切り者、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)の寡黙なロードウォリアー、そして、『Capone』(20)の梅毒に侵された晩年の暗黒王と、俳優としてのカテゴライズが依然困難なハーディである。だからこそ、彼が演じるボンドは想定しづらく、ブロスナンが言うように、作られたイメージを破壊する可能性が大きいのかもしれない。イギリスの日刊紙、The Guardianが興味深い記事を掲載している。それによると、ジェームズ・ボンドはアルコール依存症の殺人者であり、性的に不適切な行為に没頭して来た過去があり、そんなボンドを演じるのにトム・ハーディほど完璧な俳優はいないというのが著者の論調である。

 筆者もこれに賛同する。初代コネリーと監督のテレンス・ヤングが開拓した初期のラブシーンの際どい表現が、恐らく3代目のロジャー・ムーアあたりから低く抑えられるようになり、ダニエル・クレイグで若干押し戻した感があるこの分野。それを、是非トム・ハーディで達成して欲しいと考えるからだ。

以下、ジェームズ・ノートン、トム・ヒドルストン等が続く

 さて、トム・ハーディに続く2番手はオッズが1/4のジェームズ・ノートン(35歳)。イギリスITVの人気シリーズ『グランチェスター 牧師探偵シドニー・チェンバース』(14~)が好評で、ダニエル・クレイグのファンを自認する彼は、自身でもボンド役に興味があることを認めている。3番手はオッズ1/6のサム・ヒューアン(40歳)。ドラマ『アウトランダー』(14~)のジェイミー・フレイザー役で人気の彼は、2006年に行われた6代目ボンドのオーディションでクレイグに敗れた過去がある。4番手はオッズ1/7のトム・ヒドルストン(39歳)。ファンからトムヒの愛称で親しまれている彼はブックメーカーの常連で、そのトムヒに続く5番手がオッズ1/8のリチャード・マッデン(34歳)。BBCの人気シリーズ『ボディガード-守るべきもの-』(18~)でマッデンと共演した俳優のキーリー・ホーズは、劇中での彼を「まるでジェームズ・ボンドのようだった!」と称賛。彼女のコメントがマッデンを好位置に就かせている理由だろうか。6番手(オッズ1/10)は史上初のアフリカ系ボンドの誕生が期待されるイドリス・エルバ(48歳)。シリーズのプロデューサー、バーバラ・ブロッコリーは配役の多様化を望んでいて、アントワン・フークワ監督とエルバのコンビで新シリーズを視野に入れているという報道もある。続く7番手(オッズ1/12)はトム・ハーディと同じくすでにスターのヘンリー・カヴィル(37歳)。『マン・オブ・スティール』(13)のスーパーマン役、『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)のスパイ役、『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』(18)等々、キャリア的には申し分のない彼は、自分はボンド役にぴったりだと自らPR。実現したら、史上最もマッチョなボンドがスクリーンを席巻するかもしれない。

 因みに、オッズの下位にはオーランド・ブルーム(1/16)、マイケル・ファスベンダー(1/20)、デヴィッド・ベッカム(1/100)等がいる。果たして、歴代最長となる5120日に渡ってジェームズ・ボンド役を演じて来たダニエル・クレイグが、その分だけ、独特の硬質なイメージを定着させて来た映画史に残るキャラクターを、果敢に引き継ぐのは誰なのか!?『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』公開後には、注目の人選が加速するはずだ。

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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