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今週、初来日!体がゴムまりのように弾む「ロケットマン」タロン・エガートンの躍動美

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

 いよいよ8月23日の日本公開が間近となった「ロケットマン」だが、ここで改めて押さえておきたいのはエルトン・ジョンを演じるタロン・エガートンのことだ。そもそも、なぜ、エガートンはロック界のレジェンドを演じることになったのか。まず、「ロケットマン」でプロデューサーを務めるマシュー・ヴォーンと製作総指揮のジョンは、ヴォーンが監督した「キングスマン: ゴールデン・サークル」(17)にジョンがカメオ出演して以来、親しく付き合う仲。ヴォーンは「ゴールデン・サークル」と前作「キングスマン」(14)の2本でエガートンの才能を高く評価していた。また、「ロケットマン」の監督、デクスター・フレッチャーは2本の「キングスマン」の間にエガートンが出演した「イーグル・ジャンプ」(16 イギリスで初めてスキージャンプのオリンピック代表に選出された実在のアスリート、マイケル・エドワーズの実録ドラマ)を監督。つまり、ヴォーンと同じく、フレッチャーもエガートン押しだったのである。

エガートンがエルトン・ジョンを演じる必然性

"土曜の夜は僕のいきがい"
"土曜の夜は僕のいきがい"

 一方、エガートンはイルミネーション・エンターテインメント製作のアニメ「SING シング」(16)でゴリラのジョニーに扮して、偶然にも、オーディション場面でエルトン・ジョン作曲の"I'm Still Standing/アイム・スティル・スタンディング"を熱唱。彼の歌唱力はその時すでに折り紙付きだった。それでも、役が決まると、エガートンは歌とピアノのレッスンを5ヶ月続け、エルトン・ジョンとも綿密に連携を取りつつ、撮影に臨んだ。劇中で歌われる全曲を、エガートン自身が歌っている。もはや、俳優が自ら歌唱を担当するのは当たり前の時代なのだ。そして、完成した「ロケットマン」は、ジョンの少年時代から怒濤のブレークスルー・イヤーまでを、発表された時代に関係なく映画の進行に合わせてシャッフル&再構築されたヒット曲に乗せて綴る、ミュージカル・ファンタジーとして観客にプレゼンされた。家族の団欒に恵まれなかった子供の頃の孤独や、ホモセクシュアリティ、薬物依存等々、成功物語の裏側にも光を当てるが、何しろ、エルトン・ジョン自身がポップで明るくてコミカルでチャーミングな人だから、映画のテイストもあくまでファンタジック。それは、ジョン本人が作品に望んだ基本コンセプトだった。この映画を見ると、人生は次に何が起きるか分からないジェットコースターみたいだと感じる人は多いと思う。辛いことも多いけれど、だからこそ、人生は楽しいのだと。

圧巻はエガートンが抜群のダンステクを披露する"土曜の夜~"

"ロケットマン"
"ロケットマン"

 エルトン・ジョンの波乱に満ちた人生を振り返る過程で、激しいビートに乗せて歌、そして、踊りが展開する。ミュージカル・シーケンスの演出は、恐らく、ここ数年で最もミュージカル的ではないだろうか。カラフルなシーンを果敢にリードするのが主演のエガートンだ。イントロを飾るギターのリフが気分を高揚させる、"The Bitch Is Back/あばずれさんのお帰り"、ミュージカル映画としての楽しさを凝縮したような"Saturday Night's Alright(For Fighting)/土曜の夜は僕の生きがい"(この場面でのエガートンのダンス・テクニックが凄い!)、ジョンの歌が奇跡をもたらす"Crocodile Rock/クロコダイル・ロック"、エガートン自身が最もお好みだという"Bennie and the Jets/ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)"、映画のタイトル曲、"Rocket Man/ロケット・マン"etc。

"あばずれさんのお帰り"
"あばずれさんのお帰り"

全曲、そして、全編、そのゴムまりのような体を躍動させながらロックスターの混乱と至福と地獄を演じるエガートン。気がつくと、そこにエルトン・ジョン本人が存在しているかのように感じさせる。撮影前にジョン自身はエガートンに、「自分を完コピする必要はない。君のやりたいようにやればいい」と進言したのにもかかわらずだ。まさに、役の憑依、音楽のパワー、映画のマジック。

今週、初来日。人気はヒートアップ必至!?

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 エルトン・ジョンと言えば、派手な衣装と共にフレームにカラフルなストーンが散りばめられたメガネやサングラスの類いがトレードマークだ。全部で53種類にも及ぶメガネ類を次々と掛け替えて画面に現れ、横に広い頭蓋骨(映画スターとしての必須条件)の半分近くを大きなメガネで覆い隠し、美しく力強い顎のラインを強調してみせるエガートン。「ボヘミアン・ラプソディ」(18)でフレディ・マーキュリーの衣装を担当した衣装デザイナーのジュリアン・デイが揃えたコミカルなコスチュームの数々、そして、年と共に薄くなっていく後頭部をカバーするカツラ効果とも相まって、映画はさながらタロン・エガートンの七変化的な趣だ。

 そんな風に、「キングスマン」以来のエガートン・ファンを間違いなく満足させ、同時に新たなファンを獲得しそうな最新作「ロケットマン」。エガートンは日本公開に合わせて、今週、8月13日、遂に初来日を果たすことが決まっているので、人気はさらに上昇するはずだ!

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ロケットマン

8月23日(金) 全国ロードショー

配給: 東和ピクチャーズ

(C) 2018 Paramount Pictures.All rights reserved.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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