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全世界同時公開間近。M.ナイト・シャマランが辿った最新作「ミスター・ガラス」までの長い道のり

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
1月9日に行われた「ミスター・ガラス」のロンドン・プレミアに現れたシャマラン(写真:Shutterstock/アフロ)

 M.ナイト・シャマランの最新作「ミスター・ガラス」は、彼が事前に予告したとおり、過去の代表作「アンブレイカブル」(00)のその後を描いた続編であり、同時に「スプリット」(17)の世界観も共有するクロスオーバー作品。結果的には、18年ぶりに製作されたシリーズ第3弾とも言えるわけだ。

 18年の道程は長かった。始まりは「アンブレイカブル」が公開された直後、主演のブルース・ウィリスが3部作の可能性を匂わせるが、シャマランがそれを否定。しかし、翌2001年8月、映画のDVDセールスが好調だったことから、一転、シャマランはディズニー傘下のタッチストーンに続編の製作を打診するが、劇場での成績不振を理由に却下される。2008年9月、ウィリスの共演者であるサミュエル・L・ジャクソンが続編への出演に興味があることを表明するが、依然、シャマランはそれを否定。2010年2月、シャマランとウィリスがジャクソンを加えた3人による再コラボの準備が整っていることをメディアにリーク。その後、2016年にシャマランは突然「スプリット」を発表。24人の人格を持つ多重人格者、ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)の変容ぶりを描いた映画のラストに、何とブルース・ウィリス扮する「アンブレイカブル」の主人公、デヴィッドを登場させてファンの度肝を抜く。その瞬間、「スプリット」が「アンブレイカブル」の続編、つまり「ミスター・ガラス」へと繋がることをファンは知らされることになる。

 シャマランがあれだけ否定していた「アンブレイカブル」の続編製作をいつ決断したかは定かではない。むしろ、18年間アイディアを温め続けていたとも言える。彼は「スプリット」(ユニバーサル映画配給)の脚本執筆段階で「アンブレイカブル」の製作元であるディズニーに、デヴィッドのキャラクター使用許諾を申し出ていて、その際、許可を得る代わりに、もし「アンブレイカブル」の続編が作られることになった暁には、ディズニーに配給権を委任することを確約している。こうして、「ミスター・ガラス」はアメリカでの配給はユニバーサルが、世界配給はディズニーが担当することになり、日本では、ディズニー映画なのに冒頭にユニバーサルの地球マークも登場するという、稀なケースの作品になった。希代のストーリーテラーでありながら、同時に、トップビジネスマン並みのディール能力を併せ持つシャマランらしいエピソードではないか!?

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 さて、「ミスター・ガラス」では、「アンブレイカブル」で乗員乗客131人が死亡した悲惨な列車事故からただ一人生還し、自らに備わった驚異的な肉体能力を自覚したデヴィッド・ダン(ウィリス)が、もう一つ、人に触れると相手が悪人かどうかを察知する能力を身につけて再登場する。そして、デヴィッドに人並み外れた能力を自覚させた先天的骨形成不全症患者のイライジャ・プラス(ジャクソン)も、その後骨折を繰り返して、人生で実に94回の骨折を経験した身体の持ち主として現れる。これに、「スプリット」で解離性同一性障害のため多重人格者となったケヴィン・ウェンデル・クラム(マカヴォイ)を含めた計3人が、あろうことか、フィラデルフィアのとある施設に集められている。主催者は精神科医の"ステイプル"だ。その目的は、3人共に自分が人間を超える能力の持ち主と信じているデヴィッド、イライジャ、ケヴィンに、それが妄想であることを自覚させることだ。こうして、禁断の研究の対象にされた3人の凄絶な戦いが展開していく。と、ここまでがネタバレすれすれの情報だ。

 しかし、もともとがコミック好きで、それが映画監督を目指すきっかけにもなったシャマランが、「アンブレイカブル」で描いた"リアル・スーパー・ヒーロー"への熱い思いを、何段階かアップデートして画面に叩きつけたのが、最新作「ミスター・ガラス」であることは断言できる。代表作「シックス・センス」(99)以降、2000年代に入って本来のクリエイティビティを必ずしも発揮できなかったシャマランが、なくしかけていた映画作家としての自信を取り戻したことを、日本中のシャマラニストが実感するに違いないのだ。

 偶然か否か、2019年は天才監督が復活する巡り合わせになっている。1人はシャマランで、もう一人は、KKKに潜入捜査を試みる黒人警官の体験を描いた「ブラック・クランズマン」のスパイク・リーだ。「ミスター・ガラス」は1月18日に全世界ほぼ同時公開され、話題になるのは必至だし、一方「ブラック・クランズマン」は今年の賞レースを牽引し、来るオスカー・ノミネーションも確実視されている。俳優は例外として、監督が復活することは難しいとされているハリウッドで、シャマランとリーは常識を覆す文字通り”スーパーな”存在なのである。

ミスター・ガラス

(C) Universal Pictures

2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

 

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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