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今年のGWを彩るクリステン・スチュワートのファッションムービー2本に注目!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

2015~16年秋冬パリ・オートクチュール・コレクションで、いつも以上に注目を集めたのはシャネルだった。ショーの冒頭、グラン・パレのメインホールにしつらえられたアールデコ風のカジノに、ジュリアン・ムーア、リリー・コリンズ、ヴァネッサ・パラディ等、話題の女優たちが顧客に扮して次々と登場したのだ。ギャンブルに興じるセレブの周辺を最新クチュールを身に纏ったモデルたちが闊歩するという演出である。そして、女優の先陣を切って物憂げな表情でホールに現れたのがクリステン・スチュワート。今やリリー=ローズ・デップと並ぶシャネルの顔であり、2013~14年の刺繍やコサージュに特化したシャネル・メティエダール・コレクションでアイコンを務めて以来、翌15~16年の同コレクションや、15年春夏のアイウエア・コレクションでモデルに任命される等、リリー=ローズやブレイク・ライヴリー等と並んでハリウッドを代表するファッション・セレブとして定着しつつある存在だ。

ホフホワイトのストラップドレス@シャネル
ホフホワイトのストラップドレス@シャネル

そんなクリステンとシャネルの蜜月を象徴するような映画が、来るゴールデンウィーク前後に相次いで公開される。まず、シャネルがケイト・ブランシェットのためにツイードのスーツを提供した「ブルー・ジャスミン」(13)と同じくウディ・アレンがメガホンを執った「カフェ・ソサエティ」だ。この映画には幾つかの必然性がある。1983年以来シャネルの専任デザイナーを務めているカール・ラガーフェルドが、2012年にUS Harper's Bazaarのために自ら撮り下ろした写真集が、偶然にも"Cafe Society"と題された1920年代のゴールデンエイジをイメージしたアートワークだったこと。そして、それから3年後、カールはココ・シャネルの生涯を描いた自作の短編映画「Once and Forever」の主役に、すでにシャネルのイメージモデルに就任していたクリステンを抜擢したこと。その際、カールはクリステンを「同世代の女優の中で才能が傑出している」と絶賛。一方、アレンが自作のミューズに初めてクリステンを迎え入れた理由が、何とあの「トワイライト」シリーズ(08~)ではなく(彼は「トライライト」シリーズそのものを知らなかったとか!)、彼女がブレイクスルー直前に出演した青春ラブロマンス「アドベンチャーランドへようこそ」(09)が大のお気に入りだったこと。ついでにと言っては何だが、同作の主演俳優、ジェシー・アイゼンバーグもめでたく「カフェ・ソサエティ」でアレン組へ初参戦と相成った。

ジェシー・アイゼンバーグ(左)とクリステン
ジェシー・アイゼンバーグ(左)とクリステン

カール・ラガーフェルド、ウディ・アレンという服飾界と映画界を代表する重鎮を結びつけたクリステンだが、1930年代黄金期のハリウッドとニューヨークで展開するロマンティックコメディ「カフェ・ソサエティ」では、アイゼンバーグ扮する主人公を魅了する大物プロデューサーの秘書兼愛人に扮して、全編、シャネルのドレスやL.A.っぽいリゾートウェアで通している。ライトピンクのシルクとレースのドレスや、オフホワイトのベルト付きストラップドレス、そして、白いシルクのショートパンツはカスタムメイドだが、シャネルは同時にクリステンと共演のブレイク・ライヴリー(NY社交界の華)のために、ハイジュエリーとメイクアップも提供。それら時代背景を写したゴージャスな衣装とメイクは、女優たちの美しさとも相まって、アレン映画史上最も豪華なものになっている。

「パーソナル・ショッパー」から@シャネル
「パーソナル・ショッパー」から@シャネル

もう1本のクリステン主演作は「パーソナル・ショッパー」だ。監督はこれまた前作「アクトレス~女たちの舞台~」(14)でクリステンを演出して以来、その個性と演技力に魅了され、今回は彼女に主役を託したフランスの鬼才、オリヴィエ・アサイアス。劇中、多忙なセレブに代わって買い物を代行する(題名の意味)クリステン演じるヒロイン、モウリーンは、クライアントに頼まれて購入したシャネルのメタリックドレスや、カルティエのジュエリーをこっそり身につけるうちに、次第にアイデンティティを喪失して行く。借り物の服や装飾品をまるで自分の物のように見せかけるという構図は、昨今のハリウッドセレブがリアルでやっていること。その皮肉な視点がクリステンのどこか飢餓感を感じさせる表情によって具現化された、これはある意味、ファッションの空虚を描いた野心作。とは言え、「カフェ・ソサエティ」も「パーソナル・ショッパー」も、ファッションアイコンとしてのクリステンの魅力を最大限に引き出したファッション映画であることに違いないのだが。

カフェ・ソサエティ

5月5日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー

配給:ロングライド

Photo by Sabrina Lantos (C)2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC. 

パーソナル・ショッパー

5月、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

(C)2016 CG Cinema- VORTEX SUTRA- DETAILFILM-SIRENA FILM- ARTE France CINEMA- ARTE Deutschland/ WDR

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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