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【UFC270】ハードパンチャーから総合格闘家への進化をみせたUFCヘビー級王者ガヌー

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
UFCヘビー級のベルトを初防衛したフランシス・ガヌー(撮影:三尾圭)

 1月22日(日本時間23日)に行われたUFC270で行われたUFCヘビー級王者のフランシス・ガヌーと暫定王者のシリル・ガーンの統一タイトルマッチは、5ラウンドを戦い抜き、48-47、49-46、48-47の3-0の判定で王者ガヌーが初防衛に成功して、ヘビー級のベルトを統一。

 ここまで無敗だったガーンのUFCでの連勝を7で止め、ガヌーは自らの連勝記録を6に伸ばした。

 試合前の下馬評では、ガヌーが勝つならば早いラウンドでのKO勝ち、5ラウンドまでもつれた場合にはスタミナに定評があるガーンの勝利と予想されていたが、殺人パンチを武器とするガヌーがグランドの戦いを選び、ジャッジ3名全員から支持されての勝利を勝ち取った。

 ガヌーが少年時代から憧れていたボクシングの元世界統一ヘビー級王者のマイク・タイソンがケージサイドで見守る中、ガヌーはボクサーではなく、総合格闘家であることを証明してみせた。

ガヌー対ガーンのUFCヘビー級王者統一戦を観戦するマイク・タイソン(写真:三尾圭)
ガヌー対ガーンのUFCヘビー級王者統一戦を観戦するマイク・タイソン(写真:三尾圭)

一撃必殺の秒殺ハードパンチャー、ガヌー

 2018年11月に行われたカーティス・ブレイズ戦から、20年5月のジャルジーニョ・ホーゼンストライク戦までの4試合全てで1ラウンドKO勝利を収めたガヌー。ケイン・ベラスケスとジュニオール・ドス・サントスの2人の元ヘビー級王者も秒殺して、スティーペ・ミオシッチの持つヘビー級王者挑戦権を勝ち取った。

 18年1月にミオシッチが持つヘビー級王者に挑んだときには、打撃を封じ込まれての判定負け。3年越しの再挑戦となった21年3月の試合では、1ラウンドこそ慎重に様子を見たが、2ラウンドにラッシュをかけて王者奪取に成功した。

 この5試合の秒殺KO劇で、UFC史上最強のハードパンチャーのイメージが定着したガヌー。その反面、パンチを凌がれると何もできない脆さも指摘され、ヘビー級随一のスタミナを誇る無敗のガーンが相手では分が悪いとも言われていた。

一撃必殺のハードパンチで秒殺KO勝利を続けてきたフランシス・ガヌー(写真:三尾圭)
一撃必殺のハードパンチで秒殺KO勝利を続けてきたフランシス・ガヌー(写真:三尾圭)

試合前に膝の靭帯を痛めていたガヌーが、試合を延期できなかった理由

 ガヌーは試合の3週間前に、練習中に膝の靭帯をケガして、無敗の新鋭、ガーンとの試合に臨むことができなかった。

 「俺はチャンピオンなので、この試合を延期することは考えられなかった。みんなは俺のことを忘れているけど、俺はチャンピオンなんだ」

 ガヌーのコーチ陣と医者は試合を延期するように説得を試みたが、ガヌーはオクタゴンに上がった。

 ガーンとの試合後には、「膝の状態は手術が必要だ」と明かしたガヌーは、なぜそこまで無理をしてまで戦うことを選んだのだろうか?

 昨年3月にミオシッチにKO勝ちしてチャンピオンになったガヌーは、18年7月に判定で敗れているデリック・ルイスを相手に、昨年8月に防衛戦を行うように命じられたが、「試合の間隔が短すぎる」との理由でルイスとの再戦を拒否。

 UFCは代わりにルイスとガーンの試合を組み、この試合をヘビー級暫定王者決定戦とした。ルイスにTKO勝ちしたガーンが暫定王者となり、UFCのヘビー級に2人のチャンピオンが誕生する異常事態となった。

 ガヌーは21年に1試合しか戦っていないが、ガーンは3試合も行っている。8月に組まれたルイスとの暫定王者決定戦は、その前の試合から1ヶ月半と非常に短いスパンでの一戦。

 オクタゴンから遠ざかっていたガヌーではなく、精力的に試合をこなしながら勝ち星を重ねるガーンこそが真のヘビー級王者だと考えるファンは少なくなかった。

練習中に痛めた膝にサポーターを付けた姿で、10ヶ月ぶりとなるオクタゴンに足を踏み入れるフランシス・ガヌー(写真:三尾圭)
練習中に痛めた膝にサポーターを付けた姿で、10ヶ月ぶりとなるオクタゴンに足を踏み入れるフランシス・ガヌー(写真:三尾圭)

スタンディングの戦いを支配したのは技巧派のガーン

 ハードパンチャーのガヌーと、ムエタイを主体とする技巧派ストライカーのガーン。この2人の戦いの鍵を握るのは『2人の距離感』と言うのが識者たちの共通の認識だったが、スタンディングの戦いでは相手と十分な距離を取って戦ったガーンが優位に戦いを進めた。

 ガーンはムエタイで培った強力な蹴りを出し、ガヌーはパンチが届く距離に詰め寄ることができない。ボクシングの元統一世界ヘビー級王者のジョージ・フォアマンが惚れ込んだボクシング・センスを誇るルイスとの試合でも、ガーンは同じように自分の距離感を保ちながら辛抱強くチャンスを待ち、相手のボディにダメージが蓄積したタイミングで一気に勝負に出た。

 ガヌーとのヘビー級王者統一戦でも、スタミナに自信を持つガーンは、ガヌーに距離を縮めることを許さずに、ガヌーのパワーを封じ込めた。

ガヌーのボディに後ろ廻し蹴りを叩き込むガーン(写真:三尾圭)
ガヌーのボディに後ろ廻し蹴りを叩き込むガーン(写真:三尾圭)

パンチではなく、グランドでの戦いを選んだガヌー

 最初の2ラウンドはガーン優位で試合が進んだが、3ラウンド目に入るとガヌーがスタンドではなく、グランドでの戦いを選んだ。

 ガーンの蹴りをかわすと、そのまま相手の身体に組み付き、ボディスラムでマットに叩きつける。グランドで上になるとパンチを浴びせた。

3ラウンドにガーンをマットに叩きつけるガヌー(写真:三尾圭)
3ラウンドにガーンをマットに叩きつけるガヌー(写真:三尾圭)

 4ラウンドにもテイクダウンでガーンを倒したガヌーは、グランドでの攻防でガーンのスタミナを奪っていく。誰もが予想していなかった展開で、ガヌーは進化した姿をみせつけた。

 「ここ数年、ずっとレスリングの練習には取り組んできた」と試合後に明かしたガヌーは、2018年からラスベガスにある強豪ジム『エクストリーム・クートゥア』でトレーニングを積んでいる。

 レスリングで五輪代表の補欠に3度も選ばれ、UFCライトヘビー級とヘビー級で合わせて6度も王者になったランディ・クートゥアが創設したエクストリーム・クートゥアは、レスリングとグラップリングの指導力に定評があるジムだ。

 これまでのUFCでの13試合で、3度しかテイクダウンを狙わず、成功は1度だけだったガヌーは、この試合だけで5度のテイクダウンを試みて4度成功。

 テイクダウン・ディフェンスにも優れているガーンは、UFCでの7試合で一度も倒されたことがなかった。そのガーン相手に8割のテイクダウン成功率を残したガヌーは、パンチ力だけのファイターではなく、オールラウンドな戦いに対応できる総合格闘家であることを証明してみせた。

グラウンドでのコントロール時間は、ガヌーが8分29秒と圧倒したのに対して、ガーンは2分51秒だった(写真:三尾圭)
グラウンドでのコントロール時間は、ガヌーが8分29秒と圧倒したのに対して、ガーンは2分51秒だった(写真:三尾圭)

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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