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メジャー通算96本塁打、巨人が獲得した30歳の現役メジャーリーガー、ポランコの本当の実力は?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
筒香嘉智(右)と談笑するパイレーツ時代のグレゴリー・ポランコ(撮影:三尾圭)

 読売ジャイアンツが獲得したグレゴリー・ポランコは、メジャー通算96本塁打、98盗塁を記録したパワーとスピードを兼ね備えた大型スラッガー。まだ30歳と選手として脂が乗っている年齢であり、原辰徳監督は『4番打者の岡本和真を守る5番打者』としての役割をポランコに期待している。

 昨季の年俸が1160万ドル(約13億3400万円)だった現役メジャーリーガーは、なぜ日本球界行きを選んだのだろうか?

スプリンガーやベッツよりも評価の高かったマイナー時代

 ドミニカ共和国出身のポランコは、17歳のときにピッツバーグ・パイレーツと契約してプロ入り。

 20歳だった2012年に1Aで打率.325、16本塁打、85打点、40盗塁を記録してリーグMVPに選ばれると、翌13年には3Aまで昇格。米球界を代表する有望若手選手として注目を集めた。

 2014年のMLB公式サイトによるプロスペクト・ランキング(有望マイナーリーガーの順位)では、マイナー全体で13位にランクイン。

 昨オフにトロント・ブルージェイズと6年総額1億5000万ドル(約173億円)の大型契約を結んだジョージ・スプリンガーは21位、今オフにテキサス・レンジャーズと10年総額3億2500万ドル(約374億円)の超大型契約を手にしたコーリー・シーガーは34位、12年総額3億6500万ドル(約420億円)のムーキー・ベッツ(ロサンゼルス・ドジャース)は62位で、当時のポランコの評価は現在メジャーリーグで活躍するスーパースターたちよりも高かった。

 ミート力、長打力、走塁力、守備力、送球力の5部門で秀でた能力を持つ『5ツール選手』として高い評価を受けていたポランコは、パイレーツの将来を担う存在と期待された。

 メジャー2年目の2015年に9本塁打、83得点、27盗塁でパイレーツのプレイオフ出場に貢献。ポランコの実力が本物だと判断したパイレーツは、2016年の開幕直後に5年総額3500万ドル(約40億円)を提示して、ポランコと長期契約を結ぶ。その16年には22本塁打、86打点、17盗塁と活躍して、パイレーツの判断が正しかったことを証明してみせた。

 2017年はドミニカ共和国代表として出場した第4回WBCで『オールWBCチーム(ベストナイン)』に選ばれ、18年も23本塁打、81打点、12盗塁を記録した。

パイレーツの将来を担うスター候補として期待されていたポランコ(撮影:三尾圭)
パイレーツの将来を担うスター候補として期待されていたポランコ(撮影:三尾圭)

運命を狂わせた18年シーズン終盤のケガ

 スーパースターへの階段を順調に上っていたポランコだが、2018年のシーズン終盤の試合でスライディングした際に左肩を脱臼。このケガをきっかけに、ポランコの成績は急下降して、エリート選手の座からも転落した。

 故障で出遅れた2019年は42試合しか出場できず6本塁打、17打点、新型コロナウイルスの影響で短縮シーズンとなった20年も7本塁打、3盗塁と故障前とは別人のようだった。

 昨季は打率.208、11本塁打と3年続けて打撃不振に見舞われ、パイレーツは8月末にポランコの残り契約を買い取って、自由契約とした。

 2015年から18年までの4シーズンでは打率.255、出塁率.323、長打率.433を記録していたポランコだが、故障後の19年から21年までの3シーズンは打率.203、出塁率.270、長打率.364と成績を大きく落とした。

 現在のメジャーリーグで選手を評価する際に重要視されるWARを見ると、ポランコの凋落ぶりがはっきりと見えてくる。

グレゴリー・ポランコのWAR(rWAR/fWAR)

2015年:2.5/2.2

2016年:1.6/2.2

2017年:0.3/0.6

2018年:2.2/2.5

2019年:-0.5/-0.2

2020年:-1.0/-0.7

2021年:-1.3/-1.2

 WARは「代替レベルの選手と比べて、どれだけ勝利数を上積みさせたか」を示す指標。このWARがマイナスだと、代替レベル選手(最低年俸で、メジャーとマイナーを行き来しているレベルの選手)よりも劣っていると評価され、シーズン途中に自由契約になるのも理解できる。

 昨年のfWAR-1.2はメジャーで350打席以上の選手の中でダントツで最下位の数字。fWARがマイナス1を超えたのはポランコ一人だけで、『メジャーリーグで最低の打者』だった。

 また、三振率も大きく悪化しており、18年までは19.1%だったのが、19年以降は30.2%まで跳ね上がっている。

メジャー屈指のバットスピードは健在

 『メジャー最低の打者』と言うありがたくない称号を与えられてしまったポランコだが、まだ30歳なので、ここから立ち直る可能性は十分に残っている。

 明るい材料としては、ポランコの武器の1つであるバットスピードの速さは健在なこと。21年の平均打球速度は89.9マイル(約145キロ)で、これはメジャー平均を上回る。20年には平均92.9マイル(約150キロ)を計測したが、これは50回以上打球を放った352打者中14位で、ブラディミール・ゲレーロ(ブルージェイズ)やブライス・ハーパー(フィラデルフィア・フィリーズ)などメジャーリーグを代表するスラッガーよりも速かった。

 21年の最高打球速度は116.2マイル(約187キロ)で、これはメジャー全体で29位。116.3マイルのハーパーと遜色ない打球速度だった。

 昨年8月末にパイレーツを自由契約になった際には、どこのチームもメジャー契約を提示せずに、ブルージェイズとマイナー契約を結んだポランコ。

 3Aでは24試合に出場して、打率.374、出塁率.436、長打率1.183と素晴らしい活躍をして、9本ものホームランを放った。マイナーリーグでは格の違いを見せつけただけに、日本球界での活躍も期待できるかもしれない。

メジャー・トップクラスのバットスピードから鋭い打球を放つポランコ(写真:三尾圭)
メジャー・トップクラスのバットスピードから鋭い打球を放つポランコ(写真:三尾圭)

ポランコが日本行きを選んだ理由

 もしもポランコが22年もアメリカでのプレーを望んだとしても、彼にメジャー契約を与える球団はなかった可能性が高い。

 春季キャンプに招待選手として呼ばれ、そこで結果を残すことができたら、年俸100万ドル程度(約1億1500万円)でメジャー・ロースターに入れられただろうが、シーズン中に調子を崩せばマイナーに送られるか、解雇される。

 ロックアウトにより、春季キャンプが予定遠いに始まりない可能性も高く、そんな不安定な状態でシーズンに望むよりも、心機一転、日本で再スタートを切る決断は悪いものではない。

 2016年春にパイレーツと契約を延長した際に、22年は1250万ドル(約14億3750万円)、23年は1350万ドル(約15億5250万円)のオプション契約が付いていたが、パイレーツ側は300万ドル(約3億4500万円)の違約金を払うことで、オプションを買い取っている。

 巨人との契約は単年2億5000万円と報じられているが、パイレーツから受けた違約金分を受けると、22年の稼ぎは約6億円となる。

 日本で活躍すれば、来年はそこそこの契約でメジャーに戻る道も開けてくるので、ポランコにとって日本行きはローリスク・ハイリターンな決断だった。

日本で活躍をして、2023年のメジャー復帰を目論むポランコ(写真:三尾圭)
日本で活躍をして、2023年のメジャー復帰を目論むポランコ(写真:三尾圭)

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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