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「二匹目のドジョウ」ならぬ「二人目のマンシー」を狙って筒香を獲得したパワーヒッター再生工場ドジャース

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
レイズからドジャースへ電撃トレードされた筒香嘉智(撮影:三尾圭)

 タンパベイ・レイズからDFA(戦力外通告)となった筒香嘉智が、ロサンゼルス・ドジャースへ移籍することになったが、想定外のこの動きには日米のメディアも驚いた。

 昨年のワールドシリーズでレイズを倒して世界一に輝いたドジャースは、なぜレイズをお払い箱になった筒香に興味を示したのだろうか?

 その理由として、筒香と同じように戦力外通告を受けた後にドジャースが獲得後、大ブレイクしたマックス・マンシーの存在が挙げられる。

筒香と同じ選球眼とパワーを兼ね備えた左打者

 ドジャースで一塁、二塁、三塁と複数のポジションを守るマンシーは、筒香と同じく選球眼の良さと長打力に定評がある左打者。

 選手の選球眼を重要視するオークランド・アスレチックスに2012年のドラフト5巡目で指名され、15年にはメジャー昇格を果たした。

 メジャーでも自慢の選球眼は通用したが、ヒットは打てずに、もう一つの売りである長打力も鳴りを潜めた。

 アスレチックスでは15年と16年の2シーズンで合計96試合に出場して、打率.195、出塁率.290、長打率.321と低迷。16年のオフにアスレチックスが新戦力を補強した際に、40人枠を空けるためにDFAとなり、春季キャンプ終了後に解雇された。

 26歳にして無職となったマンシーは、地元のテキサス州に戻り、父親と一緒に出身高校のグランドで練習を続けた。

 メジャー復帰を諦め、独立リーグや日本球界行きも検討し始めたマンシーに手を差し伸べたのがドジャースだった。

 2017年の開幕後にドジャースとマイナー契約を結んだマンシーは、3Aで109試合に出て、打率.309、12本塁打を記録。翌2018年にメジャーは再昇格すると、出塁率.391、35本塁打を放ってブレイクした。

DFA後に拾ってもらったドジャースでブレイクしたマックス・マンシー(写真:三尾圭)
DFA後に拾ってもらったドジャースでブレイクしたマックス・マンシー(写真:三尾圭)

 マンシーの活躍は1年限定ではなく、19年も35本塁打を打ち、コロナ禍で試合数が少なかった20年も58試合で12本塁打を記録。昨ワールドシリーズではチームトップとなる6打点を叩き出して、世界一奪回に大きく貢献した。

 アスレチックスをお払い箱になったマンシーにチャンスを与えたのは、2014年から18年までドジャースのジェネラル・マネージャー(GM)を務めていたファーハン・ザイディ(現在はサンフランシスコ・ジャイアンツの野球運営部門社長)。

 「マネーボール」を読んで人生が変わったというザイディはセイバーメトリクス担当としてアスレチックスに入り、GM補佐まで昇格。アスレチックス時代からマンシーを評価していたザイディは、低リスク高リターンの投資としてマンシーを獲得。フライボール革命に基づいて打撃スタイルを修正すると、眠っていたマンシーのパワーが遂に開花した。

30歳過ぎてからパワーが開眼したターナー

 ドジャースに移籍してきてから生まれ変わったパワーヒッターはマンシーだけではない。

 三塁手のジャスティン・ターナーも過去にDFAされた二流選手だったが、ドジャース加入後にフライボール革命に取り組んだ結果、30歳を過ぎてからブレイクして、ドジャース打線の主軸を任されている

ドジャースへ移籍してきた30歳を過ぎてからブレイクしたジャスティン・ターナー(写真:三尾圭)
ドジャースへ移籍してきた30歳を過ぎてからブレイクしたジャスティン・ターナー(写真:三尾圭)

 ターナーの例を見ると、29歳の筒香をメジャーで通用しないと切り捨てるのはまだ早いように感じる。

 2015年からドジャースの編成部門のトップを務めるアンドリュー・フリードマンは、14年まではレイズのGMとして低予算チームながらも強いレイズの基盤を作った人物。今でもレイズの編成方針はフリードマンの考え方が浸透している。レイズが筒香に可能性を感じたということは、フリードマンも筒香を評価しており、筒香がメジャーへ移籍した19年オフにはドジャースも筒香獲得に動いていた。

 ドジャースが筒香に払うのはメジャー最低年俸クラスのお金だけで、17年にマンシーを獲得したとき同様に低リスク高リターンが期待できる。筒香が活躍できなくても、金満球団であるドジャースのお財布へのダメージは少なく、マンシーやターナー同様に筒香のパワーが蘇れば大きな戦力となる。

 レイズのエリック・二アンダーGMは筒香を戦力外にしたときに「潜在能力を出し切っていない」と語り、「成長したヨシになるチャンスはあると思うが、まずメンタルを切り替えること」が必要だと続けた。

 新天地に移って一からスタートを切ればメンタルも切り替わるだろうし、ドジャースにはこれまでに才能を開花できなかったパワーヒッターを再生したきた実績もある。

 長距離打者の再生工場、ドジャースが筒香を蘇らすことを期待したい。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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