『シアターの女神』であり、勝利の女神でもあった「まゆゆ」 渡辺麻友と高校スポーツ
6月1日に芸能界からの引退を発表した「まゆゆ」こと渡辺麻友。運動音痴でスポーツとは無縁と思えるまゆゆだったが、部活に打ち込む高校生たちからは勝利の女神として慕われ、高校生アスリートの視線も「いただきまゆゆ」していた。
12歳で2006年に行われた「第3期AKB追加メンバーオーディション」に合格してAKB48の3期生となったまゆゆ。2007年にチームBの一員として、劇場デビューを果たすと、チームBのエースからAKBのエースに成長して、2017年にAKB48を卒業するまでグループを支えてきた。
AKB48で活動した11年間にはグループでの仕事だけでなく、数々の個人仕事もこなしてきた。そんな個人仕事の一つが、2013年に発売された写真集、『渡辺麻友制服図鑑 最後の制服』だ。
94校の制服を着用したセカンド写真集
アイドルの写真集と言えば水着姿が多いが、制服図鑑と銘打たれたこの写真集では、日本全国47都道府県から各2校ずつ、合計94高校の制服を19歳のまゆゆが着用したもの。「本当にお気に入りの1冊になったので100点満点」とまゆゆも自画自賛したセカンド写真集だった。
元々は2012年11月に発売された3枚目のソロ・シングル『ヒカルものたち』の収録されたカップリング曲『サヨナラの橋』がアニメ映画「ねらわれた学園」の主題歌に起用され、そのミュージックビデオ(MV)で47都道府県の高校の制服47着に身を包んで出演した。
写真集で制服を着用した7校が甲子園に出場
写真集は2013年4月に発売されたが、その夏に開催された第95回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)には、まゆゆが制服を着用した7校が出場。この年の甲子園予選に参加した高校は全国で3957校あり、甲子園出場を果たしたのは49校。その49校中7校もが制服図鑑でまゆゆが制服を着用した高校だった。
- 弘前学院聖愛(青森県)初出場
- 仙台育英(宮城県)2年連続24回目
- 作新学院(栃木県)3年連続9回目
- 前橋育英(群馬県)初出場
- 福知山成美(京都府)5年ぶり4回目
- 延岡学園(宮崎県)3年ぶり7回目
- 沖縄尚学(沖縄県)8年ぶり6回目
甲子園でも勝利の女神ぶりを発揮
写真集の編集を担当した集英社の関根弘康氏が「野球の強い高校を選んだ?いえいえ、そんなことはまったくありません」と言うように、94校の中で甲子園常連校と呼ばれるような強豪校は仙台育英と作新学院以外だと興南高校(沖縄県)くらいだった。
この7校だが、1回戦で沖縄尚学に敗れた福知山成美以外の6校は初戦で勝利を飾っている。11対10の劇的なサヨナラ勝ちで1回戦を突破した仙台育英を始め、1-0の接戦を制した前橋育英、8-7の打撃戦で辛勝した沖縄尚学と3校が1点差での勝利で、勝利の女神であるまゆゆの力が働いたと思わせる勝ち方だった。
初出場の前橋育英は2回戦でも1-0で勝利。3回戦では強豪の横浜(神奈川県)相手に7-1で圧勝。前橋育英と延岡学園はベスト8まで勝ち進み、両校ともに延長戦でサヨナラ勝ちするというドラマティックな勝ち方で準決勝進出を決めると、その勢いで準決勝でも快勝。
3957校の頂点を決める決勝戦は『渡辺麻友制服図鑑 最後の制服』に登場した2校の対決となり、前橋育英がまたしても1点差の試合をものにして初出場初優勝を飾った。
天文学的な確率で起こった2013年夏の甲子園での快挙を「偶然」で片付ける前に野球だけでなく、サッカーでもまゆゆの勝利の女神ぶりが発揮されたこともお伝えしておきたい。
甲子園優勝の前に、高校サッカーでも優勝
『サヨナラの橋』のMVでまゆゆが47校の制服を着用したが、そのMVがリリースされた直後の2013年1月に開催された第91回全国高校サッカー選手権で優勝したのは鵬翔高校(宮崎県)。そう、まゆゆはMVで鵬翔の制服を着用していた。
鵬翔が高校サッカー選手権に出場するのは6年ぶり12回目のこと。1回戦と2回戦はともに0-0からのPK戦を制しての勝利。3回戦は強豪の佐野日大(栃木県)相手に3-0と快勝して、準決勝と決勝戦もPK戦の勝利で大会初優勝を飾った道のりは、接戦続きだった前橋育英が甲子園初優勝を飾ったものとよく似ている。
もちろん、前橋育英も鵬翔も選手の力で勝ち取った優勝で、彼らの頑張りを無視することはできないが、1点差の試合が多く、1つのプレーが勝敗を左右する高校スポーツにあって運に味方されたことは否定できない。その運をもたらしたのが、勝利の女神であるまゆゆの存在だった。
AKB48と高校部活の共通点は美しい汗を流すこと
では、なぜまゆゆは勝利の女神になれたのだろうか?
2016年夏にはAKB48の45枚目シングル『LOVE TRIP/しあわせを分けなさい』のカップリング曲『光と影の日々』が夏の高校野球応援ソングに抜擢され、「熱闘甲子園」のテーマソングとなった。
AKB48の総合プロデューサーであり、作詞家のやすすこと秋元康は
とのコメントを寄せている。
誰よりも努力を続けたまゆゆ
「センターになる」、「総選挙で1位になる」と自らが公言した夢を次々に叶えてきたまゆゆだが、彼女がアイドル界の頂点に上り詰めたのは「どのメンバーよりも自分自身をAKB48に捧げてきた自信がある」と言い切れるほどの努力を重ね、犠牲を払ってきたからだ。
まゆゆを象徴する曲に、所属していたチームBにとって初めてのオリジナル劇場公演となった『パジャマドライブ』公演(2008年)の1曲目『初日』がある。
AKB48の3期生を中心に作られたチームBのメンバーが、初めて劇場のステージに立つまでの心境をやすすが描いた歌だが、ステージを甲子園のダイヤモンドや国立競技場のピッチに置き換えれば、高校球児や高校サッカー選手も共感できるはずだ。
甲子園を目指して猛練習をしても、うまくいかない日もあり、ライバルとの差を感じて、焦りも出てくる。
挫折を味わってもそこで諦めることなく、汗を流して努力を続けていくことで少しずつ上達していく。『初日』でもやすすは「美しい汗」を描き、そこには花が咲き、芽が出ることを教えてくれる。
まゆゆは厳しい練習を耐え、努力を積み重ねてきたからこそ、次々に夢を叶えることができた。
メンバーとファンの思いが募った『初日』
2017年のオリコン・ニュースのインタビューで、まゆゆは劇場公演初日をこう振り返っている。
この歌は初代チームBとファンにとってとても大切な曲で、AKBの全楽曲の中からベストソングを決める「リクエストアワー」の2009年度版(第2回)で劇場曲ながら1位に選ばれた。まゆゆはAKB活動の中で最も嬉しかったこととして、このときの出来事を挙げている。
結果と同じだけ大切な過程
『パジャマドライブ』公演でアイドルとしての本当の意味でのスタートを切ったまゆゆは、次の『アイドルの夜明け』公演でアイドルとして一皮むけ、『シアターの女神』公演で女神となった。
アイドルの理想像を極めるためにストイックさを貫き、すべてを犠牲にして、誰よりも努力をしてきたまゆゆだからこそ、勝利の女神にもなれたのだろう。
そんな勝利の女神、まゆゆは5位に終わった2011年の選抜総選挙後にこんなことを語っている。
「大事なのは順位じゃなくって、どれだけ皆さんに認めてもらえるかってことだと思うんです。わたしは、わたしの信じる道で努力を続けるので、そんなわたしのことを皆さんにも信じてもらいたい。数字に左右されないというのは、もう競争はしないということではないので、来年も上を目指していきます」
甲子園に出る、優勝するのは素晴らしいことだが、それだけが正解ではない。結果も大切だが、そこまでの過程も同じくらいに大切。自分が納得して、周りも認めてくれるだけ努力をすれば、たとえすぐに結果が出なくても、その努力が報われる日はいつかは訪れる。
努力するときには、いつも感謝して、冷静に、丁寧に、正確に、夢が叶うことを願ってから練習を始めると良いだろう。
シアターの女神で、勝利の女神は芸能界からの引退を告げた。
完璧なまでのアイドルで、アイドルサイボーグと呼ばれたまゆゆだが、素顔は宝塚が好きなちょっとオタク気質で素敵な女性。
ゆっくりと休んで、心身両面での健康を取り戻してもらいたい。
これまでは多くの人に幸せを運んでくれたが、これからはまゆゆ自身が幸せだと思う人生を歩んでほしい。その一歩目を踏み出すときには「Let's Go」と掛け声をかけながら。
それはファンだけでなく、まゆゆと一緒にここまで歩んできたAKB48のメンバーの共通する思いである。