Yahoo!ニュース

MVP受賞経験のないメジャーリーグ現役最高打者は誰だ?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
コロラド・ロッキーズのノーラン・アレナード(三尾圭撮影)

 MVP。日本語だと「最優秀選手賞」と呼ばれるこの賞は、シーズンで最も優秀だと評価された選手に与えられる賞で、選手にとって最大の個人的栄誉と言われる個人賞だ。

 投手にも受賞権利はあるが、通常は打者が選ばれ、2000年以降の20シーズン、アメリカン・リーグ(AL)とナショナル・リーグ(NL)合わせて40受賞者中、投手が選ばれたのは2011年のジャスティン・バーランダー(当時タイガース、現アストロズ)と2014年NLのクレイトン・カーショウ(ドジャース)の2例しかない。

 3度受賞のアルバート・プーホルス(受賞したのは全てカージナルス所属時、現エンゼルス)とマイク・トラウト(エンゼルス)、2度選ばれたミゲル・カブレラ(タイガース)を始め合計16人の現役バッターがMVPに選ばれている。

MVPを受賞した現役打者。赤はAL、青はNLでの受賞。チームは現在の所属チームで、受賞時のチームではない(三尾圭作成)
MVPを受賞した現役打者。赤はAL、青はNLでの受賞。チームは現在の所属チームで、受賞時のチームではない(三尾圭作成)

 MVPに選ばれた現役打者のリストを見ると、現在のメジャーリーグを代表する強打者、巧打者が名前を連ねている。

 現役最高の打者はMVP3回受賞のプーホルスかトラウトのどちらかで間違いはないが、ではMVPを受賞したことのない打者で、現役最高の打者は誰なのだろうか?

2020年に最も稼ぐ打者は?

 選手の評価はお金に現れるので、まずは2020シーズンの年俸を見てみたい。

2020年度の現役打者年俸トップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)
2020年度の現役打者年俸トップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)

 最高年俸はMVP3回のトラウトで、3767万ドル(約41億5360万円)もの大金を手にする。今季の年俸10位タイまでの11野手中、MVP獲得経験者は7名で、3500万ドル(約38億5000万円)で2位のノーラン・アレナード(ロッキーズ)、3200万ドル(約35億2000万円)で3位のマニー・マチャド(パドレス)、2607万ドル(約28億6770万円)で9位のアンソニー・レンドーン(エンゼルス)、2600万ドル(約28億6000万円)で10位タイのポール・ゴールドシュミット(カージナルス)の4選手がMVPを手にしたことがない。

MVPに3回ずつ輝いているプーホルスとトラウトはその実績に見合った高年俸をもらっている(Photo by KIYOSHI MIO)
MVPに3回ずつ輝いているプーホルスとトラウトはその実績に見合った高年俸をもらっている(Photo by KIYOSHI MIO)

勝利への貢献度を表すWAR

 次にMVP選考の際に大きな判断材料となるWARを見てみよう。WARとはWins Above Replacementの略で、メジャー最低レベルの選手と比べて勝利数にどれだけ貢献したかを示す数値。メジャーでは計算式が微妙に異なるFanGraphs版とBaseball-Reference版の2種類のWARが浸透しているが、ここではBaseball-Reference版の通算WARを用いる。

現役打者の通算WARトップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)
現役打者の通算WARトップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)

 通算成績なのでキャリアの長いベテラン選手が有利となる。1位はメジャー・キャリア19年で3度のMVPに輝いているプーホルスで、唯一の通算WAR100超えを果たしている。

 2位はトップ10唯一の20代選手、トラウトがランクイン。MVPに3度選ばれた実績で、メジャー9年間でも効率よくWARを積み重ねてきた。3位のカブレラもMVPを2回受賞しており、MVPを複数回受賞した選手が通算WARでもトップ3を独占した。

 意外だったのが4位にランクインしたロビンソン・カノー(メッツ)。MVPは未受賞ながらも、カブレラよりも2シーズン少ない15年間で、カブレラに匹敵する68.0のWARを記録。他にMVPを取ったことがない選手としては、エバン・ロンゴリア(ジャイアンツ)が6位に、ゴールドシュミットが10位にランクインしている。

2012年に三冠王に輝いたカブレラは、通算WARでも現役打者3位にランクイン(Photo by KIYOSHI MIO)
2012年に三冠王に輝いたカブレラは、通算WARでも現役打者3位にランクイン(Photo by KIYOSHI MIO)

MVP投票で最も多く票を稼いだのは?

 最後にMVP投票率を比べてみたい。MVP投票は投票券を持った30人の全米野球記者協会所属記者が、1位から10位まで10人の選手を挙げる。1位の選手は14ポイント、2位は9ポイント、3位は8ポイントと2位以降は順位が1つ下がるごとに1ポイントずつ下がり、10位の選手には1ポイントが与えられる。

 MVP投票率は1位で満票だった場合ーー30票x14ポイントの420ポイントーーを100%として、該当選手が得たポイントの割合を計算したもの。

 昨季の投票例で言うと、ALはMVPに選ばれたトラウトは1位票17票を含む355ポイントで、MVP投票2位だったアレックス・ブレグマン(アストロズ)は335ポイントだった。この場合の投票率はトラウトが85%で、ブレグマンが80%となる。NLはMVPのコディ・ベリンジャー(ドジャース)が362ポイント、2位のクリスチャン・イエリッチ(ブルワーズ)は317ポイントだったので、投票率はベリンジャーが86%で、イエリッチが75%となる。

 この投票率をパーセンテージではなく、数字で表し、通算の投票率を示したのが以下の表だ。

現役打者の通算MVP投票率トップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)
現役打者の通算MVP投票率トップ10リスト。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)

 このリストでは1シーズンだけ爆発的な活躍をみせた一発屋的なMVP選手よりも、何年も安定した成績を残した選手が上に来るが、予想通りプーホルス、トラウト、カブレラがトップ3に名前を連ねた。4位以降もMVP獲得経験者が続いたが、カノー、アレナード、ゴールドシュミットのMVP未経験者が8位から10位に滑り込んだ。

 カノーはヤンキースでプレーしていた2010年から13年までの4年間は毎年MVP投票で6位以内に入り、28%以上の投票率を獲得。2014年にマリナーズへ移籍してからも14年は30%で5位、16年も19%でMVP投票8位に入るなど安定した成績を残し続けた。

 アレナードも過去5シーズン連続でMVP争いで8位以内に入り、とくに16、17、18年の3年間は47%以上の投票率を集め続けた。キャリア晩年のカノーが今後MVPに選ばれる可能性は限りなく低いが、選手としてのピークにあるアレナードはロッキーズをプレーオフに導く活躍ができればMVPに選ばれる可能性はありそうだ。

ここ数年は衰えが目立つカノーだが、ヤンキース時代は毎年のようにMVP級の活躍をみせていた(Photo by KIYOSHI MIO)
ここ数年は衰えが目立つカノーだが、ヤンキース時代は毎年のようにMVP級の活躍をみせていた(Photo by KIYOSHI MIO)

現役最高打者ランキング発表

 それでは本題に戻って、MVP受賞経験のない現役最高打者は誰なのかを決めてみたい。

 選出方法はMVP投票に習って、今季年俸、通算WAR、通算MVP投票率の3カテゴリの順位で決めていく。MVP同様に1位に14ポイント、2位に9ポイントを与えていき、ポイントを得られるのは10位タイに入った選手まで。

現役最高打者トップ10。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)
現役最高打者トップ10。黄色はMVP受賞経験者(三尾圭作成)

 まずは現役最高選手の座はプーホルスとトラウトのチームメート同士が激しい争いを繰り広げたが、キャリアの長いプーホルスに僅差で軍配が上がった。ただし、この2人は今季終了後には順位が逆転するだろう。そしてMVP2回のカブレラが3位とMVPを複数回獲得した選手の実力は伊達ではないことが証明された。

 さて、MVP受賞経験のない現役最高選手に輝いたのは堂々の総合5位にランクインしたアレナード。通算WARではトップ10圏外だったが、今季年俸で2位に入ったのが大きかった。ベテランのカノーはかつての輝きは失ってしまったが、15年のメジャー・キャリアで築き上げてきた実績は素晴らしい。そして、総合ランキングではトップ10入りを逃したゴールドシュミットだが、選考基準の3項目全てでトップ10入りしたのはMVPを複数回受賞しているプーホルス、トラウト、カブレラの3選手以外ではゴールドシュミットだけだった。 

ダイヤモンドバックス時代はMVP投票で3度もトップ3に入ったゴールドシュミットは、年俸、通算WAR、MVP投票率の3部門全てで現役トップ10入りを果たした(Photo by KIYOSHI MIO)
ダイヤモンドバックス時代はMVP投票で3度もトップ3に入ったゴールドシュミットは、年俸、通算WAR、MVP投票率の3部門全てで現役トップ10入りを果たした(Photo by KIYOSHI MIO)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

三尾圭の最近の記事