ハリウッドJURINAも引退か?~世間と戦い続けた松井珠理奈~

豆腐プロレスの象徴、ハリウッドJURINAこと松井珠理奈(三尾圭撮影)

 「勇気を振り絞って、一歩を踏み出したいなと思いました」と2月7日のSKE48劇場公演で引退を発表した松井珠理奈。

 2008年に11歳でSKE48の第1期生としてデビューしてから、SKE48の顔として、またAKB48の選抜メンバーとして走り続けてきた。

 彼女はデビュー当初から小さな背中に重荷を背負わせられたが、潰されることなく、常に前進を続けた。

 2008年7月末にSKE48のオープニング・メンバーに合格して、10月5日に劇場公演でデビュー。10月22日にはAKB48で48の10枚目シングル「大声ダイヤモンド」で前田敦子とのダブルセンターに大抜擢された。

 AKBのメンバーでもなく、まだ小学生だった珠理奈がいきなりAKBのセンターに抜擢されたことで、彼女は不必要なバッシングを浴びたが、そんな外野の声に負けることなく、AKBの楽曲では43回も選抜メンバーに選ばれた。これは46回でトップタイの柏木由紀と小嶋陽菜に次ぐ、渡辺麻友と並ぶ歴代3位タイの選抜回数で、AKB以外の姉妹グループでデビューしたことを考えると驚くべき記録だ。

 SKE48では松井玲奈との「ダブル松井」として不動のセンターを務め、デビューシングルの「強き者よ」から15枚目シングルの「不器用太陽」まで15作連続でセンターとしてSKEを牽引。これまで26枚のシングルを発売してきたSKEだが、珠理奈は20枚(単独センター12回、玲奈とのダブルセンター8回)でセンターの大役を担ってきた。

ドラマ「豆腐プロレス」がきっかけで出会ったプロレス

 AKBと姉妹グループのメンバーが出演するドラマ「マジすか学園シリーズ」でも主要キャラクターを演じ続け、2017年にテレビ朝日系列で放映されたドラマ「豆腐プロレス」では、主演の宮脇咲良のライバル役としてドラマを支えた。

 珠理奈に与えられた役名は「ハリウッドJURINA」。プロレス界で「ハリウッド」と言えば、nWo時代に悪役だったハリウッド・ハルク・ホーガンを思い浮かべるプロレス・ファンは多いが、リング上での珠理奈はホーガンに劣らぬカリスマ性を発揮。赤色と黄色のホーガンが、ハリウッド・ホーガンでは黒一色に変えてイメージを180度変えたように、珠理奈もハリウッドを名乗るにあたり、それまでの黒髪を初めて金髪に染めて役に臨み、新境地を開いた。

赤と黄色を基調としていた時代のハルク・ホーガン。ホーガンが「リアル・アメリカン」ならば松井珠理奈は「リアル・アイドル」だ(三尾圭撮影)
赤と黄色を基調としていた時代のハルク・ホーガン。ホーガンが「リアル・アメリカン」ならば松井珠理奈は「リアル・アイドル」だ(三尾圭撮影)

 

 豆腐プロレスでプロレスラーを演じるにあたり、勉強のために観始めたプロレスだったが、珠理奈はすぐにプロレスに夢中になり、プライベートでも観戦に訪れるほどにプロレスにはまった。

 「プロレスは生活の一部」とまで言う珠理奈にとって、プロレスとはスポーツやエンターテイメントの枠を超えて、アイドル人生に多くのヒントを与えてくれる存在。プロレスとグループ・アイドルには共通点が多いが、珠理奈はプロレスから得たアイデアを用いて、SKEやAKBの活性化に活かしてきた。

リング入場時にコーナーポストに上るハリウッドJURINA(左)とオカダ・カズチカ(右)。ハリウッドJURINAはリング上でもプロレスラーをリスペクトを払っていた(三尾圭撮影)
リング入場時にコーナーポストに上るハリウッドJURINA(左)とオカダ・カズチカ(右)。ハリウッドJURINAはリング上でもプロレスラーをリスペクトを払っていた(三尾圭撮影)

 珠理奈のプロレス愛は本物だからこそ、彼女は多くのプロレスラーの支持を集め、2018年に地元名古屋で開催された「第10回AKB48世界選抜総選挙」では人気プロレスラーたちがこぞって珠理奈を応援した。

ドラマを飛び越えて本当にリングへ立った豆腐プロレス

 1980年代に新日本プロレスが爆発的な人気を誇ったときの立役者はアニメの世界から飛び出してきたタイガーマスクだったが、豆腐プロレスのレスラーたちもドラマの世界から本物のリングに飛び出してきた。

 ドラマ版「豆腐プロレス」は2017年7月で放送が終わったが、8月29日には「プロレスの聖地」こと後楽園ホールにて「豆腐プロレス The REAL 2017 WIP CLIMAX in 後楽園ホール」と銘打たれたプロレス大会が開催され、メインイベントのWIPタッグ選手権王座決定戦に登場したハリウッドJURINAは道頓堀白間と組んで、チェリー宮脇&ロングスピーチ横山組と対戦。

 20分を超える白熱した試合は、ハリウッド式デスティーノでJURINAが横山を仕留めて、JURINA&白間組が初代WIPタッグ王者に輝いた。

 「後楽園ホールはリアルにプロレスを観に来ているので、生半可な気持ちではできなかった。プロレス・ファンが観たときに『アイドルがプロレスか』とがっかりさせないような試合をしないといけないプレッシャーを感じていた」と試合後には正直な思いを口にした。

 それから半年後の2018年2月23日には、数々のプロレス名勝負が繰り広げられた愛知県体育館にて第2回大会を開催。ハリウッドJURINAのお膝元である名古屋で豆腐プロレスが開催された。

 シャーク込山と組んでメインイベントのタッグマッチに登場したハリウッドJURINAの相手は、オクトパス須田&道頓堀白間組。誰しもがハリウッドJURINAが地元で有終の美を飾ると信じて疑わなかったメインイベントは、JURINAが須田のシャイニング・ウィザードに沈んでフォール負け。悲願の第一回IWGP決勝戦でホーガンのアックスボンバーに失神KOさせられたアントニオ猪木の姿が重なってみえた。

地元大会のメインイベントで屈辱的なフォール負けを喫したハリウッドJURINAだが、その目は死んでいなかった(三尾圭撮影)
地元大会のメインイベントで屈辱的なフォール負けを喫したハリウッドJURINAだが、その目は死んでいなかった(三尾圭撮影)

 プロレスでは地元で屈辱を味わった珠理奈だが、その年の夏に開催された第10回総選挙では、ついに悲願の1位に輝く。

 しかし、この総選挙での振る舞いがファンから大バッシングを浴びて、長期休養に追い込まれてしまった。

12年間、世間と戦い続けたアイドル松井珠理奈

 アントニオ猪木のプロレスは、世間に戦いを挑み、世間と戦い続けてきたプロレスだった。

 松井珠理奈のアイドル人生もAKB48のセンターに抜擢された小学生のときから、引退を発表するまでのこの12年間、世間と戦い続けてきた。

 48グループが世界に進出して、成功を収められたのは珠理奈が初の姉妹グループとして誕生したSKE48に成功をもたらしたから。AKBの下部組織ではなく、AKBに並び、AKBを超えるグループに成長できるように、珠理奈はSKEを鍛え上げ、熱いグループに育て上げた。アイドルには相応しくないような「熱さ」はときにファンから誤解を受け、批判も浴びたが、それでも珠理奈は自分が信じた道を我武者羅に突き進んだ。

 珠理奈に導かれたSKEは紅白歌合戦に3度出場。毎年の総選挙でも上位に多くのメンバーをランクインさせ、「総選挙のSKE」と呼ばれるほどにファンの結束も高かった。

 SKE48のデビュー・シングル「強き者よ」は

強き者よ

真の勇者よ

戦い終えた後で

誰のため

流すのだろう?

その涙

出典:SKE48 「強き者よ」 作詞:秋元康

 と歌い出すが、総選挙で1位を獲得した珠理奈が流した涙は、SKE48のメンバーとスタッフ、そしてその愛すべきグループを信じて支えてくれたファンのために流した涙だった。

強き者よ

気高き戦士よ

何を失ったのか?

代償に待っていたのは孤独

強き者よ

気高き戦士よ

君は何を守って生きるのか?

変わらぬものは愛だけさ

Change the World!

出典:SKE48  「強き者よ」 作詞:秋元康

 

 愛するSKE48を守るために、独りで戦い続けた気高き戦士の珠理奈は孤独であり、孤高の戦士だった。そんな彼女がプロレスに魅了されたのは偶然ではなく必然だったのだろう。

気高き戦士、ハリウッドJURINAはSKE48を守るために戦い続けた(三尾圭撮影)
気高き戦士、ハリウッドJURINAはSKE48を守るために戦い続けた(三尾圭撮影)

 REAL豆腐プロレスは、2018年2月の第2回大会を最後に、大会が開催されていない。

 平日の夜に愛知県体育館に5000人以上のファンを動員するほどのパワーを持つ大会が続かないのは寂しいが、これで良いのかもしれない。彼女たちはアイドルであり、プロレスラーではないのだから。

「シュートサイン」のポーズをするハリウッドJURINA&シャーク込山組(左)とケニー・オメガ&飯伏幸太組。松井珠理奈のアイドル人生は「シュート」な戦いの連続だった(三尾圭撮影)
「シュートサイン」のポーズをするハリウッドJURINA&シャーク込山組(左)とケニー・オメガ&飯伏幸太組。松井珠理奈のアイドル人生は「シュート」な戦いの連続だった(三尾圭撮影)

 心からプロレスを愛する珠理奈は「正直に言うと、プロレスをリスペクトしているからこそ……私は見る方が好きです」と語り、「コンサートでもプロレスでも東京ドームでやりたい」と言う横山由依のコメントには「やれたならとは思うけど、やりたいとは言えない。選手は体力的にも精神的にも中途半端にはできない。軽々しくは言えません」とプロレス愛に満ち溢れた言葉を吐いた。

 松井珠理奈がSKE48を卒業することで、ハリウッドJURINAもプロレスラーを完全引退するはずだ。

 未だにツイッターのアカウントは「松井珠理奈(ハリウッドJURINA)」名義だが、猪木のように世間と戦い続け、ホーガンのようなカリスマ性を持ち、長州力のようにアイドル界に革命を起こし、初代タイガーマスクのような華麗さも兼ね備えたハリウッドJURINAがリングで戦う姿はもう観られそうにもない。

 一部マスコミが「プロレス業界からも熱視線」との記事で、珠理奈の女子プロレスラー転向を匂わさているが、彼女がこれから進む道は女子プロレスではなく、芸能の道。

 レスラーとしてではなく、ファンとしてプロレス界も盛り上げてくれるはずだ。

 SKE48のエースとして12年間も走り続けた珠理奈は、まだ22歳。大学生が卒業して、社会に出る年齢と同じだ。

 AKB、SKEという看板を外して、社会に出ていく珠理奈だが、これまでに培ってきた経験を武器に、どんな道を選んでも成功するだろう。

22歳の松井珠理奈は、人生の第2章でも金の雨を降らせ続けていく(三尾圭撮影)
22歳の松井珠理奈は、人生の第2章でも金の雨を降らせ続けていく(三尾圭撮影)