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世界で最も人気があるスポーツリーグ、NFLチームのロンドン本拠地移転は現実味のある話か?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
ロンドン移転の噂が浮上したチャージャーズのエースQB、リバース(三尾圭撮影)

 アメリカで最も人気があるスポーツは野球でもバスケットボールでもなくアメリカンフットボール。

 そのアメフトの最高峰であるNFLはアメリカで最も人気があるスポーツリーグなだけでなく、その人気の高さは世界最高と言われている。

 世界的に普及しているサッカーやバスケットボールではなく、アメリカでしか人気がないアメフトのプロリーグが世界で最も人気があるプロスポーツ・リーグとは意外な感じもするが、数多くのデータがその真実を裏付けている。

 2018年度の主要スポーツリーグの平均入場者数を比較してみると、67,100人を誇るNFLが世界で最も多い。

2018年度の世界人気スポーツリーグの平均入場者数トップ10(三尾圭作成)
2018年度の世界人気スポーツリーグの平均入場者数トップ10(三尾圭作成)

 トップ10の中にアマチュアスポーツで唯一ランクインしたのもアメフト。米大学アメフトの1部校(NCAA Div1 FBS校)で、世界の人気プロスポーツ・リーグを凌ぐ動員力を誇る。

 もう一つ、別のデータを見てみよう。経済誌「フォーブス」が発表した「2019年度版、世界で最も資産価値が高いスポーツチーム・トップ50」

 堂々の1位に輝いたのはNFLのダラス・カウボーイズ。トップ50の半分以上に当たる26チームがNFLのチームであることからも、NFLが世界で最も突出したリーグだと断言できる。

 アメリカの4大プロスポーツ・リーグ(NFL、NBA、MLB、NHL)の中で、NFL以外の3リーグはカナダにもフランチャイズを置いているが、NFLのチームはアメリカ国内にしかない。

 そのNFLが市場拡大を目指してロンドンにフランチャイズを置くとのニュースが流れている。

 「ジ・アスレティック」がNFLとロサンゼルス・チャージャーズがロンドン移転を検討しているとの情報をリークした。

 1989年から2005年まではNFLが毎年のように日本でオープン戦を開催していた時代があった。(89年から96年までは毎年。98年以降は1年おきに開催)

 ロンドンでNFLのオープン戦が定期的に開催されたのは日本よりも3年早い1986年のこと。93年まで毎年、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでオープン戦を行った。(1976年に東京で開催されたオープン戦が、北米以外での初めてのNFLの試合であり、ロンドンでも83年にオープン戦が行われている。)

 NFLの努力も虚しく日本ではアメフト人気は一時のブームで終わり根付かなかったが、ヨーロッパではアメフトが人気スポーツに成長。「アメリカン・ボウル」と呼ばれたNFLの海外オープン戦の成功により、1991年からはヨーロッパの主要都市に本拠地を置いたNFLヨーロッパが誕生。若手と外国人選手の育成目的のNFLヨーロッパは、NFLの海外戦略変更により2007年に消滅。NFLが代わりに打ち出した海外戦略がロンドンでの公式戦開催だった。

 記念すべき北米以外での初の公式戦は2007年にウェンブリー・スタジアムで行われたニューヨーク・ジャイアンツ対マイアミ・ドルフィンズ戦で、81,176人ものアメフト・ファンがスタジアムに詰めかけた。

 2012年まではシーズンに1試合がウェンブリー・スタジアムで開催され、あまりにも好評なために13年にはシーズン2試合、14年からはシーズン3試合に増えている。2017年にはウェンブリー・スタジアムとトゥイッケナム・スタジアムでそれぞれ2試合ずつ、今年もウェンブリー・スタジアムとトッテナム・ホットスパースタジアムで2試合ずつの4試合のロンドンゲームが開催された。

 NFLのロンドンゲームは毎試合超満員で、ロンドンでNFL人気が定着したと言える。

ウェンブリー・スタジアムは2012ロンドン五輪では男女サッカーの決勝戦会場として使われた(三尾圭撮影)
ウェンブリー・スタジアムは2012ロンドン五輪では男女サッカーの決勝戦会場として使われた(三尾圭撮影)

 ロンドン移転が噂されるロサンゼルス・チャージャーズは、NFLで最も収容人数が少ないディグニティヘルス・スポーツパークを本拠地にしている。NFLの平均的スタジアムは7万人のファンを収容できるが、ディグニティヘルス・スポーツパークは2万7000席。2番目に収容人数が少ないオークランドのリングセントラル・コロシアムでも56,057人収容で、ディグニティヘルス・スポーツパークはその半分にも満たない。

 チャージャーズは来年夏に完成予定のSoFiスタジアムに移転するまでの「仮住まい」として、サッカー専用スタジアムとして作られたディグニティヘルス・スポーツパークを本拠地にしているために、極端に収容人数の少ないスタジアムで試合をしている。

 しかし、収容人数の少なさを補うためにチケットの価格を高騰させた結果、チャージャーズのホームゲームでは空席が目立っている。

空席が目立つチャージャーズのホームゲーム(三尾圭撮影)
空席が目立つチャージャーズのホームゲーム(三尾圭撮影)

 1960年のエキスパンションで誕生したロサンゼルス・チャージャーズだが、僅か1シーズンでサンディエゴへ移転して、サンディエゴ・チャージャーズと改名。2017年にロサンゼルスへ出戻りしたが、ロサンゼルスのフットボール・ファンの心は掴めていない。ロサンゼルスにはチャージャーズが戻ってきた2017年にセントルイス・ラムズも帰還し、LAにはチャージャーズよりもラムズを応援するファンの方が断然多い。

 70,240人収容のSoFiスタジアムはラムズのオーナーでもあるスタン・クロエンケが45億ドル(約4860億円)を投資しているのに対して、チャージャーズは僅か2億ドル(約216億円)の建設費しか負担していない。新スタジアムに移転しても、ラムズのホームスタジアムを間借りする形だ。

 昨年、チャージャーズがウェンブリー・スタジアムでホームゲームを開催したときには84,301人を動員している。こんな背景があるので、チャージャーズにロンドン移転の噂が浮上した。

 チャージャーズのディーン・スパノス・オーナーは即座にロンドン移転説を否定したが、ここからは仮にチャージャーズがロンドンに移転した場合のシナリオを見てみたい。

 アメリカ4大スポーツリーグが北米以外の地域に本拠地を構えることは現実的だろうか?

ロサンゼルスからロンドンへの本拠地移転が噂されるチャージャーズ(三尾圭撮影)
ロサンゼルスからロンドンへの本拠地移転が噂されるチャージャーズ(三尾圭撮影)

 アメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)の西地区に属するチャージャーズだが、ロンドン・チャージャーズとなればAFCの地区再編成は避けられない。

 1つ目のシナリオはチャージャーズがAFC南地区に入り、現在南地区にいるヒューストン・テキサンズが入れ替わりで西地区に移ってくる。

 2つ目のシナリオはチャージャーズがAFC東地区に移り、東地区のドルフィンズが南地区に、南地区のテキサンズが西地区に編入する。チャージャーズの移動を考えると東地区の方が楽である。

 アメリカ東海岸とロンドンの時差は5時間で、直行便での移動時間は約8時間、距離は約5500キロ離れている。アメリカは国内でも時差があり、東海岸のニューヨークと西海岸のロサンゼルスでは時差は3時間で、飛行時間は約5時間かかり、距離は約4000キロ。(東から西への移動は約1時間を加算)。ニューヨークからロンドンまでの移動は、東海岸から西海岸への移動を少し長くしただけで、それほど無理がある訳ではない。

 NFLでは同カンファレンス同地区のチームとは、ホーム&アウェイで毎シーズン2試合ずつの直接対決が組まれるので、チャージャーズは南地区よりも東地区に入る方が移動の負担は少なくなる。

 移動の負担を軽減させるためには、ロンドンで4試合、アメリカで4試合を2度ずつ繰り返す案が出ている。これだと、シーズン中の大西洋移動は3回で済む。現在は17週で16試合を戦うが、これを18週で16試合にすることで、各チームが2度のバイウィーク(試合のない週)を得られる。

 チャージャーズは大西洋移動直後の週をバイウィークとして、残りの1回の大西洋移動は移動前の試合を木曜日(サーズデー・ナイト)に、移動後の試合を月曜日(マンデー・ナイト)にすることで、通常の7日間ではなく、試合間隔を10日間空けられる。前後の1試合を東海岸で行えば、移動の負担はかなり軽減できる。ロンドンから直接、西海岸(もしくはその逆の西海岸からロンドン)への移動は体力的負担が大きいので、アメリカで4試合を行う際には最初と最後の試合を東海岸時間帯での都市で行いたい。

 試合数の多いMLBやNBAでは北米以外のフランチャイズは現実的ではないが、公式戦が16試合と少ないNFLではロンドンにフランチャイズを置くことは不可能ではない。

 観客動員に関しても心配ではない。年に1度、NFLの試合が開催されたときには特別な「お祭り感」が高かったが、今では年に4試合――今年は10月上旬から11月上旬の5週間で4試合――も行われたが、それでもウェンブリー・スタジアムの試合には8万人以上を動員した。

 これはロンドンでNFLが日常的に定着した証拠とも言える。

 

 NFLチームのロンドン移転が夢物語ではないことは分かったが、個人的にはロンドンに行くべきチームはチャージャーズではなく、ジャクソンビル・ジャガーズだと思う。

 ジャガーズのオーナーはパキスタン生まれで、一代で巨大な富を築き上げたシャヒド・カーン。彼はジャガーズの他に、イギリスの名門サッカーチーム「フラムFC」と、今年誕生した新興プロレス団体「AEW」のオーナーも兼任する。

 ジャガーズが本拠地を置くジャクソンビルは人口90万人の中規模都市。周辺都市を含めても150万人で、1500万人のロサンゼルス都市圏や1000万人のロンドン都市地域とは桁が1つ違う。

 NFLではホームゲームの試合では9割以上の席が埋まるのが普通だが、ジャガーズは今季の平均動員数が9割に達していない4チームの中の1つであり、リーグで最も存在感の薄いチームと言われている。

 本拠地のTIAAバンク・フィールドの収容人数は82,000人だが、ジャガーズはチケットを完売できないために一部の席を閉鎖して67,814人収容としている。今季の開幕戦(対戦相手はカンザスシティ・チーフス)は60,157人、ホームゲーム2戦目(対テネシー・タイタンズ)は58,613人、ロンドンゲーム前週(対ニューヨーク・ジェッツ)は57,833人しか観客が入らなかったのに対して、11月3日に行われたロンドンゲームには84,771人とジャクソンビルでのホームゲームより2万人以上も多くのファンが集まっている。

今季のジャクソンビル・ジャガーズ・ホームゲーム入場者数(三尾圭作成)
今季のジャクソンビル・ジャガーズ・ホームゲーム入場者数(三尾圭作成)

 カーンはフラムFCを買収した2013年から毎年1試合のホームゲームをウェンブリー・スタジアムで行っているが、ジャガーズのロンドンゲームは毎試合83,000人以上のファンをスタジアムに集めている。「サッカーの聖地」と呼ばれるウェンブリー・スタジアムだが、ヨーロッパでの「アメフトの聖地」でもあると言っても過言ではない。

 昨年にはカーンがウェンブリー・スタジアムの買収を試みて、現持ち主であるイングランド・サッカー協会に対して6億ポンド(約883億円)での買収案を提出。協会側は9億ポンド(約1325億円)に売値を釣り上げ、カーンも一度は了承したが、協会の評議会が売却を猛反対したためにカーンは断念した。

 ただし、「協会幹部と評議会の売却に対する見解が1つにまとまれば、そのときには再検討する」と言っており、ウェンブリー・スタジアム買収を諦めた訳ではない。

 カーンがウェンブリー・スタジアムを買収(もしくは協会との共同オーナーに収まる)して、ジャガーズがロンドンに移るのがベストなシナリオ。

 NFLで最もロンドンで試合を行っていて、ロンドンに縁のあるジャガーズこそが、ロンドンを本拠地にするチームに相応しい。

ロンドンに縁のあるジャガーズこそがロンドンに本拠地を置くチームに相応しい(三尾圭撮影)
ロンドンに縁のあるジャガーズこそがロンドンに本拠地を置くチームに相応しい(三尾圭撮影)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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