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アメリカ進出を狙う新日本プロレスの真価が問われる7.7サンフランシスコ大会

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
前IWGPヘビー級王者のオカダ・カズチカの人気はアメリカでも高い(三尾圭撮影)

 今、アメリカのプロレスファンの間で新日本プロレスがとても熱い。

 昨年7月にロサンゼルスで行ったG1スペシャルUSA大会は、2日分のチケットが2時間で完売。大会当日には「#G1USA」がツイッターのトレンドでアメリカ1位、世界でも2位にランクインするほどに大きな注目を集めた。

 今年3月には5000人収容できるアリーナのチケットが僅か20分で売り切れた。

 両大会を取材で訪れたが、驚かされたのは会場に詰めかけたファンの大部分がアメリカ人のファンだったこと。今年の大会では日本人ファンの数は2割にも満たない感じだった。

 2014年末に新日本プロレスはテレビ朝日と共同で試合をネット配信する「新日本プロレスワールド」をスタート。2015年秋からは英語実況も始め、日本国内だけでなく世界中のプロレスファンをターゲットにしている。

 この新日本プロレスワールドの加入者数は約10万人で、約4割が日本国外の会員だと言われている。アメリカには熱心な新日ファンが数万人おり、彼らの間でアメリカ大会のチケット争奪戦が起こっている。新日本プロレスワールドで日本国内の試合も追いかけている彼らは、日本人選手のこともよく知っており、日本と変わらない熱い声援を贈る。そのマニア度は凄まじく、レフリーのレッドシューズ海野が試合を裁いたときには、会場内にレッドシューズ・コールが響き渡るほどだった。

鈴木みのるの入場シーンでは日本同様にアメリカ人のファンが入場曲の「風になれ」を大合唱した(三尾圭撮影)
鈴木みのるの入場シーンでは日本同様にアメリカ人のファンが入場曲の「風になれ」を大合唱した(三尾圭撮影)

 今春のロサンゼルス大会のときに、アメリカで最も権威あるプロレス・ジャーナリストであるデーブ・メルツァー記者と話をしたが、「(ロサンゼルス大会は)レッスルキングダムと同等とは言えないが、とても質の高い大会だった。(メインイベントの)飯伏幸太、ケニー・オメガ組対ヤング・バックスのタッグ戦は、ここ何年かで観たタッグ戦の中で最高の試合の1つだった。9試合の中で悪い試合は1つもなかった」と日頃から新日本のレスラーと試合内容を非常に高く評価しているメルツァー記者は、満足気な表情を見せた。

今年3月の新日本プロレス・ロサンゼルス大会のメインイベント、飯伏幸太、ケニー・オメガ組対ヤング・バックスの試合はアメリカのプロレスファンを大熱狂させた(三尾圭撮影)
今年3月の新日本プロレス・ロサンゼルス大会のメインイベント、飯伏幸太、ケニー・オメガ組対ヤング・バックスの試合はアメリカのプロレスファンを大熱狂させた(三尾圭撮影)

 過去2回のロサンゼルス大会では大成功を収めた新日本プロレスのアメリカ進出だが、5月1日にサンフランシスコ大会のチケットが発売されると、発売日に3000枚のチケットが売れたが、大会1週間前の時点でまだ多くの席が売れ残っている。

 「新日本はサンフランシスコ大会での動員には苦戦する」とメルツァー記者は3月の時点で指摘していたが、その通りの結果となっている。

 今回の会場は1941年に建てられた由緒あるカウパレス。コンサートだと1万6500人、バスケットボールの試合でも1万3000人収容できるアリーナで、今年3月の会場だったピラミッドの倍以上の収容人数を誇る。

 1964年にビートルズが初の全米ツアーを行ったときの最初の公演会場でもあり、ボクシングの世界戦も10度行われている。

 「今世紀に入ってからカウプレスを満員にしたプロレス団体はWWEだけで、あの会場をWWE以外のプロレス団体が埋めるのは難しい」と言うメルツァー記者は「もし、新日本が1万人以上の観客を動員できたら、それは驚くべきことだ」と口にした。

2017年7月のG1スペシャルUSA大会は2日間ともに超満員で大成功を収めた(三尾圭撮影)
2017年7月のG1スペシャルUSA大会は2日間ともに超満員で大成功を収めた(三尾圭撮影)

 サンフランシスコ大会の収容人数が多いことだけがチケットの売れ行きが芳しくない理由ではない。

 ロサンゼルス大会に来たファンは全米中から集まったファンであり、前回大会から3ヶ月での大会を飛行機に乗って観に行くのは金銭的に厳しい。しかも、この週末は独立記念日(7月4日)直後の週末であり、多くの人たちが旅行をするためにアメリカ国内の飛行機代もホテル代も高騰している。

 また、「キング・オブ・スポーツ」を謳う新日本プロレスのファンには、UFCなどの総合格闘技も好きな人が多く、新日のサンフランシスコ大会と同じ7月7日の夜には、ラスベガスでUFC226が開催される。例年、UFCは独立記念日直後の大会に豪華カードを組むが、今年もヘビー級王者のスティペ・ミオシッチにライトヘビー級王者のダニエル・コーミエが挑戦するヘビー級タイトルマッチと、王者マックス・ホロウェイが無敗のブライアン・オルテガの挑戦を受けるフェザー級タイトルマッチの2大防衛戦が組まれている。サンフランシスコでの新日本観戦を諦めて、自宅でUFCのテレビ観戦を選ぶファンは多いだろう。

今年3月のロサンゼルス大会ではニュージャパン・カップで初出場初優勝を飾ったザック・セイバー・ジュニアがタッグながらオカダ・カズチカとのIWGPヘビー級選手権試合前哨戦が行われた(三尾圭撮影)
今年3月のロサンゼルス大会ではニュージャパン・カップで初出場初優勝を飾ったザック・セイバー・ジュニアがタッグながらオカダ・カズチカとのIWGPヘビー級選手権試合前哨戦が行われた(三尾圭撮影)

 アメリカ国内から飛行機で観戦に訪れるコア層の動員が限りがある場合、いかにライト層を取り込むかが鍵となる。

 新日本プロレスはサンフランシスコ大会にメインイベントとして、オカダ・カズチカからIWGPヘビー級ベルトを奪取した新王者のケニー・オメガがコーディの挑戦を受けるタイトルマッチを用意。

 セミも王者ジェイ・ホワイトにジュース・ロビンソンが挑戦するIWGP USヘビー級タイトルマッチをラインナップ。メイン、セミともに日本人選手ではなく、北米出身の選手を起用する。

 コアなファンはアメリカでも日本と同じような試合カードを期待するが、ライトなファンには北米出身の選手の方がアピールしやすい。

 確かにコーディは「アメリカン・ドリーム」の異名で人気を誇ったレジェンド・レスラー、ダスティー・ローデスの息子でWWEではタッグ王者やインターコンチネンタル王者のベルトを巻いた実力者。絶大的な人気を誇るスーパースターではなかったが、プロレスファンの間での知名度は高い。

 昨年7月の新日本ロサンゼルス大会初日のメインイベントに抜擢されたのもコーディで、そのときはオカダのIWGPヘビー級王者に挑戦して敗れた。

 オカダのV13を阻止して新日本プロレスの頂点に立ったオメガと、アメリカで抜群の実績と知名度を誇るコーディの試合がどれだけライト層の心に突き刺さるかがチケット売上数を左右する。

 もしも、クリス・ジェリコ対内藤哲也のリマッチを急遽組んで発表することができれば、チケット売上が急上昇するかもしれない。

G1スペシャルUSA大会初日のメインイベントでオカダ・カズチカのIWGPヘビー級ベルトに挑戦したコーディはWWEでの実績も経験も豊富で、アメリカで高い知名度を誇る(三尾圭撮影)
G1スペシャルUSA大会初日のメインイベントでオカダ・カズチカのIWGPヘビー級ベルトに挑戦したコーディはWWEでの実績も経験も豊富で、アメリカで高い知名度を誇る(三尾圭撮影)

 この大会にはオカダを始め、内藤や棚橋弘至など新日本プロレスが誇る人気日本人レスラーも数多く参戦。IWGPヘビー級とUSヘビー級以外にも、IWGPジュニアヘビー級、IWGPタッグ、NEVER無差別級と新日本の主要ベルト5つのタイトルマッチが行われる見どころ満載の大会だ。

 業績が右肩上がりの新日本プロレスの昨年の収益は約38億円。世界最大のプロレス団体のWWEは20倍以上の約800億円だった。

 「新日本のアメリカでの人気はカルト的なものだ。会場に来るファンたちの間での熱は非常に高いが、まだメインストリームとはほど遠い」とメルツァー記者が言うように、WWEの人気レスラーであるジョン・シナやザ・ロックをほとんどの小学生男子がその存在を知っているが、オカダ・カズチカを知っている小学生男子は少ない。

 年に1度か2度、アメリカでビッグマッチを組めば、5000人から1万人の熱いファンを動員できても、「カリフォルニアで定期的に興行しても、ファンはそんなに頻繁に観戦旅行ができない」とメルツァー記者は指摘する。

 10年ほど前にWWEのライバル団体と言われた「TNA(現インパクト・レスリング)が毎週スパイクTVで放映されていたときの視聴者数は、現在AXSテレビで放映されている新日本プロレスの8倍から10倍だったが、ファンの熱狂度と動員力ではすでに新日本が上回っている」とメルツァー記者が言うように、WWEに並ぶ存在になるのは難しくても、WWEに次ぐアメリカ2番目のプロレス団体になれそうだ。新日本が提携しているROHを、アメリカでの観客動員力ですでに超えている。

 新日出身の中邑真輔がWWEですぐにスーパースターとなったように、「オカダ、ナイトー、タナハシ、スズキ(鈴木みのる)、オメガ……。新日本のプロレスラーの質はWWEと同じレベル」(メルツァー記者)で、新日本のプロレスはストーリーだけでなく、レスリングでアメリカのプロレスファンの心を掴む技術を持っている。

 新日本プロレスがアメリカでの収益を増やすためには、アメリカ大会の数を増やすのではなく、AXSのテレビ中継でファンを増やしつつ、有料コンテンツである新日本プロレスワールドの加入者数を伸ばしていく方が現実的だ。新日本とWWEの放映権収入は180倍、動画配信サービスの会員数でも15倍もの差があるので、新日本の放映権収入はまだまだお大きな伸びしろがある。

 その上で、年に1、2回、大都市で1万人規模の興行をするのが得策だと思える。

内藤哲也率いるロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンはアメリカでの人気を高い(三尾圭撮影)
内藤哲也率いるロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンはアメリカでの人気を高い(三尾圭撮影)

 新日本プロレスの社長に就任したばかりのハロルド・メイ社長は、海外進出と動画配信に力を入れて収益を伸ばしていくと語っている。6ヶ国語を話すメイ社長は、アメリカやヨーロッパの文化や作法もよく知っており、新日本の魅力を世界に売り込むのに最適な人物。

 数年後には日本が世界に誇る文化の中に、日本食やアニメと一緒にプロレスが含まれる時代が到来するかもしれない。

 

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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