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大学アメフトコーチの仕事と素質 ~スーパーボウル優勝コーチから日本アメフト界への提言(2)~

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
NFLシアトル・シーホークスのロッキー瀬藤元コーチ(左)とピート・キャロルHC

大学コーチの仕事とは?

 「大学のコーチにとって最も大切なことは、学生たちを少年から真の男性へと成長させる手助けをすることだ。努力、チームワーク、勤勉さ、忠誠心、献身さ、決断力、困難に打ち勝つ力など人生で大切な要素の多くを私はフットボールを通して学んできた。、だからこそ、私は胸を張ってフットボールは世界で最も素晴らしいスポーツだと言うことができる。世の中には素晴らしいスポーツはたくさんあるけど、フットボールほど様々なタイプの人間が力を発揮でき、バックグラウンドの異なる人たちが協力して、1つの目標に向かって力を合わせるスポーツはない」

 「アメリカン・フットボールは人生の縮図」だと言う瀬藤氏は、「フットボールをプレーするのは簡単なことではない。夏の暑い日に40度近いフィールドで防具やヘルメットを付けてハードな練習をすることもあれば、氷点下の中で試合をすることもある。選手は身体的な試練が課せられ、辛い状況でも我慢して乗り越えるレッスンを繰り返す。どんなスポーツよりも多くの人が携わるフットボールは、人間関係を築き上げるレッスンの場でもある。自分のことだけを考えるのではなく、チームのために自己犠牲を払い、皆で協力して大きな目標を成し遂げる。試合に勝利をすれば、成功しても謙虚でいることを学ぶし、負ければ失敗から立ち直る方法を学べる」とフットボールを通して人生に役立つことを数多く学べると言う。

 アメリカでも日本でもアメフト出身者はビジネス界でも成功するケースが多い。

 「アメフトを通して協調性とリーダーシップ能力、判断力を養い、組織論を身をもって学ぶ。苦しい場面から勝ち上がる訓練も繰り返し行ってきた選手たちは、社会に出ても成功できる。アメフトの辛い練習に耐えてきた選手は、社会で困難な場面に遭遇しても、そこから抜け出す自信を備えている」

大学コーチに求められる資質

 では、大学のアメフト・コーチに求められる資質は何なのだろうか?

 「もし私が大学のコーチを雇う立場にあるならば、誠実さと正直さをまず最初に見極める」と瀬藤氏は言う。

 「学生たちにフットボールの技術だけでなく、人生の大切なレッスンを教えられる人物が望ましい。威圧的ではなく、謙遜さを備え、学生の心を開き、距離を縮められるだけのコミュニケーション能力を備えた人物だ」

 日本では体罰やコーチ陣によるパワーハラスメントも珍しくはないが、「やり方を変える時期を迎えている」と瀬藤氏は警告する。

 「NFLでもコーチが選手たちを支配する時代もあったが、今はコーチと選手が信頼関係を築くのが主流となっている」

 選手はコーチの奴隷でも駒でもなく、共同作業者との認識に変わってきている。

選手との適切な関係性の築き方

 コーチとして、どのように学生と関係性を築けば良いのか迷うときもあるかもしれない。USCで11年間、シーホークスでも7年間コーチを務めた瀬藤氏はこうアドバイスを送る。

 「コーチの仕事はフットボールを指導することだけではない。とくに学生を教える場合には、彼らが学生であることを忘れてはならない。彼らが社会に出たときに的確な判断ができるように、彼らを育てていくのもコーチの役目だ。学生を支え、励まし、正しい方向に導いていく。コーチがそんな存在であれば、学生たちも心を開いて信頼し、様々な相談をしてきてくれる。そんな関係性を作るためには、学生を愛さないといけない。コーチが学生を愛し、信頼しなければ、学生もコーチを信頼してくれない」

USCのコーチ時代に、学生と一緒にフィールドで跪いて祈るロッキー瀬藤氏(本人提供)
USCのコーチ時代に、学生と一緒にフィールドで跪いて祈るロッキー瀬藤氏(本人提供)

コーチからの指示に疑問を感じたときの対処法

 コーチも人間なので判断を間違えるときもある。コーチからの指示を疑問に感じたとき、選手はどのように対処したら良いのだろうか?

 「私はクリスチャンなので、聖書の教えに反することを命じられたときには、コーチではなく神の教えに従うことを選ぶ。聖書のように絶対的な核となるものを持ってない場合には、良心に反すると感じた場合には、すぐに命令に従うのではなく、よく考えてから行動に移すべき。コーチの指示に納得できなくても、それが良心に反するものでなければ従った方が良い。これはフットボールだけでなく、社会に出てからも同じだと思う」

 コーチと選手の間で信頼関係が成り立っていれば、コーチが間違った指示をする機会は少ないし、選手も疑問に思ったら、すぐにコーチとその意図を確認できる。

 「選手たちはコーチにガイダンスを求めている。選手の友達になるのではなく、父親や兄のような存在であることを心がけてきた。励ましが必要なときには励まし、自信を失ったときには勇気づけてきた。選手と信頼関係を築くだけでなく、選手の家族とも関係性を築くことが大切だ。今でも大学時代の教え子やその家族とは定期的に連絡を取っている」

今こそアメフト界が一致するとき ~スーパーボウル優勝コーチから日本アメフト界への提言(3)~に続く

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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