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寝技ナンバーワンは誰だ?新たなグラップリング大会「UNRIVALED」に注目

清野茂樹実況アナウンサー
岩本健汰とウィリアム・タケットの攻防(写真提供:UNRIVALED)

多種多様な格闘技が存在する日本国内において、この10年で競技人口がめざましく増えているのが寝技=グラップリングである。日本ブラジリアン柔術連盟の主催する大会において2014年に約1500人だった出場者数は昨年は約1万人に急増。柔術の大会が寝技を牽引していることは間違いないが、その一方で柔術とは異なるコンセプトで誕生した大会がUNRIVALED(アンライバルド)である。2021年の誕生からわずか2年足らず、格闘技界で異彩を放つ新しい大会を紹介したい。

目指すのは寝技の異種格闘技

かつてのUFCがさまざまな格闘家が集まる大会であったように、UNRIVALEDが目指すのは寝技の異種格闘技戦である。画期的なのは柔術家に有利と言われる従来の大会と異なり、レスリング、柔道、サンボ、総合格闘技の選手が使う投げ技も有効とし、引き込み技は減点とするルールを採用したことである。その結果、打撃以外はすべて有効とする世界的にも珍しい寝技大会が誕生。寝技と言えば、世界を見渡しても20分から30分をかけてじっくり一本を取るまで競う大会が多い中、15分でテンポ良く動いてポイントを競い合うUNRIVALEDの試合は海外からも注目されている。

上から攻めるか下から攻めるか

引き込み技が減点化されたUNRIVALEDでは柔術の大会と異なり、下から攻める選手が少ない。柔術家の竹浦正起によると、寝技の世界ではここ数年、上から攻めるスタイルがトレンドであり、UNRIVALEDの登場によって、そのスタイルはさらに顕在化したという。ルールを監修した日本のトップグラップラーである岩本健汰も足関節を狙うスタイルからトップをキープするスタイルにチェンジしており、「柔術家もトレンドに乗ってレスリング技術を重視するスタイルに変える選手と、足関節など下から攻める技術を徹底的に磨く選手とで技術が二極化しています。それぞれの選手の矜持が見られるのがUNRIVALEDの面白さ」(竹浦)なのである。

世界の一流を招聘

そして、海外からトップ選手を招聘しているのもUNRIVALEDの特徴だ。大会プロモーターの斉藤穂高は「寝技には寝技特有の競技の美しさがあります。これまで寝技の試合は総合格闘技の興行に含まれる形で行われることが多かったのですが、寝技を独立した格闘技として注目して欲しい」と語り、2月に開催された大会「UNRIVALED 2」には海外から一流選手を3人招聘した。予算面を考えれば、観客が100人以下の小さな大会ではあり得ないことだが、競技の魅力を知ってもらうためにはハイレベルな技術を見てもらうより最短距離はない。たしかに、寝技の最高峰であるアブダビコンバット出場経験のある岩本とウィリアム・タケットのハイレベルな攻防には筆者の目も釘付けになってしまった。

エンタメ路線とは反対を突き進む

さらに、もうひとつ大きな特徴が、世界トップクラスの選手が出場する一方でアマ部門もあることだ。UNRIVALED ALTANAの名称で開催されるアマ部門の試合数はプロ以上に多い。大会ディレクターの高澤敬介は「今後はプロの大会は定期的にやりながら、アマの競技人口を広げていくのが理想です。マイナースポーツとして自覚したうえで競技人口を増やして定着させたい」と語る通り、UNRIVALEDは従来の格闘技団体が進めてきたような演出は踏襲せず、質素な路線を目指す。より早く、派手さが求められる時代において、ゆっくりと歩みを進めるUNRIVALEDがこれからどんな道を切り拓くのか注目である。

※文中敬称略

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

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