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令和4年の大相撲で飛び出した「珍しい決まり手ランキング」トップ3を発表

清野茂樹実況アナウンサー
57年ぶりに出た珍しい決まり手「合掌ひねり」(写真:日刊スポーツ/アフロ)

現在、相撲の決まり手は「八十二手」と決められており、日本相撲協会によると、ここ5年の決まり手の統計は「押し出し」が25.6%、次いで「寄り切り」が24.5%と、決まり手は偏っていることがわかる。しかし、思いがけない技が飛び出すのも本場所の楽しみだ。実況アナウンサーとして大相撲の魅力を伝える筆者が、令和4年の大相撲の本場所、年間90日間の幕内の取組で見られた「珍しい決まり手」をランキング形式で3つ紹介する。

3位 かわづ掛け(10年ぶり)

九州場所5日目に関脇の豊昇龍が翠富士相手に見せた「かわづ掛け」は、平成24年春場所で隆の山が勢に決めて以来、10年ぶりに見られた技である。足技が得意な豊昇龍も決めたのは初めてで、「狙ったわけではなく、流れでいきました」とコメント。相手の横につき、自分の足を相手の足の内側に絡ませ、首を抱えたまま体を反らして後ろに倒れる難しい技であり、決めた豊昇龍は技能賞を受賞している。平成8年初場所に貴ノ浪が貴乃花に勝って初優勝を決めた技として記憶している人もいるだろう。ちなみにプロレスにも応用されており、ジャイアント馬場がよく使っていた。

2位 伝え反り(20年ぶり)

令和の業師、宇良が秋場所4日目の宝富士を相手に決めた「伝え反り」は、平成14年秋場所で当時大関だった朝青龍が貴ノ浪に決めて以来、20年ぶりに出た決まり手であった。相手の脇の下を頭からくぐり抜けてから体を反らすので、難易度はかなり高い。決めた宇良本人は「たまたまです」と謙遜していたものの、反り技は学生時代から得意としており、令和2年九州場所には十両の取組でさらに珍しい「居反り」を決めている。現在、客席では声を出しての応援は禁じられているが、宇良の相撲を見ると思わずマスクの下で声が漏れてしまうのも納得せざるを得ない。

1位 合掌ひねり(57年ぶり)

そして1位は、九州場所9日目で小結の玉鷲が宇良に決めた「合掌ひねり」である。幕内では57年ぶり。前回は昭和40年の九州場所で、戦後わずか二度しか出ていないと言えば、いかに珍しいかお判りだろう。相手の首の背中側で手を組んで(掌を合わせて)左右どちらかにひねり倒す技で、手は組まずに頭をつかんでひねり倒した玉鷲の動きは「とっくり投げ」にやや近いが、公式記録は「合掌ひねり」となった。読んで字の如く「ひねり手」に分類される。取組後の玉鷲が「あまりやってはいけない技」とコメントしている通り、見た目以上に危険な技である。

以上が今年の幕内の土俵で見られた「珍しい決まり手」上位3つである。多彩な技の使い手は小兵力士に多く、他にも照強が名古屋場所で「足取り」を3日連続で決めたこと、翠富士が夏場所で得意技の「肩すかし」を4回決めたことも強く印象に残る。幕内力士のほとんどは相撲の型が確立されており、決まり手は先に述べた通り「押し出し」や「寄り切り」がほとんどだが、珍しい技が飛び出すと、見る側にとっては得した気持ちになるものだ。

大相撲の決まり手を判断するのは、相撲協会の決まり手係を担当する親方である。決まり手係は館内で取組を見ながら、勝負あった瞬間に八十二手から判断、遠隔で行司に伝えて場内にアナウンスされるのが通例だ。訂正は結びの一番まで可能で、翌日以降にされることはない。担当者によって決まり手の解釈が微妙に変わってくるのが実に大相撲らしく、発表された決まり手(勝負結果)は公式記録として後世に残される。このように取組で出た技を「何年ぶりの」と紹介できるのは記録の積み重ねがあるからであり、決まり手ひとつから長い歴史を想像できるのも大相撲の魅力のひとつなのである。

※文中敬称略

※年号は和暦を採用

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

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