炉心溶融の隠蔽は認めたけど、再び圧力があった場合に事実を公表できるかどうかは「訓練」次第の東電

炉心溶融の公表方法に関して、会見に応じる廣瀬社長(左)と姉川常務執行役。

東電は炉心溶融(メルトダウン)の基準を事故後5年経って公表したことに関する第三者委員会の報告を受けて、6月21日に臨時の記者会見を開催。「検証結果を厳粛に、そして全面的に受け止め」て、「事故当時の通報・広報の不手際」および炉心溶融の基準について新潟県の技術委員会に誤った説明をしたことについて、対策をとりまとめた。

東京電力としての反省と誓い ~第三者検証委員会の検証結果報告書を受けて~

http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1300453_8626.html

「東京電力としての反省と誓い」で東電は、「どのような事態に直面しても、立地地域をはじめ、広く社会の皆さまの安全・安心を最優先とし、しっかりと事実をお伝えするという姿勢を貫く覚悟を持ち続けること」を誓い、訓練時のシナリオの多様化や緊急時マニュアルを適切に使えるような社員教育、用語の使い方を技術的に判断する責任者の設置、国等への通報やテレビ会議などの記録を残す運用などの対策を確立していくとしている。

この会見で廣瀬直己社長は、記者からの質問に答える形で、事故直後に炉心溶融という言葉を使わなかったのは「隠蔽」だと認めた。ただ、第三者委員会の報告書で多用されている「推認」の部分について東電がどのように認識しているのかについては、廣瀬社長は「受け止める」「中身についていいとか悪いとかいうのはおかしい」などと述べ、正しいと考えているのか、それとも誤りがあると考えているのかは明確にならなかった。

しかし第三者委員会は東電にだけヒアリングを行っており、調査が尽くされたとはいえない。なぜ炉心溶融が隠されたのか、真相の究明にはまだ時間がかかりそうだ。

今年2月24日、東電は突然、炉心溶融を判断する基準が社内の「原子力災害対策マニュアル」に明記されていたことを公表した。東電によれば、炉心損傷割合が5%を超えていれば炉心溶融と判断することになっていた。

ところが東電は東日本大震災の発生から3日後の2011年3月14日に、炉心損傷割合が「30%」という報告を当時の原子力安全・保安院に通報連絡したにもかかわらず、「炉心溶融」とは記載していなかった。また記者会見では「炉心損傷」という言葉で説明を続け、メルトダウンを否定していた。社内マニュアルに従えば、この時点で炉心溶融と広報できたことになる。

その後も炉心溶融の言葉使いはずっと問題になり続けていた。そんな中、東電は15年12月16日に新潟県技術委員会に対して、炉心溶融の「定義は明確に認識していなかった」と説明したが、前述したように突然、社内マニュアルを「発見」して公表。第三者委員会を設置し、事故直後の広報や新潟県への説明について調査するとしたのだった。

そうした中、今年3月にTBSテレビは、2011年3月14日夕刻の東電会見で炉心溶融の可能性を問われた武藤副社長に広報担当者からメモが渡されるとともに、「官邸から、これとこの言葉は使わないように」と耳打ちするのを、音声つきで報じた。東電が炉心溶融という言葉を意図的に避け、事実を隠していた疑いは強まっていった。

第三者委員会は6月16日に調査結果を東電に手交。報告書では、社内マニュアルに従えば保安院に通報する際に「炉心溶融」と記載していたと考えられると認定(報告書14ページ)していた。また武藤副社長へのメモは清水社長から直接指示を受けたものであるとした。

一方で報告書は、当時の官邸関係者に聞き取りをしなかったにもかかわらず、炉心溶融を認めなかったのは官邸からの要請があったと「推認」されるとしていた。さらに第三者委員会の田中康久委員長は記者会見で、東電社内に炉心溶融という言葉を使わないという「雰囲気」があったことなどを理由に、これらの行為を「隠蔽」とは認めなかった。会見では記者から、それこそが隠蔽ではないかという指摘も出たが、委員らは明確に否定した。

要するに第三者委員会の弁護士の認識では、「なんとなく言ってはいけない雰囲気」があれば、重要なことを隠しても隠蔽とは認めないということのようだった。なんとも珍妙かつ東電に慮ったような解釈ではないだろうか。この「雰囲気」問題も含め、第三者委員会の報告書は推認と推測が多く、事実がどこにあるのか判然としない内容といえた。

ちなみに田中弁護士と佐々木善三弁護士は、東電の国会事故調に対する調査妨害事件の時も第三者委員会委員だった。その時は、妨害されたという国会事故調側委員への聞き取りをせず、東電社員だけの話を聞くという調査で東電の意図的な妨害を否定した。記者側の認識と委員の認識がひどく噛み合わなかった今回の第三者委員会の記者会見は、そんな過去を思い出させてくれた。

話を戻す。21日の臨時会見の冒頭で廣瀬社長は、炉心溶融を説明しなかった経緯について「社会から見てこれを隠蔽ととらえるのは当然」と述べたが、記者からはこの点について厳しく問う質問が続いた。「社会から見れば」というこの言葉は、「みんなが言ってるんだからしょうがない」という意識が見え隠れしたからだ。そんな中、以下のようなやりとりがあったのだった。

──隠蔽の所。社会のみなさまの立場に立てば隠蔽(という見方)は当然と。社会の目はわかるが、東電としては隠蔽と捉えているのか。それとも、東電としては思ってないが社会がそうおもっるなら仕方ないよねという趣旨か

廣瀬「言葉なのでそれぞれの方によって程度は違うかもしれないので、今回はうちの方々ががどういうふうに考えるかという判断基準で、プレスリリースにあるような記載にした。

──社長は隠蔽と考えているか

廣瀬「社会の方々が、みなさん、ほぼそういうふうに思うだだろうなと考えている」

──社長はどう考えているか

廣瀬「まあ、あの、隠蔽ですね」

まさに、しぶしぶ認めたという印象だった。

このほか焦点になったのは、今後、もし事故が起きた場合に官邸から同じような圧力があった場合、東電としてどう対応するのかということだった。普通に考えれば、圧力があっても事実を伝えると明言すればいいことのように思えた。けれども廣瀬社長は、「しっかり訓練する」「さまざまなケースを想定する」などと繰り返し、「なにがあっても事実を伝える」という明言はなかった。

それにしても、なんらかの圧力があったらどうするかという訓練は、どのように実施するのだろうか。そもそも報告書では、官邸からの圧力を「推認」しているだけで、具体的になにがあったのか明らかにしていない。なんらかの圧力に対する訓練では、どうもよくわからない。東電はよく「仮定の話には回答できない」というが、これこそ仮定の話をもとにした机上の訓練にならないだろうか。

このほか、ざっくりと以下のような疑問が残る(まだ他にも疑問点はたくさんある)

1.なぜ「言ってはいけない」という雰囲気が社内に生まれたのか

2.武藤社長へのメモについて東電は2012年の6月に事故調査報告書を公表する前に知っていたにもかからず、社内事故調の報告書に記載しなかったのは「重要性が低いと判断」したからだというが、なぜ「低いと判断」したのか。その根拠はなんなのか。

3.いったい官邸から誰が清水社長に「炉心溶融」を使うなを指示したのか、当時は官邸に詰めていた武黒フェローの名前が報告書にも出てこないため、その役割がまったく不明であること(東電への指示は武黒フェローを通じて清水社長に伝えられることが多かった)

東電は今後、新潟県と合同検証委員会を設置し、新潟県技術委員会から出されている70項目の問題点等を調査する予定だ。前述したような疑問は、今後は合同検証委員会で議論されることになるかもしれない。

しかし武藤副社長へのメモの経緯が東電事故調の報告書に記載されなかった経緯は、廣瀬社長が今日の会見で「第三者委員会で確認したので」調査の必要はないという考えを示している。このような重要事項が抜けているのんら、他にも担当者が「重要ではない」と判断して書かなかったものがあると考えるのが普通だろう。

しかし廣瀬社長は、ほかに抜けているものは「ない」と述べ、確認しようとしない。根拠も不明だ。東電は今回公表した対策で、社内に情報提供を呼びかけるとしているが、対象は「新潟県技術委員会から「メルトダウンの公表に関し今後明らかにすべき事項」 としてご提示を受けた70項目のうち、東京電力HD・新潟県合同検証委員会において検証することとなる項目」だ。なぜ社内に言ってはいけないという「雰囲気」が生まれたのかなど、対象になっていない疑問は調査されるのだろうか。いまはまだ明確ではない。

合同検証委員会の日程は、まだ発表されていない。それだけでなく、福島第一原発の事故の全貌が解明されるのは、いったいいつになるのだろう。見えているのは、事故原因究明もそこそこに再稼働、そして避難指示区域の解除が進んでいるという現実だ。

福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会からの「検証結果報告書」の受領について

http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1300003_8626.html

東京電力HD・新潟県合同検証委員会(仮称)の委員の決定について

http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1299703_8626.html