東電は当初、謝罪要求に応じず

東京電力は2022年6月5日、原発事故によって避難を余儀なくされた人たちが損害賠償を求めて東電を訴えていた裁判の判決が確定したことを受けて、原告らに社長名で謝罪をしました。原告代理人によれば、原発事故後、東電が公式に社長名で謝罪をするのは初めてです。

ただ謝罪文をよく読むと、随所に「責任回避」と思える言葉が混じっていて、原告や原告代理人の弁護士からは厳しい感想も漏れました。また謝罪の場に、東電の小早川智明社長は姿を見せませんでした。

それでも関係者は、東電による初の公式な謝罪は今後につながる大きな一歩だと評価しました。

東電が謝罪をしたのは、原発事故によって避難指示が出た地域(南相馬市や浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、川内村)の住民が損害賠償を求めて東電を訴えた、『福島原発避難者訴訟』の原告です。訴訟には当初、216人が参加し、総額約133億円の損害賠償を求めて2012年12月に東電を訴えました(その後、時間が経過する中で死亡などにより原告数は減少)。

一審判決は2018年3月22日、控訴審判決は2020年3月12日に出ました。二審仙台高裁はふるさと喪失慰謝料などを認め、一審よりも賠償額を増額していました。この判決に対して東電は最高裁に上告しましたが、2022年3月8日に最高裁は上告を退け、判決が確定しました。

判決確定後すぐに、原告側は東電に対し、公式な謝罪を求めて働きかけを開始しました。しかし東電は、すぐには応じませんでした。

東電はこれまで、個別の賠償交渉の中で現場担当者が頭を下げることはありましたが、組織として原発事故の過失を認めたことはありません。

それでも粘り強く交渉を続け、ようやく、6月5日に東電が謝罪することになりました。判決では東電に謝罪を義務付けてはいませんが、電力債の存在や公益を担うなどとして税金を投入し会社が存続している企業の社会的責任を考えると、加害責任が確定した後も被害者が交渉しなければ謝罪をしないという企業姿勢には大きな疑問を感じます。

復興本社代表が謝罪文を読み上げ

2022年6月5日に東電は、福島復興本社(福島県双葉町)の髙原一嘉代表が、東電HDの小早川社長の謝罪文を代読しました。

小早川社長は謝罪文で「当社の起こした事故により、皆さまのかけがえのない生活やふるさとにとても大きな損害を与えたことにより、皆さまの人生を狂わせ、心身ともに取り返しのつかない被害を及ぼすなど、様々な影響をもたらしたことに対し、心から謝罪いたします。誠に申し訳ございません」と記しました。

東電の謝罪について原告団団長の早川篤雄さんは、社長が来ないことなどは「非常に複雑で、ひと言で表すことはできない」と前置きし、「残念ですが、私の期待するところには至らなかった」と、率直に感想を話しました。

さらに、今回の東電の謝罪は原告団に対するものだが、「私たち原告団は、相双地区全被害地域住民を代表して闘ってきただけに、全ての被害者に向けられたものと受けとめます」と述べ、今後、全ての被害住民に対する謝罪や、訴訟の原告団に対する賠償を踏まえて誠意を持って自主的に賠償することを求めました。

謝罪文の内容に原告側の心境は複雑

一方、この後に開かれた原告側の記者会見では、原告団副団長の國分富夫さんが、「社長が来ないのは常識的に考えられないこと。被害者を甘く見た謝罪だったと思う」と、厳しい感想を述べました。

また原告団事務局長として多数の原告の思いを受けとめてきた金井直子さんは、「完全な謝罪ではなかったが、裁判をこれだけ長く続けることの大変さはある。これで終わりではないが、私の中ではひとつの区切り。東電の姿勢はこれからも問われるし、とにかく今は地域が良くなっていくような希望が持てる将来につながることを願いたい」と、複雑な心境を話しました。

被害者をなお苦しめ、混乱させている東電の謝罪文はどのような内容だったのでしょうか。

記者会見で原告の弁護団幹事長、米倉勉弁護士は、「積極面と消極面が相半ばするもの」という見方を示しました。また原告弁護団は東電の謝罪を受けて、共同見解を発表しています。その中で、東電が社長名で謝罪したことは、これまで断固として謝罪を拒否してきたことから考えると「重大な変化」だと認めています。ただ、その内容は「万全とは言い難い」としています。

被災者は賠償を受け取りすぎていると東電が主張

万全ではない理由の第一は、東電が裁判の中で、原発事故の加害責任を争うだけでなく、原告に対して、必要以上にお金を受け取ったかのような主張をし、「原告本人尋問の場でもこれに即した攻撃的な尋問を繰り返して」いることを上げています。

東電は各地の裁判所で、被害者にお金を払いすぎている、だから訴訟で認められた損害に対する支払いに充当されるべきだという主張を繰り返しています。そのため各地の弁護団は、東電の主張は原告の立証の負担を増大させて裁判をいたずらに長引かせるだけであり、原告に対する不当な攻撃で容認できないと批判をしています。

ふたつめは、東電が高裁判決を正面から受けとめず、他人事としている印象が否めないことです。

『福島原発避難者訴訟』の仙台高裁の判決では、津波によるシビアアクシデントが発生する可能性を東電が認識していたことを認めた上で、東電が津波対策を先送りしたことは、被害者にとって「誠に痛恨の極み」としています。

それにもかかわらず、謝罪文ではこのことにひと言も触れず、「なぜ事故を防げなかったのか」を明らかにしていないことから、「結局、事故に対する過失責任を認めていないのではないかとの疑問を拭うことができない」という見解を示しています。

こうした不十分な点はありつつも、原告らは今後、原子力損害賠償審査会が定めた中間指針の見直しなど、残されている課題の解決に向けて活動することとしています。東電の姿勢に不満はあるが、まずは社長名で謝罪が出たことは出たので、実質的な問題の解決を目指すということです。

原告側にすれば、生活を平穏なものにするために一歩でも前に進みたいところです。でも東電の姿勢に不誠実さを感じるのも事実で、それを横に置いておくのは苦しい選択でしょう。

社長の出席は断固拒否

東電の不誠実さがにじみ出るのは謝罪文だけではありません。記者会見では、今回の謝罪に至る経緯の説明がありました。

東電は今回の謝罪にあたって、当初は、福島復興本社の副代表が対応することで済まそうとしたそうです。この説明には、一瞬、記者会見場に出ていた記者からため息のような、失笑のような声が漏れました。

15万人が避難することになった原発事故の加害者が、被害者への謝罪に社長を出さず、現場の代表でもなく、副代表で対応するのが、東電の組織原理なのでしょうか。東電や規制当局は裁判で「社会通念」という言葉を使うことがありますが、東電の社会通念では、大事故を起こして責任者が謝る必要はないということのようです。

さすがに原告側がこれを受け入れることはできず、協議の末になんとか復興本社の代表が出ることで落ち着いたそうです。この経緯からは、真摯に被災者に寄り添う姿勢は感じられません。

世界史に残る原発事故の加害者は何を考えているのか

東電は今回、原発事故後初めて、被害者に社長名で謝罪をしました。ただ、内容や経緯を見ると、世界史に残る原発事故を起こした企業の態度とは思えないものと感じます。

原発事故の避難者による訴訟は全国で約30件あり、被害者らの多くは東電に公式の謝罪を求めています。今回の謝罪が他の裁判の今後に好影響を与えるかどうかは、予断を許しません。

集団訴訟は、6月17日に最高裁で、生業訴訟、千葉訴訟、群馬訴訟、愛媛訴訟の4つについて、国の責任に対する判決が出る予定です。すでに4訴訟は東電の責任が確定していて、これらの原告も東電に謝罪要求をしていますが、東電は応じていません。

また東電は、生業訴訟に関する最高裁への上告受理申立書で、高裁判決が確定すると「訴訟の乱発が予想」されて「総額4000億円を超える追加支払が発生」することになりかねず、国民負担につながるので影響が大きいなどと主張していました。裁判なので主張は自由ですが、脅しのような内容を入れてくるところに、東電の意識が透けて見える気がします。

事故は防げなかった、事故は起きてしまったがもう影響はない、自分たちに事故の責任はない、すでに払いすぎるくらい賠償を支払っている(だから場合によっては返せ)的なことを考えているとしか思えません。

福島第一原発の事故収束作業は、終わりへの道筋が見えません。東電と政府が公表しているロードマップには技術的な根拠を考慮したものとは思えない、楽観的なものです。その一方で、東電は柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を目指しています。その中で、身分証の不正使用など甘い管理体制も明らかになっています。

原発事故の責任に向き合っているとは思えない東電が原発の再稼働を目指すのは、あまりにリスクが高いのではないでしょうか。東電、政府の原発事故に対する姿勢には、今後も注意が必要です。

東電の謝罪文(全文)

2022年6月5日

福島原発避難者訴訟第一陣原告団の皆さま

東京電カホールディングス株式会社代表執行役社長小早川智明

原告の皆さまに対する謝罪について

当社の起こした事故により、皆さまのかけがえのない生活やふるさとにとても大きな損害を与えたことにより、皆さまの人生を狂わせ、心身ともに取り返しのつかない被害を及ぼすなど、様々な影響をもたらしたことに対し、心から謝罪いたします。誠に申し訳ございません。

当社事故の避難指示により、着の身着のまま、状況も不透明な中で緊急的に避難されたことや、慣れない土地での生活に対する大変なご苦労をおかけし、いつふるさとに戻ることが出来るのかといったご不安など大変な苦悩を抱えられたこと、また、いまだ当社事故による爪跡は大きく、11年の歳月が経過しても、まちの風景や情景が元に戻っていないことなど、事故による被害の甚大さについて、事故の当事者として、その責任を痛切に感じております。

当社は、あのような大きな事故を防げなかったことについて、深く反省しております。そして、社員に対して事故の反省と教訓を伝える研修などにより、事故の事実と向き合い、福島への責任を果たす覚悟と安全に関する意識の改革について、世代を超えて引き継ぎ、人が変わっても、これを企業文化として根付かせるべく取り組みを進めております。

また、一人でも多くの方にご帰還いただくことができるよう、福島の復興に向けた取り組みに注力することこそが、事故の当事者である当社が果たすべき

「福島への責任」であると考えております。当社は、引き続き、地域の皆さまとよくご相談させていただきながら、帰還および地域の復興に向けた活動を進めてまいります。

今後、特定復興再生拠点の避難指示解除など、復興のステージが進み、避難されていた方々のご帰還、なりわいや地域コミュニティの再建・再生が進んでいくことに応じ、当社に求められる役割も変わっていくものと考えており、地域の皆さまからのご要望をつぶさにとらえ、当社で何ができるかを常に探しながら、一人でも多くの方々のお役に立てることを実施すべく、真摯に取り組んでまいりたいと考えております。

当社にとって、「福島への責任の貫徹」が最大の使命であり、その責任を果たすために存続を許された会社であることを社員全員が改めて肝に銘じ、福島復興本社代表の高原とともに、主体性を持って全力で取り組んでまいります。

以上