Yahoo!ニュース

新王者の矢吹正道「勝っても負けても引退しようと思っていた」その真意とは

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供全て FUKUDA NAOKI

9月22日、京都市体育館で行われたボクシングWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ。

絶対王者と呼ばれていた寺地拳四朗を破り、新王者となった矢吹正道(29=緑)が激闘の世界戦を振り返る。

ーーー試合からしばらく経ちましたが、世界チャンピオンになってから周りの反応はいかがですか。

矢吹:ジムの方々や家族、応援してくれた人たちみんなが喜んでくれています。当日はたくさんの応援団が駆けつけてくれました。

ーーー当初の予定から試合日程がずれたことで影響はありましたか。

矢吹:デメリットは体重をずっとキープしなければいけないということ、メリットはスパーリングができなかった期間を補えたことです。

スパーリングパートナーがジムにいないため、呼ぶとなっても相手の都合もあるので1週間丸々できない期間もありました。試合の延期でその分ができたという感じです。

ーーーどなたとやったのですか。

矢吹:サンライズジムの川崎智輝選手です。アマチュア出身で拳四朗選手とスタイルが似ているのでスパーリングでもイメージできました。あとは駿河男児ジムの木村天汰郎選手など同じ中部からも何人か来てくれたのですが、本当に拳四朗選手っぽかったのは川崎君で、すごくためになりました。

ーーー拳四朗選手と対戦した選手は皆一様に「やりづらい」というのですが、矢吹選手はどうでしたか。

矢吹:想定内というか、練習どおりでした。

ーーー4ラウンド終了後の公開採点を聞いていかがでしたか。

矢吹:アウェーで、しかも相手はチャンピオンじゃないですか。自分の中でそれほど悪い流れではなかったのですが、そういうことも考慮して五分かなと思っていました。でも公開採点で自分がポイントを取っていたので、このまま行こうと思いました。

ーーー試合に向けてどのような対策をされていたのですか。

矢吹:拳四朗選手といったらやはり多彩なジャブですよね。いきなり拳四朗選手のようなジャブに対峙するとびっくりすると思うので、弟の力石政法や後輩などにもやらせていました。

そういうジャブに対してカウンターを合わせたり、あえて全てに対応しないというのが自分の中の対策でした。

ーーー全てに対応しないとは?

矢吹:弱いジャブ、当たらないジャブなども結構打ってくるので、全てに対応していたら疲れますし、反応してしまったら打たれるということも絶対にあるので。踏み込んでくるときだけしっかり対応しました。

ーーー後半は激しい打ち合いになりましたよね。

矢吹:4ラウンドの公開採点が出てから、拳四朗選手も焦って前に出てきたんだと思います。それなりにパンチが当たるようになったので、やりづらいとも思わなかったです。

パンチは深く当たっていたのですが、ギリギリで逃がしたりもしていましたし、当たっても結構普通にしていたので拳四朗選手はタフだなと思いました。

ーーー試合前にはボディのミットや、ラッシュ系の練習もしていましたよね。

矢吹:はい。やはり普通に1歩踏み込んでも当たらない選手なので、ジャブに対してのボディなどの練習はやっていました。

ーーーボディを打たれる練習もされていましたよね。

矢吹:拳四朗選手はボディを打ってくると思ったので、左ボディを打ってきたら左フックを合わせたり、右ボディを打ってきたら右を合わせたり、いろいろ試していました。

でも、実際はあまりボディを打ってこなかったので、前半は「もっとボディを打ってこい」と思っていたのですが、中盤以降になると自分もそれほど合わせるということが頭になくなっていました。

ーーー練習してきたサンドバッグのラッシュは試合に活かせましたか。

矢吹:サンドバッグのラッシュはいつもやっています。最後にラッシュしたのは完全に相手が効いていたので。ボディを打った時に「うう」と声を出していたので、それで行きました。

ーーーレフェリーストップに持ち込めると思っていましたか。

矢吹:ラスト10秒のカンカンという音も聞こえていたので、正直「ここで止めてくれ」と思っていました。相手が打ち返してこなかったものの、それなりによけられていましたし、ストップの直前に顔面に2発ぐらいパンパンと当たって止められたので本当に最後は運です。

ーーー世界タイトル戦の舞台はやはり違いましたか。

矢吹:雰囲気は違うと思いますが、何も感じないようにしました。でも、自分で試合の映像を見ると、少し動きが固いなということは感じました。普段はあれほど力まないですよ。試合中も力んでいる自覚はあったので、いつもよりスタミナの消耗が早かったと思います。

公開採点で自分がポイントを取っていたので、ペース配分のために9ラウンドは少しディフェンシブに行こうと思っていました。そんな時に相手のパンチが当たったのであそこで狂いが生じました。

ーーーパンチ力は勝っていたと思いますか。

矢吹:4回戦の頃は思っていましたが、パンチ力に頼ったボクシングをするとスタミナもなくなりますし、上手い選手にはそれが1、2ラウンドしか通用しません。

長いラウンドを戦うと1、2ラウンドを取ったところで後半に逆転されるので。自分がパンチ力があるとは思わないですし、そういうボクシングを一切しないようにしています。

ーーーでは、KOは本当にタイミングといった感じですか。

矢吹:そうですね。全てタイミングだと思います。今回は少し力みがあったので、多分どこかに「倒せるのではないか」という気持ちがあったと思います。それが駄目でしたね。

ーーー 一部で言われているバッティングについてはどう思いますか。

矢吹:映像を見たら頭が当たっていますし、頭でカットしたということも分かります。しかし、それが相手に影響したかといったら、動きを見ていても自分はあまり影響していないと思います。

わざとやったわけではないですし、自分からしてしまった時は悪いなと思うのですが、カットした時は本当に頭が当たったとは分かりませんでした。

多分普段の拳四朗選手なら、自分がああやって突っ込んでもバックステップでかわすと思うんですよ。だから、自分からしたらそこにいるとは思わなかったので。

ーーー世界チャンピオンになった瞬間はどのような気分でしたか。

矢吹:「俺が勝った」という感じでびっくりしました。その時はやはり一番嬉しかったです。

ーーー終わった後にいきなり「勝っても負けても引退しようと思っていた」という発言がありましたけれども。

矢吹:本心です。これで勝てなかったらチャンスが来るのはまた1年先だったりしますよね。だから、いつ来るかわからないチャンスのために待てないと思いまして。

初期の段階だったら勝ち負けを経験しながら強くなるということもありますが、ある程度キャリアを重ねると、世界戦で負けたら引退する選手が多いです。また一からやり直すという選手はなかなかいないと思います。

だからこそ弟にだけは「この試合に勝っても負けても辞めようかなと思っている」と話していました。

ーーーそれでも現役続行を決意した理由は何ですか。

矢吹:やはり応援してくれていた人たちの存在です。この先も続けて欲しいと言ってくれますし、資金のサポートをしてくれるという方もいるので続けることに決めました。

【後編は後日公開】

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

木村悠の最近の記事