元WBA世界スーパーフェザー級・ライト級王者・畑山隆則氏が半生を振り返る。

前編ではボクシングを始めたきっかけからジムについて話を聞いた。

平成のカリスマボクサー畑山隆則 世界王者に導いた運命の人物との出会いとは(木村悠)

後編では思い出に残る試合や今後のボクシング界についても語ってもらった。

柳先生とのトレーニング

ーーー世界王者を何人も育てた柳先生とのトレーニングはどうでしたか。

畑山:とにかく厳しかったです。色んなトレーナーがいますけど、柳先生は特に。練習でも褒められたことはありませんでした。

褒められたのは東日本新人王・全日本新人王・それから世界チャンピオンになった時の3回だけでした。

ーーー言い合っている姿もありましたよね。

畑山:韓国は儒教の国なので、柳先生からしたら、上が言ったことは「はい、分かりました」と聞くのが当たり前なわけですよ。今は違うかもしれないけど、4~50年前はそうでした。

私が先生と知り合った30年前は一番言うことを聞かない年頃で、俺がいちいち反抗するから毎日感情をぶつけていましたね。

ポジティブな人は成功しない

ーーーボクシングをやっていてどの辺りで自分の可能性を感じましたか。

畑山:東日本新人王になった時です。

ーーー自分の優れているところはどこですか。

畑山:私は自分に自信がないんです。自信がないから「これじゃ足りない」「これじゃダメだ」といつも考えて、練習も人の倍はしていました。

ーーーそれはKO続きで勝ち上がった後も変わらず。

畑山:はい。良い意味で自信は持つけれど、当然対戦相手もレベルが上がるじゃないですか。

前回の試合では倒せたパンチも、今回の相手は倒せないとか。どちらかと言えばネガティブなんでしょうね。

ーーーすごく意外ですね。

畑山:持論ですが、スポーツ選手でポジティブな人は成功しない。良い意味でポジティブな面も必要なのかもしれませんが、基本はネガティブでないと成功しないと思います。

ーーー試合前は怖くなったり眠れなかったりしましたか。

畑山:それはありませんね。バッチリ練習するので、これで負けるわけがないと思うんです。絶対に負けるということはないから。

写真:ロイター/アフロ

坂本博之戦

ーーー現役時代はチェ・ヨンスとの2度の対戦やコウジ有沢さん、坂本博之さんとの試合、ラクバ・シン戦など数々の名勝負がありますが、自分の中で一番思い出深い試合はありますか。

畑山:やはり坂本博之戦です。

ーーー世界チャンピオンになった試合よりもですか。

畑山:そうです。いまだに多くの人から坂本さんとの試合のことは言ってもらえますから。最高にコンディションも良かったですし、試合1週間前には60.2kgのリミットを60kg切っていたので。

ーーーいつもはそんなことなかったのですか。

畑山:ないです。いつも減量で苦労していたので。

毎日整体してもらって知り合いの飲食店で食事をして、リミットを2kgぐらいオーバーして寝るんです。それで起きたら1kg近く落ちていて、走ったらまた落ちて。そういう好循環でした。

ーーーラクバ・シン戦やジュリアン・ロルシー戦を見ていて、畑山さんが負けるはずがないと思っていたのですが、防衛戦では力を発揮できなかったのでしょうか。坂本さんとの試合はすごかったじゃないですか。

畑山:坂本さんとの試合はモチベーションも上がっていたので。言い訳のように聞こえるかもしれませんが、ラクバ・シン戦は減量がきつかったということもあって50%しか力を出せませんでした。

私のボクシング人生最後の試合となるジュリアン・ロルシー戦に関しては、相手が上手かったので仕方ないですね。

ーーー世界戦ではないですけど、コウジ有沢戦なんかはどうでしたか。地上波で中継されて、世界戦以上に注目されましたけれども。

畑山:ファイトマネーもよかったですしね。コウジとは仲もいいから言いますが、負けるわけがないと思っていたからオイシイ試合でした。

ーーーその時は自信があったわけですか。

畑山:コウジの時は負けるなんて全く思わなかったし、逆立ちしても勝てると思っていたので(笑)。実際やってみたら、コウジも強かったですが。

ーーー逆に坂本さんとの試合の時はどんな心境でしたか。

畑山:自信はありましたが、コウジ戦ほどの自信はないですよね。

パンチ力があって、スパーリングも2~30ラウンドやってますけど、もらったらやばいなっていう感覚はありました。

ーーースパーリングでもパンチは強かったんですか。

畑山:海外選手も含めて一番強かったです。

令和のボクシング界

ーーー平成の時代を作ったボクサー畑山さんは、令和で活躍されている井上尚弥選手についてどう思いますか。

畑山:チャンピオンの先輩方もみんな言っていますが、日本の最高傑作ですよ。

日本もボクシングの層が厚くなっていて、小学生からやっている選手なんかも多くて。そういう面では日本のボクシングのレベルは上がっているんだと思います。

ーーー今は2階級、3階級制覇が当たり前になっていますもんね。

畑山:私たちの世代では考えられないことですよ。世界タイトルを獲っても返上して次の階級とか、今の選手はすごいなと思います。

WBAとWBCしかなかった時代と比べ、今は4つの団体があって、その分チャンスは増えますから、そういう意味では今の選手がうらやましいです。

でも実際、日本のボクシングレベルは、我々の頃から比べたら数段上がっていると思いますね。

ーーー年々レベルが上がってきていますよね。残念ながら人気でいうと畑山さんの頃に比べ、視聴率なども遠く及びませんが。

畑山:ファイティング原田さんの時代とか、その頃に比べたら私たち世代の人気も半分以下でしょう。これは娯楽が増えているから仕方のないことです。

これからは、いわゆるペイパービューのような放送局をつけてやっていく時代ですから、地上波でボクシングを見る機会も少なくなるかもしれません。

ーーー引退後に会えて嬉しかった人はいますか。

畑山:長嶋茂雄さんです。2000年の7月に横浜スタジアムで、巨人対横浜ベイスターズ戦の始球式をやった時に紹介してもらったんです。

その後、坂本さんとの試合が終わった後に、日米野球で始球式やった時に再度声を掛けてくださって。野球少年だった私にとって神様みたいな人に2回もお会いできて本当に嬉しかったです。

ーーー最後にこれからの夢を聞かせてください。

畑山:私も竹原さんと一緒にジムを経営している立場ですから。私たちのジムの選手を育てて、日本チャンピオンでもいいから、チャンピオンをつくることが夢です。