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年末のボクシング 階級を上げて進化した京口紘人がマカオでタイトル奪取

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
ブドラーにパンチを打ち込む京口 提供:Sumio Yamada

 平成最後の年末はボクシングが大いに盛り上がった。30日はフジボクシングで拳四朗が5度目の防衛に成功し、井上尚弥の弟の井上拓真が世界初挑戦で空位のバンタム級の暫定タイトルを獲得した。そしてメインは、アメリカ帰りの伊藤雅雪が凱旋試合をKO防衛で締めくくった。

 日本で行われたトリプル世界戦は3連勝となったが、31日に中国のマカオで行われたトリプル世界戦は厳しい結果となった。

 大学院ボクサーの坂本真宏は、IBF世界フライ級タイトルマッチ王者のムザラネに10回TKOで敗れた。そして、メインイベントの井岡一翔は、2-1の判定で惜しくも敗戦。日本人初の4階級制覇には至らなかった。

 唯一勝利したのは、2階級制覇を目指してライトフライ級王座に挑んだ京口紘人だった。京口は減量苦から階級を上げて、元スーパー王者のヘッキー・ブドラーに挑んだ。

ボクシングの細かく分かれた階級

 ボクシングは細かく階級別に分かれている。一番下のミニマム級は、47.6kgだ。今回、京口が挑んだライトフライ級はひとつ階級が上がり48.9kgである。そこから軽量級は2キロ前後刻みで体重が上がっていき、無差別級のヘビー級まで17つの階級に分かれている。

 ボクシングでは1つ階級が上がるだけで、体格やパワー、戦略など大きく変わってくる。そのため選手はトレーナーと相談しながら、自分の適正階級を見定めて階級を選定していく。ここで非常に難しいのは、選手の体の成長に合わせての階級変更だ。

ボクサーと減量の難しさ

 ボクサーは常に減量と戦っている。試合をするためには、前日に行われる計量にクリアしなければならない。100g単位で体重を調整して、キツイ減量を乗り越えてリングに上がる。体重がキツければ階級を変えればいい、と思われるがそんなに簡単な話ではない。

 特にタイトルを保持しているとそれも難しい。ボクサーにとってチャンピオンは夢である。念願のタイトルを獲得したら、世界チャンピオンで居続けるためには毎回挑戦者を迎えて防衛戦を戦わなければならない。

 今回の京口もミニマム級でタイトルを獲得して2度の防衛を果たしてきた。パワーがあり体格も大きいので、その階級にとどまるのはきつかっただろう。現に2度目の防衛戦ではダウンを喫し苦戦を強いられている。

 また、若い時は体がどんどん成長していく。初めは適正階級だと思っても、過酷な減量とトレーニングを繰り返していく事で、体は成長していき大きくなっていく。そのため、減量もどんどんきつくなっていく。体の成長に合わせて階級を変更していくのがベストだが、次のチャンスがいつ来るかは分からない。一度手にしたタイトルを簡単に手放すわけにもいかないだろう。

 今回、京口は的確なタイミングで階級を上げてチャンスを得た。タイトルの保持も大事だが、自分のパフォーマンスを一番発揮できる階級で戦うために階級を上げた。

減量苦から解放された京口のパワー

 ミニマム級から階級を上げた京口は、見違えるように動きが良かった。階級を上げた事でパワーが増し、スタミナの心配もなくなる。そのため、序盤から王者のブドラーにプレッシャーを掛けていった。

 パワーがある京口のようなタイプは、階級を上げることがプラスになる。ミニマム級の時に比べて迫力があり、強いパンチを打ち込めていた。ボディもあたり、王者のブドラーもその圧力を感じているようだった。

 序盤はブドラーのやりにくさに手を焼いているようだったが、徐々にボディが効いてきてペースを握っていった。9Rにはダウン寸前まで相手を追い込み、KO勝ちもあるのでと思わせた。そして10回終了後に相手陣営が棄権を申し出た事で、京口は2階級制覇を達成した。同門の田口良一から奪ったベルトを取り返して雪辱を果たした。

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楽しみなライトフライ級

 京口が勝利した事で、年末の試合で2人の王者が追加され日本の世界王者は7名となった。その中で同階級に王者がいるのは、バンタム級とライトフライ級となる。バンタム級は井上兄弟がベルトを保持しているため兄弟対決は考えにくいが、ライトフライ級は統一戦の期待も高まる。

 WBC王者の拳四朗は30日に5度目の防衛戦に勝利している。アマチュア時代でライバルだった両者の戦いが、プロでも実現するかもしれない。京口自身も「チャンピオンになれば統一戦で必ずやる」と意識しているようで、実現に向けて前向きだ。すぐの対戦は現実的ではないが、お互いに防衛し続ければ、近い将来対戦する事になるだろう。活性化するボクシング界だが、軽量級のこの2人が主役となって、大いに盛り上げていってほしい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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