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エリザベス女王の国葬でチャールズ国王とヘンリー公爵に和解の兆し

木村正人在英国際ジャーナリスト
エリザベス女王の死は2人の関係を修復できるのか(葬送行進で筆者撮影)

[ロンドン発]在位70年、96歳で亡くなったエリザベス女王の墓標が9月29日からウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂で公開されている。墓標には両親のジョージ6世、クイーンマザー(エリザベス王太后)、長年連れ添ったフィリップ殿下とともにエリザベス2世の名が刻まれている。

9月23日にチャールズ国王が英国政府や英連邦王国から送られてくるレッドボックス(赤色の箱)の書類に目を通す写真が英王室のツイッターにアップされた。27日にはウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃がウェールズを訪れる様子が投稿された。エドワード王子の妻ソフィー夫人も28日、フィリップ殿下の公務だった名誉連隊長の役割を引き継いだ。

チャールズ国王の即位を祝う5ポンドと50ペンス記念硬貨の発行も発表された。「現役王族」としてチャールズ国王とカミラ王妃、ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃、アン王女、エドワード王子とソフィー夫人が公務の中心を担っていくことがうかがえる。葬送行進で軍服着用が認められなかったヘンリー公爵とアンドルー王子は「引退王族」扱いだ。

英大衆紙サンによると、ヘンリー公爵とメーガン夫人は女王の死去を受け、数百万ポンドの契約を結んだストリーミング大手Netflix(ネットフリックス)の番組を大幅に編集するためリリースを来年まで遅らせるよう手配した。「Netflixは12月の番組配信を希望しているが、王室と自分たちの関係をより和やかに見せるため番組を編集するとみられる」(サン紙)

サン紙によると、女王が亡くなった日にメーガン夫人が加わることを拒まれたヘンリー公爵はウィリアム皇太子、アンドルー王子、エドワード王子と一緒にスコットランドに向かう空軍のフライトも欠席。スコットランドのバルモラル城でのチャールズ国王とウィリアム皇太子との夕食をすっぽかしたという。王室離脱の傷跡は深い。

ヘンリー公爵とメーガン夫人にバッキンガム宮殿で行われた国賓レセプションの招待状が間違って送られた。招待されたのは「現役王族」だけで「引退王族」の2人は招待されていなかった。自動的に「王子」と「王女」になると考えられていた長男アーチーちゃんと長女リリベットちゃんの称号は「マスター」と「ミス」のまま残され、複雑な波紋が広がった。

王室サイトでは中位から最下部に降格させられ、2人より下は未成年者性交疑惑のアンドルー王子のみとなった。家族ではあっても王族の中での序列は冷徹だ。しかし2人はウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃とウィンザー城の外に出て追悼のため駆けつけた市民に感謝の気持ちを示した。女王の国葬ではチャールズ国王とカミラ王妃の後ろに座った。

ヘンリー公爵とメーガン夫人は、離婚歴のある米国女性ウォリス・シンプソンと結婚するため国王を退位したエドワード8世のように王室とは距離を置いた人生を送るのか、それとも再び距離を縮めるのか、女王の死と国葬が関係修復のきっかけになるかもしれない。

サン紙は和解の兆候を5つ挙げている。

(1)「ファブフォー(ウィリアム皇太子、キャサリン皇太子妃、ヘンリー公爵、メーガン夫人の4人)」の復活

(2)国葬での着席位置

(3)ヘンリー公爵とメーガン夫人がほぼ3週間子供に会っていないにもかかわらず英国滞在を延長した

(4)葬送行進では許されなかった軍服着用を弔問の際、ヘンリー公爵に認めた

(5)チャールズ国王が即位の際、わざわざ「海外で人生を歩むハリー(ヘンリー公爵の愛称)とメーガンに私の愛を伝えたい」と表明した

保守系高級紙デーリー・テレグラフによると、女王の国葬で残された王族が団結を示すことができたため、チャールズ国王は「大きな希望の光を見た」と周辺に漏らした。ヘンリー公爵とメーガン夫人との間にできた溝を修復できると信じているようだ。王室関係者は「国王が2人の王子を愛していることに変わりはない。将来、団結の希望がある」と話している。

チャールズ国王はヘンリー公爵が英国に滞在している時はいつでも一緒に食事をするようオープンに接するよう努めている。デーリー・テレグラフ紙は「国王がヘンリー公爵と2人きりで過ごした時間があったとしても、どの程度だったかは不明だが、2人の関係の現状を肯定的にとらえようと決意しているようだ」と伝えている。

ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂にあるエリザベス女王の墓標(バッキンガム宮殿のツイッターより)
ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂にあるエリザベス女王の墓標(バッキンガム宮殿のツイッターより)

王族がウェストミンスター・ホールで女王の棺を弔問した際、「引退王族」のヘンリー公爵とアンドルー王子に軍服着用を認めたのはチャールズ国王の要望だったと報じられている。チャールズ国王がメディアを通じて、ヘンリー公爵に関係修復のメッセージを送っていることだけは確かなようだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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