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ロシア軍ドローンにソニー製ビデオカメラと斎藤製作所製エンジン 日本も露の秘密調達網を規制せよ

木村正人在英国際ジャーナリスト
ウクライナで回収されたロシア軍の兵器(6月、キーウで筆者撮影)

■ロシア軍の近代化は西側のマイクロエレクトロニクスに依存

[ロンドン発]「榴弾砲などの着弾観測に使われるロシア軍の無人航空機(ドローン)『オルラン10』のビデオカメラはソニー製でスムーズなズームアップで攻撃目標を確認できる。動力源には日本の模型用エンジンメーカー、斎藤製作所製のエンジンが使われ、航続距離は最大で120キロメートルにも達する」――。

ロシア製兵器の近代化は日本をはじめ、アメリカ、台湾、韓国、スイス、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ製のマイクロエレクトロニクスに依存していることが8日、英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)の報告書で明らかになった。ロシアのウクライナ侵攻が西側の最先端技術に支えられていた実態が改めて浮き彫りになっている。

報告書のタイトルは『シリコンの生命線 ロシアの戦争マシンを支える西側エレクトロニクス』。RUSIのオープン・ソース・インテリジェンス&アナライズのジェームズ・バイン部長や陸戦の専門家ジャック・ワトリング上級研究員ら6人がロシアの侵攻後、ウクライナで使用されたり捕獲・回収されたりしたロシア製兵器の膨大なデータや露政府の内部資料を分析した。

報告書は「侵攻は計画通りには進んでおらず、ロシア軍を急速に劣化させる消耗戦と化している」と指摘する。ロシア軍の巡航ミサイル、通信システム、電子戦複合体など27の最新軍事システムの構成要素と機能を検証した結果、「適切な手をとればロシアの軍事力を恒久的に劣化させることができる」と結論付けている。

■80種類の部品がアメリカの輸出規制対象

「数十年、数十億ドルをかけたロシア軍の近代は西側製のマイクロエレクトロニクスを広範囲に使用していた」(報告書)。RUSIが27の最新軍事システムの構成要素を調べたところ、450種類以上ものユニークな外国製部品を発見。その大半は米軍向けの高度なマイクロエレクトロニクスの設計・製造で長年定評がある米企業によって製造されていた。

うち80種類以上の部品がアメリカで輸出規制の対象となっており、ロシアの軍産複合体がアメリカの輸出規制を巧みに逃れてきたことが浮かび上がる。ロシアはウクライナで巡航ミサイルや弾道ミサイルの精密兵器や装備を大量に消耗したため、西側による制裁措置と輸出規制をくぐり抜けて重要部品の調達を試みた。

しかし、この方法は実行不可能なことが判明。ロシアの特務機関は第三国の積み替え拠点や秘密ネットワークを使って西側マイクロエレクトロニクスへのアクセスを確保しようと新ルートの構築に躍起になっているという。

近年、ロシアは香港などの積み替え拠点にある大規模なマイクロエレクトロニクス販売業者に依存し、大量に製品をロシア国内に持ち込み続けている。

「マイクロエレクトロニクスの第三者販売業者や卸売業者は香港など中間的な管轄区域で事業を行うことが多く、ロシア向けの部品がロシア国外に拠点を置く取引主体を通じて合法的に供給されることもある。しかし第三国は実際の輸出者やエンドユーザーを不明瞭にすることで製品や部品を移動させようとする調達代理人によってしばしば利用される」

報告書は「ロシアの秘密調達網とその代理人は、大規模なマイクロエレクトロニクス取引産業と管理の緩い管轄区域にその業務の基盤を置くことが多い」と指摘している。

■英研究員「西側の専門部品の多くは注文生産だった」

RUSIのジャック・ワトリング上級研究員(筆者撮影)
RUSIのジャック・ワトリング上級研究員(筆者撮影)

ワトリング氏は筆者にこう打ち明ける。例えばロシア軍の巡航ミサイル9M727。ロシアの最新兵器システムの一つで、低高度で目標まで移動でき、かなり高い精度で攻撃できる。そのコンピューター部品を調べたワトリング氏は「西側の専門部品の多くは注文生産だった。商品棚から買える既製部品ではなく、非常に特殊な専門部品であることが分かった」と語る。

9M727はさまざまな慣性センサーやアクティブセンサー、コマンドリンクからデータを取り込み、ミサイルの制御面を操作するための指示に変換できるコンピューターを搭載している。コンピューターはA4サイズの紙とほぼ同じ大きさで、ミサイルが加速する際の圧力とシステムに加わる熱に耐えられる熱シールドの中に収められていた。

データを伝達する7つのソケット取り付けポイントのうち1つは旧ソ連時代の設計でロシア製。残り6つはすべてアメリカ製だった。基板をコンピューターの筐体(きょうたい)に取り付けるレールはアメリカ製に酷似しており、基板そのものはアメリカ製だった。ワトリング氏が調査の範囲を広げると、西側製品を使っているのは9M727だけではなかった。

ウクライナ軍の研究所も戦場から回収したロシアの主要兵器を調査していた。ロシア軍の精密兵器の根幹をなす多連装ロケットランチャーの9M949誘導300ミリメートルロケットも慣性航法のためアメリカ製光ファイバージャイロスコープを使用していた。世界で最も強力な露短距離防空システムのTOR-M2もイギリス設計の発振器を使っていた。

商業的に調達できる民生用電子部品もあったが、多くは規制対象になっている限定的なサプライヤーの軍事技術や特殊技術だった。

■「西側の先端技術がウクライナの人々を殺している」

ロシア大統領府は侵攻後の3月中旬に省庁間委員会を設置し、ロシアの国防装備について国内で生産できるもの、「友好国」から入手できるもの、最終的に重要部品を調達する 秘密調達網を調査していた。西側メディアが報じたロシア側の中国製軍事機器への要求は弾薬と複合兵器の継続的製造に必要なマイクロエレクトロニクス部品の2つとされる。

ロシアの特務機関はデュアルユース技術を第三国経由でロンダリング(洗浄)する仕組みを確立している。ロシアの巡航ミサイルや弾道ミサイルのコンピューター部品の多くはロシア宇宙計画の民生用として調達されている。

ロシアの要求を満たすためリスクを負うことを厭わない企業はチェコ、セルビア、アルメニア、カザフスタン、トルコ、インド、中国などに無数に存在する。ワトリング氏に「西側には冷戦時代のココム(対共産圏輸出統制委員会)のような仕組みが必要か」と尋ねると「輸出品の監査が必要だ。こうした先端技術が今ウクライナの人々を殺している」と答えた。

冷戦時代、アメリカや日本など自由主義陣営は、共産圏諸国に対する戦略物資の無制限な輸出は自由主義陣営の安全保障に悪影響を及ぼす恐れがあるとの判断から輸出規制の必要性を認めた。各国バラバラに実施するより協議で申し合わせた一定の基準により実施した方が適切だとして1949年にココムが設立された。

■ロシアは軍備を中国にますます依存するようになる

報告書『シリコンの生命線』はこう締めくくる。「ロシアの精密兵器の再備蓄を許さないためには、制裁強化が不可欠だ。軍事目的の西側マイクロエレクトロニクス調達には偽のエンドユーザー証明書、フロント企業、積み替えが利用されていた。ロシアがウィーン条約を悪用して偽装調達した部品を移動させるのを防ぐには継続的な警戒が必要となる」

各国政府は(1)自国や管轄区域における既存の輸出規制を見直して強化(2)ロシアの秘密調達網を特定し、閉鎖するために多国間で協力(3)最先端のマイクロエレクトロニクスがロシアを支援する国でライセンス生産されるのを阻止(4)第三国および管轄区域が規制対象品のロシアへの再輸出または積み替えを行うのを阻止する――必要がある。

報告書は「ロシアは秘密調達網を遮断される前に、できる限りのものを大量に調達しようと必死になっている。今こそ行動を起こすべき時だ」と呼びかける一方で、「シリコンの生命線を遮断されれば、ロシアは軍備を中国にますます依存するようになるか、紛争時に劣勢に立たされ、早期に戦術核使用にエスカレートするようになる恐れがある」と注意を促す。

さらに「インドのように国防輸入の45%をロシアから調達している国にとって、ロシアの装備品へのアクセスが途絶えることは安全保障上の脅威となる。西側がこれらの国に建設的な提案を行うことができればチャンスとなる」と安全保障の空白を埋めることを通じて自由と民主主義のウィングを広げることを提案している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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