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コロナ規制破りの誕生パーティーで首相と財務相に罰金8千円 英国の迷走さらに深まる

木村正人在英国際ジャーナリスト
罰金を科せられたジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■75%が「首相は責任逃れのため故意にウソをついた」

[ロンドン発]2020~21年に新型コロナウイルス感染防止の厳格な接触制限が敷かれる中、英首相官邸やホワイトホール(官庁街)でコロナ規制に違反するパーティーが恒常的に開かれていた問題で、12日、ボリス・ジョンソン英首相とキャリー夫人、リシ・スナク財務相らに罰金が科せられた。現職首相が法律違反で罰せられるのは前代未聞だ。

イギリスのコロナ死者は欧州最悪の約18万9千人にのぼり、ごく最近まで1日200人を超える死者を出していた。ジョンソン、スナク両氏は自らの振る舞いを謝罪したものの、野党や有権者からの辞任要求は拒否している。コロナ遺族会は「首相も財務相も仕事を続けられるわけがない。本当に恥知らず」と非難している。

世論調査会社YouGov(ユーガブ)の調査では57%がジョンソン、スナク両氏は辞任すべきだと答え、75%は「ジョンソン氏は(パーティーに参加した責任を逃れるため)故意に嘘をついた」とみなしていた。与党・保守党支持者ではジョンソン氏は辞任すべきだと考える人の割合はわずか25%だったが、3月8日の17%から8ポイントもハネ上がっている。

英メディアによると、3人は2020年6月19日、首相官邸閣議室で開かれたジョンソン氏の56歳の誕生会に参加。最大で30人が集まった。当時、学校や小売店が再開されるなど最初のロックダウン(都市封鎖)が段階的に解除されていたが、業務上「合理的に必要な場合」を除き、屋内集会は禁止されていた。

罰金は最低100ポンド(1万6300円)で、2週間以内に支払えば50ポンドに減額される。

■「首相は誕生ケーキに待ち伏せされただけ」

この誕生会では、キャリー夫人の企画で英国旗ユニオンジャックをあしらったケーキが用意されていたという。疑惑発覚後、首相側近の北アイルランド担当相は「ジョンソン首相はスタッフが執務室に入ってきて誕生ケーキをプレゼントする前に、仕事をしていたと聞いた。彼はある意味、ケーキに待ち伏せされただけだ」と擁護した。

これに関連して「大統領はケーキに待ち伏せされたことはあるか」と質問されたジョー・バイデン米大統領のジェン・サキ報道官は「バイデン氏はケーキに待ち伏せされたことは一度もない」と吹き出すように答えたことがある。

一連のパーティー疑惑でロンドン警視庁は12件の飲み会を捜査。前回と今回で50以上の罰金を科し、今後さらに増える見通しだ。

首相官邸や一部の官庁街では秘密保持を理由にアフター5に職場にアルコールやスナックを持ち込んで懇談する「飲み文化」があった。パブで飲むと機密情報が漏れる恐れがあるからだ。しかし、コロナで亡くなった家族の葬儀も制限されるなど、市民に厳格な規制を強いる一方で、自分たちは職場で平然と「飲み文化」の慣行を続けていたことに市民の怒りが爆発した。

「ガイドラインは守られている」と強弁し続けてきたジョンソン氏は「短い集まりが規則違反であるとは思いもよらなかった。多くの人が感じる怒りは理解できる。私が率いる政府が国民を守るために導入した規則を、私自身が守れなかった。英国民の優先事項を実現しなければならないという義務感をさらに強く感じている」と述べた。

■首相に連座させられた財務相

一方、「パーティーには出席していない」と疑惑を否定していたスナク氏は「国民の不満と怒りを引き起こしたことを深く反省している。公職にある人物は、国民の信頼を維持するために規則を厳格に適用しなければならないことは理解している。私はロンドン警視庁の決定を尊重し、罰金を支払った」との声明を発表した。

スキャンダルが続くジョンソン氏の次を担う先頭ランナーとみなされていたスナク氏を巡っては、妻のアクシャタ・マーティさんが税制上の居住地を外国(インド)にして英国外収入についてイギリスで税金を納めていないことが発覚。イギリスではこうした税法上の地位を主張している人は7万5700人にのぼる。

インド多国籍IT企業インフォシス創業者の娘であるアクシャタさんは「エリザベス英女王より資産家」と言われる。今回のパーティー疑惑で首相に連座させられる形になったスナク氏は辞任を真剣に思い悩んだと英紙タイムズが報じている。保守党のホープ、スナク氏もスキャンダルの泥沼に引きずり込まれたことで英国の迷走がさらに深まるのは必至。

ジョンソン氏は世論調査の政党支持率で最大野党・労働党に8ポイントのリードを許しており、5月の統一地方選での後退が確実視される。2024年5月に予定される次期総選挙でも苦戦が予想され、有権者の信頼を失ったジョンソン氏では選挙は戦えないと保守党内で交代を求める声が出ていた。

■政治生命の危機を生き延びたジョンソン氏

世界トップクラスの大学を擁し、世界最高水準のパンデミック対策を備えていると自負する科学立国イギリスがコロナ危機で遺体の山を積み上げてしまった原因の多くはジョンソン氏のデタラメぶりにある。しかしコロナが甚大な被害をもたらしたことが欧州連合(EU)離脱による経済的な落ち込みを覆い隠してしまった。

ジョンソン氏は25年に及んだ2人目の妻との結婚生活に終止符を打ち、24歳年下の保守党報道担当キャリー夫人と結婚。しかし、そのキャリー夫人が口出しした首相官邸の改装で高額の費用を保守党への政治献金者に肩代わりさせていた疑惑をきっかけに支持率が急落した。

さらに保守党元閣僚が報酬を受け取る見返りに業者に便宜を図っていたロビー活動疑惑が明るみに出ると議員懲罰制度を変更しようとして、議会を紛糾させ、謝罪に追い込まれた。そこにパーティー疑惑が噴出したが、ロシアのウクライナ侵攻で洗い流され、ジョンソン氏は政治生命の危機を生き延びた。

ずさんなコロナ対策で欧州最大の被害を出しながら、首相官邸や官庁街では平然とパーティーが続けられるというカルチャーはイギリスの政官のモラル喪失を如実に物語る。ジョンソン氏の言動を大目に見てきたイギリスの有権者はEU離脱、コロナ後遺症、エネルギー危機、インフレ、ウクライナ戦争でとんでもなく大きなツケを支払わされることになるだろう。

■一連のパーティーゲート

2020年5月15日、ダウニング街庭園

流出した写真にはジョンソン氏とキャリー夫人が17人のダウニング街上級スタッフとチーズとワインを囲んでいる様子が写っていた。第1次ロックダウン最中で厳格な社会的距離政策がとられ、異なる世帯の2人だけが屋外で会うことが許されていた。これまでジョンソン氏は「職場で仕事の話をしていた」と弁明。(未捜査)

5月20日、ダウニング街庭園

ジョンソン氏の首席私設秘書(元外交官)が100人以上のスタッフを首相官邸の庭園に招待する電子メールを一斉送信。「素敵な天気を最大限に活用しよう」とアルコール飲料を持参するよう指示があった。英BBC放送によると、ジョンソン氏とキャリー夫人ら約30人が参加。(捜査)

6月18日、内閣府

首相官邸私設秘書の退任記念の集い。(捜査)

6月19日、首相官邸閣議室

ITV ニュースによると、ジョンソン氏の誕生日に最大30人が集まり、首相に誕生日ケーキをプレゼントし、ハッピーバースデーを歌った。「10分未満だった」(首相官邸)という。当時、大半の屋内集会は禁止。(捜査)

11月13日、首相官邸2階など

ジョンソン氏は多くの人の前でリー・ケイン広報部長の退任スピーチを行った。この人事を巡り、キャリー夫人(当時は婚約者)と対立した首相の参謀ドミニク・カミングズ首席顧問も解任され、カミングズ氏が首相官邸からダンボール箱を抱えて出て行ったその夜、首相官邸2階でパーティーが行われた。他の世帯との屋内集会は仕事上の目的でない限り禁止されていた。(捜査)

11月27日、ダウニング街

ジョンソン氏は40~50人が出席する中、カミングズ氏に近い上級補佐官クレオ・ワトソン氏の退任スピーチを行ったとされる。(未捜査)

12月10日、教育省

コロナ対応に追われる職員の働きを慰労するための集まり。飲み物とスナックは参加者が持ち寄り、外部のゲストやサポートスタッフは招かなかった。ロンドンでは、業務上「合理的に必要」な場合を除き、異なる世帯の2人以上が屋内で会うことを禁止。(未捜査)

12月14日、保守党本部

保守党はウェストミンスターにある本部で同党のロンドン市長候補ショーン・ベイリー氏のチームが「無許可の集会」を開催。同氏はロンドン議会の警察・犯罪委員会委員長を辞任。(捜査)

12月15日、ダウニング街

英大衆日曜紙サンデー・ミラーが、首相官邸図書館でジョンソン氏と首相を取り囲む同僚の写真をスクープ。クイズが行われ、多くのスタッフがダウニング街のオフィスでコンピュータのそばに集まり、問題について相談したり、アルコールを飲んだりしていた。首相官邸人事部長が送ったメッセージにはクイズに参加した者は「帰る時は裏口から出て行け」と指示されていた。(未捜査)

12月16日、運輸省

オフィスでのパーティー。ロンドンは最高レベルの規制に移行。

12月17日、内閣府、首相官邸

パーティー疑惑の調査を担当していたサイモン・ケース内閣官房長官がプライベートオフィスの約15人に「クリスマスクイズ」と題した電子メールを送信した後、パーティーを開催。内閣府ではコロナ規制を策定したタスクフォースメンバーの退任パーティーが開かれ、首相官邸でも関係者の退任の集いが開催された。(捜査)

12月18日、ダウニング街

ダウニング街のスタッフが40~50人集まり、クリスマスパーティーを開催したとされる。ジョンソン氏は出席せず。(捜査)

2021年4月16日、ダウニング街の地下

首相官邸の報道部長ジェームズ・スラック氏と首相の私設フォトグラファーの退任式でアドバイザーや官僚が首相官邸の地下や庭園でアルコール飲料を飲み、ダンスする。フィリップ殿下の葬儀の前夜、ダウニング街の異なる場所で行われた2つの集まりに30人が参加。屋内では他の世帯の人と交流することは禁止され、屋外での会合は6人以内、2世帯までと限定されていた。(捜査)

5月26日、首相官邸

スラック氏の正式な退任イベントが首相官邸で開かれ、十数人が出席したとされる。

(BBCや英大衆紙デーリー・メールなどをもとに筆者作成)

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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