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日立の鉄道車両 亀裂100件超す? 溶接部に問題か 混乱「数週間」続く 英鉄道メディアが指摘

木村正人在英国際ジャーナリスト
日立製作所の英高速鉄道車両クラス800(写真:Splash/アフロ)

[ロンドン発]8日、日立製作所が製造した英都市間高速鉄道車両クラス800シリーズのジャッキングポイント溶接部に「深刻な」亀裂が見つかった事故で、緊急点検の対象になるのはグレート・ウエスタン鉄道(GWR)とロンドン・ノース・イースタン鉄道(LNER)など運行会社5社計1456車両にのぼり、不合格は99件に達したと英鉄道専門メディア、レールビジネスUKは報じています。運休と遅延は数週間続く見通しです。

ワクチン接種が進むイギリスは6月中の正常化に向け、ロックダウン(都市封鎖)を段階的に解除しているものの、ロンドンとスコットランド、ウェールズ間の乗客はパンデミック前の30%程度。このため運行会社は仏アルストム製の代替車両や長距離バスを使って路線を再開させる予定です。英政府は日立に対し乗客への補償として数百万ポンド(数億円)を請求する方針です。

日立製作所鉄道部門の欧州拠点、日立レールは筆者の電子メールでの問い合わせに一切答えていません。レールビジネスUKの報道を見ていきましょう。

クラス800シリーズのうち電気専用の車両クラス801では亀裂はそれほど見つからず、問題はディーゼル・電気両用のハイブリッド車両に集中しているようです。スコットランドの運行会社スコットレールに納入され、2018年7月から運用されている日立製近郊輸送用車両クラス385でも10件の亀裂が見つかったそうです。クラス800シリーズ、クラス385の車両はいずれもアルミニウムでつくられています。

ジャッキングポイントとは車両を整備するためジャッキで地面から持ち上げる箇所です。運行が停止されたのは車両の部品が亀裂により落下して線路や駅プラットフォームの人に危険を及ぼす恐れがあるからです。クラス800シリーズは摩擦攪拌溶接技術を使って組み立てられており、アルミニウムの溶接部を修復できる施設は限られています。さらに溶接の際生じる大電流による損傷を防ぐ必要があるそうです。

クラス800シリーズでは4月11日にも安定増幅装置ヨー・ダンパーに深さ最大15ミリメートルの亀裂が見つかり、修理したばかり。このとき亀裂は8件見つかったそうです。

亀裂が見つかったシリーズは日立製作所の笠戸事業所(山口県)と英北部ニュートン・エイクリフの車両工場で製造されており、溶接が均一に行われていなかった恐れもあります。クラス800シリーズの車両には神戸製鋼所がデータを改ざんしていたアルミニウムが使われていますが、当時、日立関係者は「きちんと検証をしており、安全性に問題ない」と説明していました。

鉄道関係者によると、営業運転開始から2~3年で亀裂が立て続けにこれだけ広範囲で見つかるのは本来あり得ません。ヨー・ダンパーのような台車で亀裂が見つかれば日本では「鉄道重大インシデント」に当たります。車両本体に亀裂が入ることはまずないそうです。クラス800シリーズは最高時速200キロメートルで走行するので、亀裂が広がれば大事故につながりかねません。

日立製作所と日立レールは原因が分かり次第、すぐに記者会見する必要があるのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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