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ユニクロや無印良品は板挟み? 新疆ウイグル自治区の綿花巡り中国と欧米がボイコット合戦

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国・新疆ウイグル自治区で栽培される綿花(写真:ロイター/アフロ)

H&Mやナイキ「同自治区産の綿花は使用せず」

[ロンドン発]中国・新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧を巡る欧米と中国の応酬が激化しています。同自治区産の綿花の使用を中止しているH&Mやナイキなど有名グローバルブランドに対し、中国のネチズンがSNS上で不買運動を呼びかけ、オンライン市場から製品が削除される事態に発展しています。

2012年の日本による尖閣諸島国有化を巡っては「中国政府と国民は主権と領土問題では絶対に譲歩しない」と反日デモや破壊活動に発展したことがあります。しかし、今年夏に東京五輪・パラリンピックを控える日本は中国の協力が欠かせないため、政府も企業も、中国との対立を深める欧米とは距離を置いています。

スウェーデンのファッションブランド、H&Mは昨年3月「新疆ウイグル自治区における強制労働の告発や少数民族の差別を含む市民社会やメディアからの報告を深く憂慮する。国や地域を問わず、サプライチェーンにおけるいかなる強制労働も固く禁じている」との声明を出しました。

同自治区は中国最大の綿花の産地で、これまで、サプライヤーはスイスに拠点を置く国際NGO(非政府組織)「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」が環境基準や労働基準が守られているかどうかをチェックして証明書を発行した農場や工場だけから綿花を調達してきました。

しかし、この地域で信頼できる調査を実施するのが難しくなってきたとして、BCIは証明書の発行を一時停止しました。これを受けて、H&Mは同自治区産の綿花の使用を取りやめました。

スポーツブランドの米ナイキも「新疆ウイグル自治区での強制労働の報告を懸念している。同自治区からは製品を調達しておらず、サプライヤーにこの地域のテキスタイルや紡績糸を使用していないことを確認している」と表明しています。

「新疆ウイグル自治区に強制労働はない」

これに対して、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は「労働者には十分な報酬が支払われ、無料の宿泊施設まで提供されている。しかも綿花を摘む作業は最近では機械化されている。“新疆ウイグル自治区には強制労働はない”というBCI上海事務所の結論をBCIの本部が覆した」と反発しています。

中国のネチズンがSNS上で「私は新疆ウイグル自治区を支持する」「中国でカネを稼ぎながら、誹謗中傷するのはやめろ」とキャンペーンを展開し、グローバルブランドへの不買運動を呼びかけています。中国企業からはサプライチェーンへの出資を増やして欧米主導の業界基準を変更せよという声も上がっています。

バーバリーは昨年10月、同自治区産の綿花の使用を一時停止しました。「13億人の妹」と呼ばれる中国の人気女優、周冬雨さんは25日、バーバリーとのブランド大使契約を終了しました。バーバリー・チェックはテンセントゲームズの人気ビデオゲーム「王者栄耀」のキャラクターの衣装からも削除されました。

同自治区産の綿花の使用を停止したグローバルブランドの製品はオンライン市場から削除されています。

30人以上の中国の有名人がBCIのメンバーになっているグローバルブランドとの契約を終了すると発表しました。この中にはユニクロと契約している有名人もいました。

全米プロバスケットボール協会(NBA)のヒューストン・ロケッツでプレーしたことがある中国バスケットボール協会(CBA)の周琦選手もSNS上でナイキがスポンサーのジャージを脱いだと述べました。

ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングは昨年8月、「いかなる人権侵害も容認しない。国際労働機関(ILO)の基準に沿って『生産パートナー向けのコードオブコンダクト』を制定し、生産パートナーにはこの内容に準拠した企業とのみ取引を行うことを求めている」と表明しています。

その一方で、新疆ウイグル自治区で製品を生産しておらず、地元の繊維工場に製品を下請けに出していないと述べるにとどまりました。

今回の騒動で、環境時報は「無印良品やMUJIブランドで知られる良品計画が新疆ウイグル自治区の綿花を使用していることを明らかにした」と報じています。

今後、同自治区産の綿花をボイコットするのかしないのか、中国と欧米の間で日系企業の綱引きが激しくなる可能性があります。

82のグローバルブランドに疑惑

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の調査では、2017~19年、新疆ウイグル自治区から少なくとも8万人のウイグル族労働者が送り込まれた9省27工場を特定。H&M、アディダス、ナイキ、アマゾン、アップルなど有名な82ものグローバルブランドのサプライチェーンの一部に組み込まれていたそうです。

日本企業ではユニクロ、日立、三菱、東芝、パナソニック、シャープ、ソニー、TDK、ミツミ電機、液晶大手のジャパンディスプレイ、任天堂の名が含まれていました。

中国共産党は17年以降、ウイグル族やトルコ系イスラム教徒の少数民族100万人以上を新疆ウイグル自治区最西端にある「再教育キャンプ」に収容。同自治区への支援やイスラム過激主義との闘いを口実に宗教と文化の浄化と中国共産主義への政治的教化を進め、場合によっては拷問を行っているとされています。

中国・青島の韓国系製靴工場には07年以降、新疆ウイグル自治区から少数民族労働者約9800人が送られ、ナイキブランドのシューズを年間700万足製造。労働者は夜間学校に通って中国語を学び、中国国歌を歌うなど「職業訓練」と「愛国教育」を受けていたそうです。

米紙ワシントン・ポストに掲載された写真では、工場には監視塔が設けられ、有刺鉄線で囲まれていました。労働者は工場の周りを自由に歩くことはできたものの、顔認識カメラを設置した警察によって監視され、工場内では労働者のイデオロギーと行動が注意深くウォッチされていました。

ファーストリテイリングはASPIの報告書でユニクロと関連付けられた企業2社とは取引がないと反論しています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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